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読書回(ロンドン留学中の理瀬)

久々の読書回です。

『薔薇のなかの蛇』今年6月に購入した小説。お気に入りシリーズの待ちに待った続編です。2回読みました。

それは恩田陸さんの理瀬シリーズで17年ぶりの新刊です。長いこと雑誌に連載されていましたが、ようやく単行本になりました。北見隆氏の挿絵も素晴らしい。

掲載の雑誌は『メフィスト』で2007年5月から不定期で連載され、2020年VOL.2で完結。今回単行本化にあたり、加筆・修正されています。

私の最初の理瀬シリーズが『図書館の海』の「睡蓮」でした。これは短編で外伝にあたり、少女時代の理瀬です。この時はシリーズがあるとはまだ知らなかったのです。

次は『麦の海に沈む果実』を手に取りました。理瀬が閉ざされた全寮制の学園に転校してきたところから始まる謎に包まれた学園の話です。
そして『三月は深き紅の淵を』(最初に理瀬が世に出た「回転木馬」の話が載っている)、次に『黒と茶色の幻想』(理瀬は回想シーンのみ)、『黄昏の百合の骨』(麦の海に沈む果実の正当な続編)、そして今回の『薔薇のなかの蛇』(2021年5月26日発売)ですが、今回の物語の進行は理瀬の視点ではないのでご注意ください。

では読書感想文を始めます。

今回の舞台はイギリスの田舎町です。
物語の始まりは古い納屋を改造した大きなスタジオでヨハンと男の会話から始まる。因みのヨハンは理瀬シリーズの重要なキャストのひとりです。
舞台はブラックローズハウスへ移り、この話の主人公アーサーの語りになる。アーサーはこの屋敷の当主(オズワルド・レミントン氏)の長男であり、ロンドンから帰省していた。同じく帰省していた弟のデイビッドと屋敷近くのパブに行く途中で、フードを被った不審な人物を目にし、気味が悪くなり踵を返すと、そこで屋敷を伺う謎の人物と出会う。

この作品で理瀬はリセ・ミズノと自己紹介し、発音しにくいのでリーと呼ぶように付け加えている(これ以降はこの文章でもリセと表記する)。そしてアーサーの妹のアリスはお気に入りの友人としてリセをこの屋敷に招待した。

リセは留学してロンドンで美術史を専攻する学生になり、そして禍々しい美しさを持つ娘になって読者の前に帰ってきた。
【落ち着いた物腰、優雅な気品、神秘的なみずみずしさ、そして何よりも瞳には深い洞察力を堪えているように思われる】とアーサーの感想が記されている。

少女の頃から知る読者としては、登場する度に大人になっていく理瀬の成長も楽しみのひとつである。今回も周りの人々とは違う視点で真実に近づいていく。冷静な判断、豊富な知識に裏付けられた言動は周りの人々を驚かせる。
そしてアーサーはリセの中に不穏さを感じとる。それを喩えて【彼女はまるで美しい剣の鞘だ。中にはよく切れる刃が入っている】と言っている。

レミントン家に伝わる聖杯伝説も重要なキーとなる。当主のオズワルドは自分の誕生日パーティに大勢の親戚やその友人らを招き、さらに聖杯の情報を流して招待客らの興味を引いている。何のために大勢の客をブラックローズハウスに招いたのか。
他にアーサーの叔父や従兄弟、妹の友人等の癖のある登場人物も目が離せない。

■屋敷の近くで起きた猟奇殺人事件の犯人の目的は?ブラックローズハウスと関連はあるのか?
■オズワルドのパーティの真の目的は?ブラックローズハウスの秘密、そしてレミントン家の聖杯とは何か?
■リセはアーサー及びレミントン家の敵なのか。リセの目的とは何か?

紹介したこれまでの本編とは違って今回はリセの心の中は描写されていないが、この作品ではアーサーの視点が読者の視点である為、リセの聡明さや素晴らしさを再認識できた。

初めての理瀬シリーズがこの本でも無理なく楽しめます。もちろん他のシリーズを読むとリセの心理がもっとわかってきます。
この後もリセとアーサーが再会しそうな終わり方なので、シリーズに続編がありそうです。それとヨハンをもっと登場させてほしいですね。

薔薇のなかの蛇(Amazonへリンク)

著者:恩田陸
出版社:講談社刊
発行形態:単行本
ページ数:322p
ISBN :9784065230503
価格:1,870円 (税込)
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