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くるり『TEAM ROCK』(2001)

アルバム情報

アーティスト: くるり
リリース日: 2001/2/21
レーベル: SPEEDSTAR RECORDS(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は98位でした。

メンバーの感想

The End End

 “こんなにも悩ましい僕らも 歩き続ける”、くるりはずっとずっとこれを言い続けているバンドだし、それは歌詞だけじゃなく、サウンドにおいても感じること。世界がクソに見えてしょうがない日も、自分で自分が情けなくてしょうがない日も、くるりは良いことも悪いことも優しいことも厳しいことも言わないまま、ただ一緒に歩いてくれる。優しくなれない日の私の手をとってくれる。
 だから、”終わらない夢は次々ついえ、交わした約束は露と消えてい”った中で、くるりがずっといてくれることって、すごく貴重で嬉しいことだと思う。
 『TEAM ROCK』の話をしな過ぎました。バンドやることの最高さがギュギュっと詰まってて最高でした。

桜子

 くるりの好きなところ、沢山沢山ある!だいたい100個くらいあるけれど、1つは、いわゆる"代表曲"と捉えられるような、誰でも聴きやすい、普遍的な良さがあるメロディーの曲を残しながら、時代背景が分かる、岸田さんの興味の移り変わりよう、音楽的な舵取りの仕方に良い意味で期待を裏切られるところ!ただ、それらには"くるりらしい"というほのかな香りは漂っていて、その塩梅がとても好きだ。
 そのバランス感がくるりのアルバムの中で1番表れてるのがこれなのかな?と思います。

俊介

 サンプリングを駆使した冒頭の「team rock」が表すように、様々な遺産から拝借した、音楽の大英博物館。各々のトラックに各々のオリジナル楽曲をみつけるものの、ランキングに掲載されるところをみると、ただのオマージュという一筋縄ではいかないような日本のポップスらしさがそれぞれ。
 「迷路ゲーム」ではなく「リバー」を最後尾にすえる、くるりのいやらしさとかセンスの良さもすべて、今後への布石になっているようようで。

湘南ギャル

 小学生の頃、この時期のくるりをラジオで耳にしていた記憶がある。(とはいえ、私が小学生になるのはteam rockがリリースされた数年後なので、その頃にはもう名盤扱いされていたのか、もっと前の記憶と混濁しているのか。)ワンダーフォーゲルとかばらの花とか、流行ってたな〜と思いながら曲のタイトルを眺めていたが、聴き直してみると、これが流行ったんか?!という驚きがある。予想よりずっとボーカルラインが単調だ。単純というか、カラオケで流したら誰でも歌えてしまいそうな素朴さがある。そしてサウンドはというと、これもまた予想とは異なった。バンドミュージックみたいなのを想像していたら、Corneliusやレイハラカミが同時期にいたことをうかがわせるような、しっかりとしたエレクトリック味(エレクトリックあじ)がする。シンプルなメロディラインがあそこまでの情緒をまとうことを可能にしたのは、きっとこの緻密に作られたサウンドのおかげなんだろう。最近はボーカルラインが派手な曲がチャートに多い印象があるけれど、こういうタイプの曲もまた流行ってほしいな〜。

しろみけさん

 有機的だったものを力技で無機に還した音が終始流れている。「ワンダーフォーゲル」や「トレイン・ロック・フェスティバル」の、ミドルがごっそり削られたディストーション・ギターとか、奥行きが廃された——先行きがないとか、絶望とか、そう解釈したくなってしまうほどの——「ばらの花」のピアノのリフレインとか。ここまでバラエティに飛んだアルバムでも、それだけは一貫している。『TEAM ROCK』で呼吸は許されていない。息を潜めさせることすらさせず、孔という孔にスポンジを詰め込んで、身体のダイナミクスを剥いでもなお残る人間性を確かめているようだ。もしかしたら、その人間性すら見たくないのかもしれない。そうさせるのはレディオヘッドに由来する実験/反骨精神か、それとも単なる強迫的な衝動か。ただ息苦しい。社会で生活するのと同じくらいには苦しい。まぁ、だから、いっそ苦しい時には、苦しさからしか音が出ていない、このアルバムを聞いてみようと思う。

談合坂

 オルタナティブロックなるものに出会った頃の、ワクワクした気持ちを思い出す。この作品を聴いてあんな風に音楽が世界を切り開いてくれる感覚を知った人達も多かったんじゃないか、なんてことを考える。洗練さや巧さなんかとは別の次元で、私たちの考える世界と同じ範疇にいてくれているように感じる。
 実はくるりをアルバム通して聴いたのは初めてだったのですが、こんなに色々なものが詰め込まれているとは思っていませんでした……

 「TEAM ROCK」~「アンテナ」~「ワールズエンドスーパーノヴァ」の時期はくるりの創作面での1回目の黄金期だと思う。特に「TEAM ROCK」ではメンバーの流動性が増したことがバンド音楽から離れた要素を取り込むことに繋がりつつ、それでもバンドという形を維持するからこそ歪なバランスのギターロックが並ぶことになった。アルバムを通した完成度は「アンテナ」に譲らざるを得ないが、私は「TEAM ROCK」における4つ打ちの魔力に未だ囚われている。「ワンダーフォーゲル」「C'mon C'mon」「永遠」「ばらの花」とミドルテンポで鳴らされる4つ打ちはフェスシーンで用いられた作為的な4つ打ちではなく、もっと前向きな推進力のあるそれだと感じる。ハイハットの裏打ちではなく、バスドラムのいち音いち音に魂を乗っけている。岸田が作るメロディーと一緒に足取りを少し早めてくれる。余談ですがくるりの最新EPはくるりのディスコグラフィーで一番好きなのでみんな聴いてください!

みせざき

 バンドとしての形をそのままにしながら、打ち込みビート、スクラッチ音などのEDM、ヒップホップ世界との融合を試みているが、それがこのバンドの音楽としてしっかりパッケージされているのが印象的だった。実験的ではあるものの、おっとりとした、どこかノスタルジックで気軽にメロディに浸れるくるりの良さもしっかり感じられる所がよかった。

和田醉象

 TEAM ROCKなのに、この内容。かなり挑発的だ。
 それとも色々なものが集まって「TEAM ROCK」なのか?それは分からないが、ただ、キャリア全体を通して作風が変化しがちなくるりがこの名前を付したアルバムを出しているというのが面白い。
 曲ごとに、アルバムごとに様々な顔を見せてくれる彼らだが特にこのアルバムは、少しの間彼らと人生の幕間を歩いている気分になる。「TEAM ROCK」で疑問提起、「ワンダーフォーゲル」でリスナーに呼びかけ、以降「リバー」が終わるまでそぞろな気持ちなまま散歩する。
 アルバムの青ジャケは、空の色か海の色か。

渡田

 歌詞による発信力が強いバンドでありながら、全体としての言葉の量は少ない気がする。言葉は最低限にとどめて、そこから先の表現、細かい情緒なんかはメロディに託されている感じがする。歌詞が言いかけの言葉で終わり、しめやかとも爽やかともとれるギターの音に続いていく様からは特にそう思う。
 前回のレイ・ハラカミ「red curb」やキリンジの「3」、コーネリアスの「point」、砂原良徳「LOVE BEAT」に続き、歌詞は少ないにも関わらず人間的な情緒を感じ取れる音楽だと思う。2000 年前後にはこういった、曖昧ながらも繊細で人の心に訴えかけるかのような音作りのアルバムがそろっている。

次回予告

次回は、カーネーション『LIVING/LOVING』を扱います。

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