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サザンオールスターズ『熱い胸さわぎ』(1978)

アルバム情報

アーティスト: サザンオールスターズ
リリース日: 1978/8/25
レーベル: Invitation(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は30位でした。

メンバーの感想

The End End

 これまでもグッドメロディ、或いは歌詞の持つリズムとメロディの持つリズムが見事に融合した楽曲は多かったけど、その中でも頭三つくらい抜けて口ずさみたい。めちゃくちゃ韻を踏んでるとか単語を解体して小節をまたぐとか、そういうテクニックの跡はあまり見られないのに、声と歌い方だけでこんなにも垢抜けた印象を与えられるの、バケモノすぎる…
 この企画で聴いてきたトップオブトップのプレイヤーたちに比べれば演奏の技巧で劣るのは事実だし、「下手くそでもいいだろ!」という開き直り方をしているわけでもない。しかし、もしかしたらそれだからこそ、こんなにも愛おしいのかもしれない。“お母さんが時々作ってくれるごちそう”みたいな、日々の食事にも贅沢な外食にもない類の喜びがそこにある気がする。

桜子

 1曲目再生したその瞬間からびっくりしました。
これまでとは違う...すごーーーー!一気にJ-POPになった...
 これまでこの企画で聴いたものとは、良い意味で聴いた時の軽さが違います。それは、人が手にしやすい、とっつき易さ。と言えばいいんですかね...
 聴いたときに眉間にシワが寄らない気軽さ、手軽さがあります。

湘南ギャル

 アルバムの中で何回、女って歌ってるんだろう。試しに「女呼んでブギ」だけでも数えてみたが、17回も女と言っている。歌詞を一見すると不誠実にも感じるが、自分の欲望に忠実であることは案外難しい。そして、それができる人からは誠実さを感じる。
 曲調に関しては、急に身近さを帯びてきたという印象。年代順に追っているはずなのに、急に出てきたと感じるのは不思議だ。この企画だけだと取り逃がしてしまう文脈もあるのだろうと、改めて感じる。

しろみけさん

 真面目なコミック。「女呼んでブギ」や「レゲエに首ったけ」など、日本のコミックソングでクリシェである「○○+ジャンル名」という形式を踏襲している。そのジャンルの定義にはギリギリ当てはまらない曲調になってしまっていることまで含めて、オマージュは完璧だ。
 ただそのオマージュがあまり奇天烈に聞こえない、つまりコミックソングの体をとりながら(少なくとも現在では)そこまで諧謔的にならないのはなぜだろう。自分でもまだ噛み砕けてないけども、何やら途轍もなく大きな道の上にサザンがあって、けれどもその文脈がジャンクションのように入り組んでいて一見では解せない構造になっているのだけは感じた。きっとリアルタイムでこれを体感した人間も、この数倍の衝撃を味わったのじゃないのだろうか。

談合坂

 生活のなかにしっくり来すぎる。これまで聴いてきたのは都市で、これは郊外。落ち着いて住む場所があって、緊張も寂しさも感じなくていい景色が目の前にある。
 言葉の発音と音程の流れに必然性があるかのようにかっちりハマってるボーカルチョップが好きなのですが、ここでの詞とメロディってそれと似ているなと思います。

 1曲目の「勝手にシンドバッド」以外初めて聴いた。はっちゃけたバンドかと思ったらテンションのピークは1曲目で、その後はテンポを落としてエロティックでロマンチックな歌詞と丁寧な演奏が続く。ここまで「聞かせる」バンドだったとは知らなかった。なんか失恋のショックで吹っ切れて歌ったのが「勝手にシンドバッド」だったんだろう。当時の中高生が親に隠れて聴いていたんだろうな、という姿が浮かぶ。親がサザンのライブに行きたいらしいけど、チケットとか取れるのかな。取ってあげたい。

みせざき

 ちょうど自分が中学の時、サザンが再結成したりして、よく友達とサザンの話で盛り上がったり、その友達とは今でも一緒にカラオケに行くと最後に「東京VICTORY」を一緒に歌う、みたいなノリがあったり、自分の中の邦楽で数少ない思い入れのあるバンドの一つなのですが、よく考えたらアルバムをまともに追ってなかったことに気づきました…
 やはり、何といってもサザンは桑田佳祐のバンドだと思います。最近はサザンの活動より明らかにソロにシフトしていたりしますが、サザンの桑田佳祐はサザンという国民的な顔を背負って引っ張っていくみたいなイメージが伸び伸びしたソロの桑田との違いなのかな、と思いました。去年も紅白に出てましたが、本当にボーカルとしてのスペックが変わらない人です。維持し続ける力というのは素晴らしく、その初潮としての桑田佳祐が本作なのだと思いました。ただまだ社会的題材や暗さのようなものは無く、純粋さ、若々しい恋愛のテーマなど至ってシンプルなのはデビュー作としての初々しさを感じます。あと、サザンと言えばですが、やはり英語を交えた日本語詞をここまでカッコよく表現できるのは本当にこの人だけだと思います。このリリシストとしてのスタイルもどんな人が聞いても納得してしまう表現力です。

和田はるくに

 表題曲が有名すぎて以下の曲に向き合ったことがなかったのでこれを機にじっくり試聴。
わちゃわちゃし続けるかと思ったらしっとりしたところから2曲目スタート。
 「勝手にシンドバット」は日本語の歌としては歌詞の譜割などが奇妙すぎて、賛否当時あったみたいだけどその他の曲にはそこまで奇妙さを感じなかった。(そもそも「勝手に〜」の違和感に対しても、誰かに言われて気付いたものだ。だが、ここからスタンダードになったのはすごいことだと思う。)
「女呼んでブギ」がイントロから下品すぎて笑い死にするかと思った。モウイッチョ-、じゃないのよ。一番いい音楽って、聞いた時に笑ったりできるものなのかもしれない。
 どの曲も、どっかの国のスタンダードなナンバーに日本語詞を気持ちよくはめている感覚があって、そういう観点で見るなら作詞の完成度は半端ないなと思った。桑田がテレビでアビーロードの曲に日本語をつけて歌っている(しかもちゃんと原曲通りにも聞こえるし、歌詞としても意味が通っている)のも見たことがあり、そこらへんの言語バランスが素晴らしいなと感じる。ふつう「おなごの群れ」なんて言わないでしょ。
 あと、阿久悠の息子さんが父親から隠れて「勝手に〜」を聞いていた話は何度聞いても好き。

渡田

 「勝手にシンドバッド」のイメージが強かったが、実際に聴いてみるとそれぞれの曲に個性があって、「勝手にシンドバッド」はアルバムの代表曲と言うよりは、アルバムを構成する1ピースといった感じ。
 各曲それぞれに独特の曲調、ユーモアがあるものの、アルバムとしての統一感を覚えさせるのは、どの曲でも聴ける桑田佳祐の印象的な歌声のお陰かと思う。また、どの曲も異国情緒を感じさせるのも一貫性を生んでいる要因の一つのはず。
独特の声の上、早口の歌詞も多いはずなのに、一つ一つの言葉がとても聞き取りやすかったことも印象に残った。

次回予告

次回は、細野晴臣&イエロー・マジック・バンド『はらいそ』を扱います。

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