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矢野顕子『JAPANESE GIRL』(1976)

アルバム情報

アーティスト: 矢野顕子
リリース日: 1976/7/25
レーベル: 日本フォノグラム(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は14位でした。

メンバーの感想

The End End

 誤解を恐れずに言えば、頭で作られている感じがしない。ピアノと心が同じところに在るというか、この人の中から溢れ出たものをダイレクトに浴びせられている感じがした。
 めちゃくちゃ江戸情緒なのだけど、音階だったりそういう楽器を使っていること以上に、アンサンブルの構造から、広くない真っすぐな通りに人がひしめきあっていて活気のある情景が浮かんだ。ただ、その景色を自らのルートとして背負っているというよりは、おそらくは矢野自身も江戸の景色をエキゾティックなものとして楽しんでいそうな気がする。エキゾティシズムは空間だけでなく時間という位相においても生まれるもの、あらゆる意味で“ここではないどこか”への志向である、というのはHoSoNoVa以降の細野作品からも受け取れることですね。

桜子

 あまり耳馴染み無いジャンルの編曲してるのに、矢野顕子が歌うと"矢野顕子らしい"と感じちゃうの、すごいな〜と思いました。
邦の要素を強める伝統的な日本の楽器と、シンセサイザーの音が同居してるのが面白かったです。

湘南ギャル

 矢野顕子の曲で聴いたことがあるのは、あったかいクリームシチューを作る曲と、Yanokami名義のものだけであった。だから、なのかはわからないが、矢野顕子にJapanese性とgirl性が結びつく様子がまったく想像つかなかった。しかしこのアルバム、まごうことなき”Japanese”であり”girl”、、!特に気になったのはJapanese の側面だ。私は日本で二十数年暮らしているが、このアルバムを聴いていると、この日本という国、エキゾチックで魅力的だなあという気持ちになる。そしてそれと同時に、まるでずっと昔から知っているような、身体に馴染みの良いメロディーだ!という感想も抱く。こころがふたつある〜、、。この矛盾があるような二面を包括する曲を、どうやったら作れるのか、まったく想像もつかない。それが気になって、何度も何度も聴く。

しろみけさん

 ざわめき。その溌剌とした歌い方にコーティングされてはいるものの、「クマ」や「へこりぷたぁ」など、詩の中でフォーカスされているシーンがいちいち残忍だったりする。無垢ゆえの残酷さ、とでも言いたくなるような胸のざわめき。しかし、それも含めてわらべ唄や伝統歌の正統を継いでいるとも捉えられるのでは、と感じた。演歌が〈怨歌〉と表記されていたこと、中学生に見たやりすぎコージー、こけしの由来など、そういう類のものをぼんやり思い出していた。

談合坂

 ライブパフォーマンスを観たような気分。仮想的な当時のライブとかではなく、すごいライブだったねーってiPhoneで撮った縦向きの動画を見返すのと同じ地平。’JAPANESE’とのクロスオーバーという文脈に乗せることで魅力が生まれているのではなくて、手段がどうあろうと目指すサウンドが確固として見えているのが伝わってくるような感じがした。

 ピアノは打楽器だという。打楽器とはリズム楽器である。執拗なリズムの快楽。このアルバムを聴くことでしか生まれない体の揺れ方がある。それもその筈、リトル・フィートやムーンライダーズ、林立夫、細野晴臣といった錚々たる面々が本作に参加している。ただ、その上をフィギュアスケーターのように滑らかに、狼のように獰猛に、あるいは氷のように冷ややかに、時に暖炉のように暖かく舞う矢野氏のピアノとボーカリゼーションはまさにシグネイチャーサウンドだ。

みせざき

 ピアノが全体的に引っ張っていく展開に凄い愛着を感じました。コード進行によってドラマチックに曲全体を引っ張っていけるような力強さが感じられたかと思います。椎名林檎のような今の邦ロックにも通じる雰囲気も感じました。ドラムも軽やかでまたリズミカルでファンキーさも感じました。「電話線」のメロディーの乗せ方も好きでした。ねぶた祭りに参加したことがあるので東北の民謡がエッセンスとして足されてるのは面白いと思いました。そうしたアプローチにもピアノから全体的に引き立てて曲として説得力を与えられるというのは邦楽史にとっても凄く意義のある試みだと、偉そうながらも感じさせていただきました。

和田はるくに

 先日、ふとしたことがあって彼女がELLEGARDENの右手をカバーした動画を見た。それからこの作品に対する期待度がハチャメチャに高まったのであるが、実際聞いてみて期待値以上であった。

渡田

 普段テレビやCMで流れるあの印象深い歌声とは少し雰囲気が違った。矢野顕子らしいあの歌い方が個性として固まる前といった感じ。
 曲によっては初期のユーミンの歌い方と似ているとも感じた。矢野顕子もユーミンも唯一無二の個性ある歌声だと思っていたが、それぞれのデビュー初期の歌い方に共通点を感じたのは、出来過ぎながらも意味ありげな暗合で、是非誰かと話し合いたいような発見だった
 一方でもう一つの個性である、お囃子みたいなポップで和風な音はこの時点で確立していると思った。

次回予告

次回は、細野晴臣『泰安洋行』を扱います。

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#アルバムレビュー
#矢野顕子


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