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スチャダラパー『WILD FANCY ALLIANCE』(1993)

アルバム情報

アーティスト: スチャダラパー
リリース日: 1993/2/21
レーベル: Ki/oon(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は63位でした。

メンバーの感想

The End End

 まずトラックがすごくすごく良い!ブレイクビーツ、リズムのクオンタイズが緻密過ぎないのも良いし、量子化ビット数とサンプリングレートが高すぎなくて、かつ波形を切り刻むことによるエイリアスノイズが付加された音にしか無い魅力というものが、ある。サンプリングって“完成された”音源のコラージュで、色々な空間の反響だったりコンプのかかり方がごちゃ混ぜになっているから面白く聴こえるのだと思う。
 リリックは全体的にあまり好みではないのだけど、それでもところどころ笑わされちゃう。悔しい。思慮深さが軽薄、というと悪口みたいだけど、意図の有無にかかわらず、その聴いていて力が抜けるようなムードが魅力なのかもしれない。

桜子

 言葉選びはちょっとおバカっぽくて可愛いからヘラヘラした気持ちで聴いてしまうけど、反省したくなるような芯食った事言ったりするからドキッとする。
 あの頃の下校の時の会話のような軽さでラップを聴けるのが嬉しい。
 言わなくても良い事を反射神経で話せるのは楽しいから。

俊介

 文化系ヒップホップの先駆者としても兼ねてよりすごいとおもってたけど、そもそものネタ使いのセンス飛び抜けすぎ。この曲のここ使うんだとか、そもそもこの曲でビート作れるんだみたいな新鮮な驚き沢山。
 「ヒマの過ごし方」みたいなドープなビートをアタマに持ってくるのも粋な感じがしてGood。
 マッチョじゃなくても、家庭環境が不遇じゃなくても大手を振ってヒップホップ聴ける世界作ってくれてありがとう(т-т)

湘南ギャル

 サマージャムのアルバムはちょくちょく聴いていたけど、こちらも負けず劣らず良い。サウンドの成熟加減でいったらそりゃ後発の5th WHEELには劣るけど、こっちのおちゃらけ度と言ったらすごい、もちろん良い意味で。7,8曲目とか、歌詞だけ見てもめちゃくちゃおもしろい。学校へ行こう!で流れてV6が爆笑してるワイプが目に浮かぶ。そんな話は無いんだけど。おもしろいから聴いてたらサウンドのかっこよさに気付いて、そんで似てるの探しに行ったらすぐ隣にトライブとデラソウルが待っててくれる訳でしょ?そんなヒップホップとの出会い方があったら素敵すぎる。
 ついでに自分語りもしちゃおう。小さい頃から、調味料を裏返して片っ端からラベル表記を読んでみたり、ジグソーパズルをひっくり返して形だけを頼りに作ってみたり、とにかく暇と付き合ってきた。幼少期からの鍛錬のおかげか今では暇が大好きになり、暇さえあれば暇を見つけている。だから、2曲目は本当に良かった。何らかの結果を(それも他人にも見える形で)残さない者は人に非ズ、みたいな風潮は年々酷くなっている気がする。その風潮に対するプロテストとして、私だけは何も成し遂げずに生き抜いてやろうと思っている。他にもヒマ人の方がいらしたら一緒に立ち上がりましょう、こんな曲でも流しながら。

しろみけさん

 チルどころじゃない。「ヒマの過ごし方」みたいなコンシャスラップも可能なんだ。自分はヒマを作るのもやるのも下手なので、ストレートに羨ましいし食らってしまった。レイジーなビートの上で、語りとラップの隙間を挑発するように縫うBoseのフローが終始気持ちいい。肩の力が抜けると言えばそうなのだが、スチャダラパーに関しては肩の力を入れる回路がそもそもないようで、もう超能力者とか新人類(自分が生まれた時にはすでに死んでいた言葉)のようにしか思えない。ヒマを楽しむ才能が迸っている、いやケツを掻きながら寝ている…。

談合坂

 ビートをなくしたらそのまま普通の語りとして成立してしまいそうな気楽さなのに、同時にノリまくれるラップでもある。ビートのベースになってるジャズの空気感なんかもすっ飛ばして日本の日常風景ができあがっているのがすごい。背負わないことが逆にスタイルになっているような印象。
 これ以上何を言っても自分の浅さに向き合うことになりそうなので下手なコメントができずにひたすら曲を聴いてノリまくってるけど、それもまた正解でいいのかもしれない。

 『軽快なラップの掛け合いが心地よい。「暇」をテーマにした曲が多かったり、暑さにやられて思考や会話が色んな方向に飛んでいったり、夏休みのあの楽しさと停滞感と無為さと心地よさとが襲ってくる。「サマージャム」が無くても夏がフィードバックする。トラックもダブっぽい質感が夏の気だるさを推し進めている。レコードのかっこいい所をループさせて楽しくエフェクトかけてみたぜ、みたいなルーズさが漂っているし、そしてそのルーズさは余裕のあるかっこ良さに繋がる。そんな最高のラップアルバムで日本語ラップの先駆者としての貫禄がある。』って書きたい。書きたかった。
 勿論、このアルバムの11曲目まではこういう聴き方で最大限楽しむことができる。ただ、ラストトラック「彼方からの手紙」で全ての聴こえ方が変わる。夏の夕方に少し涼しくなるようなトラックに載せて「お元気ですか?」「お前もくれば良かったのに」と歌われるこの曲を私はあの世とこの世の交信だと確信している。歌詞に出てくる「川」はこの世/この世を分断する小道具だ。なんせ最後は「あんがい桃源郷なんてのは/ここのことかなってちょっと思った」という言葉なのだ。そうすると11曲の間に繰り広げられたなんてこと無い掛け合いも、夏の気だるさも、言葉遊びも、無意味だと思ってたことも、全部あの世での回想なのではないか。アルバムを通して聴くことで永遠のような夏の中にある侘しさが浮かぶ。改めて日本語話者で、日本の夏の空気を知っていて良かった。

みせざき

 生のドラミングによる軽快で溶け込みやすいビートが特に乗り易さを感じる。途中で入る効果音、スクラッチなどの装飾により簡易的なビートにより広がりがもたらされているように感じる。歌詞もよく見られるワイルドさや自慢話などでなく自身や人の怠惰さを吐露するというありそうであまり無い内容なのも印象的だった。日本人の全てを包括してまとめ上げて代弁する、そういうヒップホップに感じた。

和田醉象

 俺がヒップホップが苦手な理由の一つ。
 いや、スチャダラパーが苦手なのではなくて、彼らに最初に触れたので他の割と圧強めの奴らが受け付けなくなってしまった。パンクロックとかは割とシリアスなのが好きなのにね。
 いとうせいこうの作品に比べると数年遅いけど、分かりやすい内容で韻を踏んでいて、93年でこのクオリティということに舌を巻く。
 加えて詩としてかなりレベル高くないか。「彼方からの手紙」みたいな詩を書いてみたいと常々思う。その上で演説や落語みたいに言っていることが頭に入ってくるわかりやすさ。嫉妬するレベル。
 突飛なテーマじゃなくて、生きていると必ず感じたことあるようなことに入り込んでいくので、「この感じ、スチャダラパーの曲みたいだな」がこれから先度々思うことになりそう。

渡田

 この企画でほとんど登場しなかったヒップホップジャンルの音楽だけあって、今まで聴いてきたアルバムとの比較がしやすかった。
 メロディについては他ジャンルの音楽ともそれほど大きな違いはないように思えた。特に一曲目のインスト曲だけ聴いた時は、今までこの企画で聴いてきた曲とそこまで乖離した雰囲気もなかった。
 一方で歌詞の残し方については、ポップミュージック、ロックとは根本的に違うものに思えた。
フレーズを繰り返すことはあまりなく、思いついたままに言葉を繋いだような内容は、ポップミュージックやロックとは大分異なるものだった。
 こういった特徴からは、人々の素朴な生活、日常性との結びつきを感じる。例えばエッセーのようなメッセージの残し方にも近いと思う。
 言葉の連想が続いていくうちに、主題から脱線する様もリアルな日常会話を思わせた。

次回予告

次回は、小沢健二『犬は吠えるがキャラバンは進む』を扱います。

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