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それってね、ポップ・ミュージックだね──「或る歴史と或る耳と」RS編10週目を終えてのレビュワー座談会:中編

 ローリング・ストーン誌「史上最も偉大なアルバム500」のランキングを年代順に聴き、数人のレビュワーが感想を残していく企画「或る歴史と或る耳と」。今回はその特別編として、ここまで60枚の名盤を評してきた参加メンバーたちが集合し、雑感やアルバムへの思いを語った座談会の様子をお届けします(参加メンバーのうち、「コーメイ」「桜子」「湘南ギャル」「和田醉象」は日程の都合により不参加)。

 中編ではメンバーのフェイバリット・アルバムについて話しています!

お小遣いでこれ買うのは変|Jazz Jazz Revolution

しろみけさん:じゃあフェイバリットを言いましょうか。私はもう決まってます、ハウリン・ウルフです。

The End End:なるほどね、まぁ超カッコよかったね。

六月:俺もフェイバリットだな。

しろみけさん:エルヴィスだったりビートルズとかのさ、“白人系のシンガーは黒人のブルースマンに憧れて歌ったりシャウトしている”みたいな言説があるじゃん? ビートルズとかはそれが若くて可愛らしいものとして受け止められる、みたいな。それは別にいいと思うんだけど、じゃあその元ネタの元ネタ、一番濃い部分ってどこなんだろう?っていうのをこれまで聞いてなかったんだけど、ハウリン・ウルフを聴いて“これはシビレるぞ”と。エレキギターの使い方もさ、ブリッジミュートでジャって掻き鳴らしてて。アコギでやっても面白いんだけど、エレキでやることによって、そのアタック音により動物感が出るのが面白い。これもテクノロジーの話だなって。マジで型破り。

The End End:その前のレイ・チャールズとかは、"型守り"だもんね。

しろみけさん:型守りのめっちゃ強いやつみたいな感じね。

談合坂:ハウリン・ウルフは第一声からして分厚い。

しろみけさん:ただ呻いてるだけ、“うううううう…”みたいな。ヤベェの始まっちゃったなってなるもん。

六月:ちょっと曖昧な言い方になっちゃうんだけど、もう最初に聴いてから、そこに全部あるみたいな。ビッグバンで最初の塊が放散して今の宇宙があるように、その塊にロックンロールとかがグッて入ってる。

しろみけさん:アバンギャルドだからこそ、こっからいろんなものが広がるんだろうなっていう。何言ってるかわかんない人も、これは多分感じるね。

六月:親御さんが聴いたらちょっと怒っちゃうような音楽。

しろみけさん:怒るっていうか、“大丈夫かな?”って。エルヴィスだったら“こんなの聴いてはいけません!”って怒られるけど、ハウリン・ウルフだったら”なぜ……? お金を出してこれを買うんですか…?”ってなる。お小遣いでこれ買うのは変。

談合坂:僕のフェイバリットはコルトレーンの『Love Supreme』ですね。ナラティブ抜きで音楽として楽しいというか、音ゲーにしたら楽しいだろうなって。インテリジェントなことをポピュラー音楽でやってあげるっていうのは、割と今の自分の趣味に通じてる。IDMみがあるというか。

The End End:近年のジャズと一番ダイレクトに繋がってるのはあれだったね。

六月:聴いた時に“あぁ、今の人はこれがやりたいんだな”ってのは感じた。

しろみけさん:『Love Supreme』の音ゲーっていうのは? ダンレボ的なこと? それともシューってリングを触る、何やってるか分かんないやつ?

The End End:アレってどうやってプレイしてんの!?

しろみけさん:アレの名前なに!?

葱:どこでできるの、アレって。ああいうDTMあったらやりたい。

渡田:洗濯機だよね、ドラム式洗濯機みたいなやつ。

(注:調べたところ、「WACCA」という名前らしいです)

談合坂:情報として処理していく、ゲーム的な面白さがあった。

六月:リズムとかグルーヴの骨格としてジャズを聴いて学んでるみたいな。人体の構造を学んでいるような気分もある。

葱:『Love Supreme』ってポスト・ロックみたいだなと思って。トータス『TNT』は全部録音した後にPro Toolsに入れて編集することで、ドラムが最早リズムの基盤じゃなくなったりして、Pro Toolsの中に全部の楽器が素材として入ってる。『Love Supreme』も、みんな同じリズムを聴いてはいるけど、ちょっとバラバラ感がある。ドラムが基盤にあるわけじゃなくて、どの楽器も同じバランスでメイン張ってるのが好きだったかな。

The End End:葱はもう、ポストロックかどうかでしか音楽を聴いてないな。

しろみけさん:自分のやってるバンドがポストロックに寄りだしたからね。

葱:1/8計画は今度録音するので、出たら聴いてください。

それってね、ポップ・ミュージックだね

六月:俺はハウリン・ウルフ以外ならリトル・リチャードかな。“モノホンはちゃうなぁ”って。完成系がまずあって、それを真似したいんだけど真似できない分の差異が“進化”っていう聴き方をこれまでしてきたんだけど、最初にみんなが見てた完成系が出てきちゃったみたいな。シャウトとか、マジで心がビリビリ震える。

しろみけさん:このストレートを投げれたら変化球いらないよね、っていう。

The End End:沢村栄治じゃん。

六月:あと凄いのって、リトル・リチャードってゲイを公言してて、要は性的マイノリティだったんだよね。その上、まだ黒人差別が濃かった時代。ブルースって自我の一番真ん中の、独りぼっちな感じだと思ってて、リトル・リチャードは現代とは比べ物にならないくらいの孤独を抱えていたはず。そんな人があんな明るい歌を……暗いからこそ、ああいう歌を歌えるっていうのが、やっぱすごいなって思って。

葱:それってね……ポップ・ミュージックだね。

しろみけさん:(リトル・リチャードの)映画見た方がいいね。

The End End:私は『Pet Sounds』が一番でした。フェイバリットっていうか、レビューを書き終わった後もずっと聴いちゃった。ステレオラブみてぇなオルガンも鳴ってるし……オルガンの音って最高。マジでなんて言ったらいいんですかね、素晴らしいアルバムですよね。

六月:モノラルとステレオ、どっちで聴きました?

The End End:最初モノラルで聴いて、その後ステレオで聴いて、“ダメだ”って思って、もう1回モノラルで聴きました。ステレオだったら、なんかつまんないアルバムになっちゃって。

葱:混ざってる感、飽和してる感がモノラルだと出るよね。

みせざき:ステレオで映えるもんでもないっていう。ちょっと中毒的な魅力があるよね。

The End End:この頃ってステレオで録る環境は全然あったんだよね。だから多分さ、モノラルで当時録ったのは変わりものというか、懐古的だったはず。フィル・スペクターもそう、既にレトロ趣味だった。

六月:フィル・スペクターをやりたかったんだ。

The End End:でもさ、フィル・スペクターの先まで行ってない?

しろみけさん:うん、確かに。

The End End:あと、クラシックとか含めて、太古から続いてきた音楽の歴史との連続性も感じたんだよね。ジャズとかロックンロールって、楽理からの逸脱から生まれたある種のミュータントたちじゃん。それに対して、『The Beach Boys Today!』の時も思ったけど、人類が営んできた音楽が繋がってきてここにあるというか。

しろみけさん:「God Only Knows」とかね……。

The End End:ヤバい。この話は湘南ギャルとしたかったんですけどね。ビーチ・ボーイズ過激派。

The End End:ちなみに、『Pet Sounds』的なものって最近だと何になるんだろう?

みせざき:フランク・オーシャンの『blonde』とか、雰囲気が似てると思う。

The End End:そうなんだ、『blonde』も聴き直してみます。ランキング入ってるよね?

しろみけさん:入ってると思う、『Channel Orange』も入ってるはず。

渡田:いつ聴くことになるんだろうね。

The End End:あと3、4年後だな。

しろみけさん:仕事辞めてるやつ、いるだろうな〜。

渡田:まず生きてるかな。

しろみけさん:子供、いる? 一人くらい子供いる可能性もあるよね、それ凄いよ。

The End End:ヤバいドキュメントができる可能性がある。大学生からはじめたnoteで、それが終わる頃に子供が生まれてるって。

しろみけさん:子供と一緒に『blonde』とか聴いてね。

ディランだけは耳元で聞こえる|“わ!”

みせざき:俺はどれか一枚っていうのはちょっと無理だな。元々好きなのだったらマイルスの『Kind of Blue』とかB.B.キングとかビーチ・ボーイズとかになる。でもボブ・ディランの『The Freewheelin' Bob Dylan』はこの企画で改めて聴いて、すごい聴きやすかったかな。なんかすごい感動した。

The End End:思わずちくちく言葉を書いてしまったぐらい好きだったな。

みせざき:すごい身近に感じたっていうか、この後はどんどん難しくなっていくから。ただ、ディランは文学家ってイメージが強かったけど、ランキングに入ってるアルバムの中で音楽性の変化が見えたのが面白かった。

渡田:僕もそれがフェイバリットなんだよ。あのね、ここまで全然面白くなかったの。邦楽編の最後に僕は神聖かまってちゃんへの歴耳史上最高の名文を出して、そこでも書いたんだけど、昔から音楽って自分がやるもんじゃないなと思ってたんだよ。それでかまってちゃんが出てきて変わったんだけれど、今回ね、その時と同じ気分になっちゃったんだよ。ビートルズは感動したよ、『Aftermath』も感動した。ただ、あの当時に生まれたら、多分音楽やってない。すごいんだけど、目が合わないっていうか。

葱:自分事として受け止められない、っていう感じか。

渡田:そう。ただ、ディランだけは耳元で聞こえる。ディランがそばにいる。歌詞とかを見ると、自分に向かって言ってる気がする。『The Freewheelin' Bob Dylan』とかは、自分と仲良しで一緒に帰ってる、ちょっと自分より賢い友達のセリフ。学校は全然面白くないけど、帰り道は彼と一緒に帰る。ディランしか選びようがないんだよね、他には誰も友達がいない。

しろみけさん:いいね、いい話だ。

葱:レイ・チャールズとか聴いた時はどうだったの?

渡田:もう全然ハマんない。良いんだけど、音楽ははじめてない。

The End End:陽キャ/陰キャ問題があるよね。

渡田:(今回のラインナップでは)陰キャはディランだけじゃん。

葱:ヤンキーは多いんだけどね。

しろみけさん:ハウリン・ウルフとかは会話不能よ。俺は会話不能な人が好き。ロバート・ジョンソンもそうだった。

渡田:他は、音声。ディランは、声だよ。

しろみけさん:最初はひねくれた青年だったけど、『Blonde on Blonde』の「I Want You」とかビックリしたもん。人としての変遷というか、“こんなこと言うんだ”って、聴きながら泣いちゃったもん。

渡田:けど、やっぱりあんま変わってないんだよ。ガワが変わってるだけで、 同じなんだよね。

六月:長生きしてるのがわかる。魂をすり減らしてない人みたいな。色んなものにフラフラ行くって疲れるしね。

The End End:じゃあもう死んじゃうじゃん、俺たち。

The End End:みせざきは結局どれが好きなの?

みせざき:『Kind of Blue』かな。最近はロック以外も遡って、プレイヤー目線でアドリブの歴史を楽しもうって意識の芽生えがあって、そういうところでこの『Kind of Blue』は全編通して 全く信じられないぐらいのレベルで、もう本当に超人的だし、断然ヤバいと思う。完全なスタンダードっていうか。

The End End:『Love Supreme』以上にイデア感が強いとは思った。

六月:だからジャズのアルバムで一番緊張する。気が張っちゃう。

The End End:そう、めっちゃヒリヒリしてるよね。

しろみけさん:自分はジャズのアルバムを会話のメタファーで考えてて、これ聴いた時はヒリヒリした。さんまの向上委員会ぐらいヒリヒリしてる。

六月:ほいでほいで、ね。

しろみけさん:オーネット・コールマンとかはもうちょっとフランクな会話、でもシュールな感じもあるんだよね。

みせざき:でもこの静謐感みたいなのは、もう本当に奥が深いと思う。一聴だけじゃわかんない。

葱:私のフェイバリットはジェームス・ブラウンかな。そんな詳しくなかったから、もっとドラムとベースの……ファンク〜!って感じで来ると思ったら、想像以上に歌とか楽器同士の絡み合いが濃厚で、すごいエロい。ファンクの後ろノリみたいな気持ちよさと、ウワモノの混ざりが想像以上に濃厚で、度肝抜かれたっていうか。それで何回も聴いて。ブラックミュージック的なノリの源泉でもあるわけで、昔の音楽だから昔のものだなじゃなくて、 昔のものでも今こんぐらい”わ!”ってなれるんだっていうのは嬉しかったから、凄い思い出深い。

しろみけさん:B.B.キングもそうだけど、歓声がライブ盤ならではだよね。

葱:当時を知るって意味ではライブ版が一番パッケージングされてるわけじゃない。それもあって感動したかな。

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中編はここまで。後編では反対にメンバーのピンとこなかったアルバムについてお話ししていきます。


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