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コーネリアス『FANTASMA』(1997)

アルバム情報

アーティスト: コーネリアス
リリース日: 1997/8/6
レーベル: トラットリア(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は31位でした。

メンバーの感想

The End End

 バイノーラル録音、テープストップ、1曲を2つの曲に解体…と、とにかく"ガワ"でできる遊びをとことんやり尽くしている感じで、いつもニコニコしてしまう。
 この作品を好きになってから5年以上経つが、毎回毎回新しい気づきがある。こんなエイフェックス・ツインみたいなドラムのロール鳴ってたんだとか、「STAR FRUITS SURF RIDER」のビートもこんな強かったんだとか。『LIFE』との差異を見ても、フリッパーズギターのベッタベタのコンプの気持ち良さってやっぱり小山田由来だよね、と感じて面白かった。
 『Mellow Waves』と並ぶCorneliusのフェイバリットなのだけど、でも"聴いていてものすごく面白い"以上の感想は浮かばないと言えば浮かばないかも。

桜子

 好きなアルバムランキング5本の指に入ります!私の音楽人格形成に関わりまくっている作品です!校内放送で流したりしました...!
 まずジャケットが素晴らしいです。シンプルだからこそ、目につく、センセーショナルな見た目!
 最近ASMRをよく聴くのですが、高校生の時初めてYouTubeでASMRを聴いて、これってMIC CHECKの気持ち良さと同じやつじゃん!!と思ったのを思い出しました。バイノーラル録音、すごい!目を閉じて聴くと、そこにいるんです!このCDの付録がイヤホンだった意味がわかります。
 Disneyと曲名に入っていたり、"僕のくだらない空想の旅に〜"と歌っていたり、ファンタジーを示唆したりしていますが、まさにこのアルバムを開けば、このオレンジの音の世界に没入出来てとっても気持ち良いです。ジャンル名をつけられない。
 そしてDisk2もすごくすごく面白いんです〜...貸すので聴いて欲しいです...
 Corneliusサウンドプログラマーを務めている美島豊明さんのFANTASMA全曲解説、時代背景や、機材による影響とかも分かって面白いんでぜひ

俊介

 高校1年生の頃、サブスクで「愛のむきだし」を観て、その映画はほぼ4時間あってとにかく長いんだけどそれを忘れるくらい面白かった。
 平日の夜寝る前にベッドの中でなんの気なしに再生したら、その映画が持ってるエネルギーとか情報量に圧倒されて、所詮高校生だからそのテーマとか本意みたいなのは全く汲み取れてなかっただろうけど、とにかく観終わった明け方は興奮して、ベッドから飛び起きて床で腕立て伏せを始めた。次の日の学校は普通に欠席した。
 後日、伊集院光のラジオのアーカイブを漁ってたら「愛のむきだし」に関して語ってる回があって、その内容を端的に要約したら「この映画の長さはこの歳になるとキツイ、20代半ばに観てたらまた感想も変わってた」ということで、はあ歳を経ると冗長な物はなかなか琴線に触れなくなるんやと、当時はなんとなく納得してたんだけど、まさか齢21で伊集院光に共感することになるとは。
 久々に聴いたら、Fantasmaをはじめて聴いたときのあの感動はどこかへ行ってしまって、ここら辺の展開で妙に興奮したなとか、ここで感動したな、みたいに当時の感動を後ろの方からなぞってくことしかできなくて、とにかくアルバムは長くて強い。この気持ちは、自分の肉体と精神の老化によるものじゃなくて、サブスクの普及だったり、アルバム単位で音楽を聴くことがなくなったっていう外的要因によるものであることを願う。
 このアルバムを形容するときによく「おもちゃ箱をひっくり返した感じ」っていう表現が使われるけど、そのおもちゃ箱がひっくり返してできる雑多な光景に目を輝かせる時期は過ぎてしまって、この散らかったおもちゃをどう片付けられていくのかがすごく気になってしょうがなくなってしまった。もうちょっとコンパクトにできたんじゃない、、?
でも相変わらず楽曲は粒揃いで、CHAPER 8なんて最高で最高。
 そういえばこの前みた「ラブ&ポップ」の中に、ちょうど当時の渋谷スクランブル交差点のあたりが映ってて、そこのビル広告にでっかくfantasmaのジャケットが映ってて、作品の意図とは無関係だろうけどめちゃくちゃ映像にマッチしてた。

湘南ギャル

 カメラトークからヘッド博士の間に何が起きたんだろうとずっと考えていたが、なるほど、小山田圭吾の仕業だったのだろう。このアルバムを聴いて答え合わせができた気分である。カメラトークになくてヘッド博士にあるもの、それこそが私の心を掴んで離さなかったのだと思っていたが、もしかしたら違ったのかもしれない。一秒後にオザケンサイドか小山田サイドのどちらに転ぶかわからない、そんな不安定さと曖昧さが理由だったようだ。ソロ活動のおかげで各々が自らのやりたいことを突き詰めることができ、その結果としてFANTASMAのような隙がなく完成度が高い作品が生み出されたのであろう。それは小沢健二のLIFEを聴いた時にも感じたことだ。この変化自体は素晴らしいし、音楽に向き合う態度として、こんなにもかっこいいことはない。それでもヘッド博士の、地に足のついていないような浮遊感を忘れることができない。つい幻影を探してしまう。二人にとっては一番言われたくないことだろうから、こんな感想で申し訳ない。

しろみけさん

 部屋の中で考えて、部屋の中で聞く音楽として、これ以上のものがあるとは思えない。「こたつ記事」ならぬ「こたつ音楽」というか。その上で、ラウドな曲をやる時にブレイクビーツを引いてくるのは、この世代ならではの感覚で面白い。ともかくここにある全部が美味しい、色んな魚のトロだけが乗った海鮮丼みたい。そして、こんなにも完結しきっている作品を作っても、なお「やりきった」と思わないのが恐ろしい。無人島に持っていきたい一枚かも。そういう意味ではトロの海鮮丼でもあり、これだけで事足りてしまうようなスーパーフードでもある。

談合坂

 オーディオとしての気持ちよさ・楽しさが詰まっている。子どもの頃からミニコンポとヘッドホン・イヤホンが音楽体験の中心にあった人間として、リスニングも含めて音楽なのだと示してくれることが嬉しい。
 ごった煮でポップで攻撃的で……2020年代を駆ける人達のひとつの大きな原点になっているというのもあって、再び今が旬のような瑞々しさが感じられる。いつまでも旬でありそうな気もするけど。
 「STAR FRUITS SURF RIDER」、やり口があまりにも’今’で本当に凄いです。

 取り扱い説明書みたいなアルバムだなと思った。ひとりのミュージシャンがひとりで達成できる地点を分かりやすく示している。同時に機材をいじることや音を重ねることのワクワクや楽しさが詰まっている。プラモデルや玩具ってトリセツを読んでる時がワクワクのピークっすよね。「ディレイ、リバーブ!ブワーン!」と楽曲を完成させるための過程を曲の中であからさまに示すことは物凄く変だけど、いくつもある凡百なラブソングは恋愛の過程を歌詞にしてあからさまに提示しているわけで、音楽ができる過程を曲に載せた「FANTASMA」には、ギターを弾くことや自身のルーツや体験、製作の過程も全てフラットに捉えるという姿勢が反映されている。初めて聞いた時は宅録の粋を極めた作品だと思っていたが、むしろスタジオワークの限りを尽くして作られたそうで、改めて聴くと当時のマニピュレーターやミキシングエンジニアの方々の貢献も感じられた。音楽を作る最中の悦びが楽曲としてパッケージングされているのが良いなぁと思うし、最新作もそれに近い雰囲気があった。

みせざき

 とにかくカッコいい音楽だと心から思う。冒頭のmic checkから始まるそのクールさ、疾走感というのを作品全体を通して貫き通しているイメージ。僕は何だかんだ音楽自体が自然に醸し出すクールさが多分一番音楽が好きな理由だと思うがこの作品のクールさが自分の好きな音楽との共通項を凄く感じる。まだ一聴しかしてないので細かい感想は出てこないが、コーネリアスや小山田圭吾の事をこれからより深く知っていきたいと思った。

和田醉象

 元フリッパーズの二人のソロ作品を聴き比べたわけだが、フリッパーズってオザケンの要素強かったんだなと個人的に思う。二人の作品足して2で割ってもフリッパーズにならない。どっちが解散を切り出したのかは知らないが、根底に同じ好きがあってもこうも見ている方向が違うんだなと一大グループの解散劇の中に悲哀を感じる。
 自分が好きなことやってるぞ!という気概を感じるし、色々やってみたい!という考えを反映させた意欲作であるように感じる。音そのものもそうだが、強い意志を感じて、こっちまで感化される。

渡田

 地声に近い低い歌声と、楽器の音と、その隙間に入る楽器の音らしくない電子音とが、曲が展開する度に、更に反響し、更にスピーディーになっていく。その特長だけでも聴いていて夢中になる音楽だと思う。しかし、聴いていると、ただ夢中になれる、集中できるという言葉では足りない、この曲に意識が収斂していくような感覚があった。
 次第に攻撃的になってくる音は、一方で最初から最後まで室内のようなエコーで包まれていて、この音楽の激しい展開がまるで一つの密室で起きているような感覚になる。自分の狭い部屋の中で怒涛の冒険が起きているのかのように錯覚する。アルバムの最後の曲が終わった一瞬、自分の部屋に今まで聴いていた音のそれぞれが濃密に凝固した痕跡が残っているようにさえ覚えた。

次回予告

次回は、フィッシュマンズ『宇宙 日本 世田谷』を扱います。

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