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私とイチと将棋7

今回はイオンモールで行われた将棋大会に参加した時の話です。

2019年8月4日
とても暑い日だった。
この日はイオンモールで行われる将棋大会に参加する。朝から、あまりにも暑いので幼いイチは会場に着くまでにバテてしまうのではないかと心配になった。

クラスは2つに分かれており、全国大会まで用意されているクラスと交流戦クラスで、イチが参加したのは交流戦のほうだった。

これまでのことを考えると、交流戦ならけっこう勝てるのではないかと思っていた。

会場のある駅に着いた時点で、将棋駒のストラップをつけている子どもを複数みかけるくらい参加者は多く、会場内の密度もなかなかだった。

受付を済ませて、指定の席に座るイチ。
その小さな身体が、周りの小学生達に埋もれて途中から様子は見えなくなった。
私が離れるときに珍しく不安そうにしていたのが気になった。

定刻になってから対局が始まるまで、挨拶や説明があり30分くらいはかかったと思う。

その間も私は、イチがトイレに行きたくなってしまうのではないか?とか、グダっているのではないか?と気が気でなかった。イチは将棋は指せるが、その他はただの4歳児。

そして、ようやく対局が始まると、小学生たちはものすごい勢いで指し始めて、あっという間に決着がついているところもあった。

私はイチがいるあたりを凝視していた。暫くするとイチの対局相手だった緑色のTシャツの子とイチが手合い係のところへ報告に行くのが見えた。
イチが後からついていくのをみると、どうやら負けたらしい。

結局、午前中は1勝2敗で予選敗退だった。
イチにどんな対局内容だったのか聞いたが、いまいちよくわからなかった。

午後は自由対局ができるというので「とりあえず勝ち越せるように頑張ってこいよ」と声をかけて送り出した。

午後は私からも見える場所で対局を始めた。
相手の早指しに合わせるように普段ではやらないスピードで指していく。何故か戦型はこの頃はほとんどやったことがない中飛車だった。

お互いすごい速さで指し進めていく。
そして「あ!」と思った時には試合終了だった。
イチが飛車の横利きを見落として王手放置の反則負け。
普段、イチは大駒の利きを見落とすことはほとんどない。まして、王手を放置するのは初めてみた。

もうこれ以上対局しても意味がないと思い、「帰るぞ」と声をかけた。その声色に苛立ちを隠すことができなかった。イチは黙ってついてきた。

帰りの電車内で「なんで、急に中飛車を指したのか?」「よく考えて指したのか?よく考えていたら王手放置なんかしないのではないか?」などと責めた。

今にして思えば、大勢の小学生に囲まれた中で4歳の幼児は精一杯戦った。ひとつ勝っただけでも褒められて良かった。

イチは泣かない子だった。幼稚園でも「少し怪我をしていても泣かないので気がつくのが遅くなってしまうことがある」と逆に心配されたりしていた。

しかし、この日は地元の駅に着くと「ゔゔ」とくいしばるように泣き声を押し殺して、私の後ろをついてきた。

負けたことが悔しいのか、私に責められたことに傷ついたのか、或いは両方か…

歩き慣れたはずの、自宅までの直線の道がひどく長く感じられた。


つづく







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