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20230802 やっちまった! な万年筆たち(恐ろしいことに……その一) 

 前回はガラスペン沼からインク沼、それからハマった万年筆沼の最初の二本、LAMYのsafariスケルトンと漢字ニブについて書いた。
 万年筆沼は5本くらいで止まらないと、後はエンドレス……? と聞いていたので私なりに気は付けていたのだが……。
 今回も長くて、しかも「……」が多いです。ため息の意味で使っております。(ここだけなぜか敬体)
 「……」って、文を書く人の中には使わないと決めている人も結構いるから、先に書いておく。
 ええ、もうとっくに5本なんか超えちゃいましたわ。noteに書いただけでも前回のLAMYが2本、今回3本ですからね。……なんだかもう遠い目になる。と言うか、恐ろしくて総額をもはやすでに想起したくない。
 今回語る3本は全て、比較的大型の万年筆である。私は手が大きいので、小さめ細めの軸だと書きにくい。だがその点でこの3本は非常に書きやすい。絵にも使うが、文字書き用に使うことが多い3本である。
 そして……。ゴクリ。お値段が高い。
 下の写真いちばん奥の黒いのはセーラーだから国産だが、手前の二本は外国製だから、円安で価格も上がっている。

ヤバい万年筆3本。奥へ行くほどお値段は安くはなるのだが……。

 上に「ヤバいレベルでやっちまった」今回の話のネタである3本の万年筆の写真を掲げた。これ、手前から奥へ向かって値段が「安く」なっている。
 つまりいちばん手前がバカ高い。
 とは言っても一番奥の「セーラー プロフィット21 長刀【なぎなた】研ぎ、字幅NMF 21金ニブ(セーラーの金ペンシリーズは14金と21金があり、ニブの大きいプロフィットとプロフェッショナルギアのシリーズは21金である)」でも五諭吉をかなーり超える……(震えがきますわ)。
 国産ではあるが、「長刀研ぎ」はセーラーさん独自の変態的とも言われる「濃ゆい人むけ」の逸品なので、通常のペン先のものより希少かつ高価なのである。
 真ん中のも値段はほぼ同じ。六諭吉以上、十諭吉以下、六諭吉寄り。「恐ろしいほどにやっちまった…………(……、エンドレス)」のは一番手前のものだ。
 では、震えがきたところで一本ずつ紹介していこう。……今度は「高い順」で。つまり写真の手前からである。



1. モンブラン「作家シリーズ」2022年、「グリム兄弟、リミテッドエディション」文字幅F

このデザインとフォルムに「ズギューン」とやられてしまいました……。


 説明しながらも、言い訳を長々と始めますね……。
 これね……。
 もう偶然見た瞬間、このデザインが心臓に突き刺さって来ましてね……。
 ズキューン! ばったり……。
 何であの画像を見つけてしまったのだろう……。ネットがない時代だったら、そうそう平民の私の目に入ってくる場所も機会などもないお値段のブツなのに……。
 まあ、デザインからして普通じゃないですよね。このデザインにハマる人はちょっと変わってると思う。
 さて、ズキューン! と心臓を撃ち抜かれたとはいえ、値段が値段。それから一週間以上もやもやと悩んだ末、結局、最終的にモンブランのウェブショップでポチりました(文が敬体になっとるぞ)……。他に売っているお店、ほとんどないし値段は変わらないから。
 字幅はFとMしか残っていませんでした。多分、最初はEFとBもあったんじゃないかな? 違うかもしれない。ポチる前にYouTubeでこのペンを購入した人(すべて外国人)の動画をあるだけ全部(ええ、私だって悶えながら悩んだんだよ!)見たけど、みんなMかFだったので……。

 なんと、翌々日には届いた。早! 中には不具合のあった時用の返送用伝票まで入って。こんなの初めてだ。後述するけどモンブランは「ブティック」だからブランド物を買ったのと同じ感覚みたい。保証書もプラスティックのカードだったし。
 モンブランの万年筆は大抵、でっかい箱に入ってやってくるみたいだけど(さすがに一本しか持ってないからYouTube等で見た限りでは、だ)、これも辞書か百科事典みたいな箱の中に、書物の形の箱が入っていて、その中の左側に英語でこの万年筆の成り立ちを書いた説明書とプラスティックの保証書、右側に斜めに抜かれたスリットに本体様が鎮座していた……。

右側が「(本の)外箱」で左側が本、という形になっている。

 このペンは世界で9800本限定だ。キャップ上部にシリアルナンバーが彫られている。
 購入は一番最近のこと。カードの引き落とし日が怖い……。
 この「グリム兄弟」、三種類くらいリミテッドエディションがあるのだが、一番高いのはなんかはもう、新築のワンルームマンション買えます? って感じのお値段だ。……試しに画面の数字の桁を数えて一人で震えた。
 モンブランは今や文具メーカーではなく時計とかも扱ってるファッションブランドなので、高級ラインは恐ろしい値段なのだ。金やプラチナが使われ、宝石なんかも散りばめられている。そもそも、今、モンブランは店を「ブティック」って呼んでるし。
 そう言うわけで、これは「グリム兄弟シリーズ」の中では一番安いもの。でも値段は関係なく私はデザイン的にこれが一番好きだ!。(ここは断言)

「本(という設定)部分の左側に冊子。右側に御本尊が鎮座あそばしている……。


 シャーロキアンだから、ウェブショップで購入を迷いながら画像をつらつら見ていたときは「サー・アーサー・コナン・ドイル」もいいな、と思ったんだけど、デザインがもうこっちだった。何ともダークで怪しげでかっこいい。魔女の杖みたいにも見える。
 黒いところは「おとぎ話の暗い森」と「ラプンツェルの髪」をデザインしたものだそうで、クリップ部分は横から見るとグリム兄弟の横顔になっている……。この怪しげな曲線、堪らん。
 それで、キャップの一番下のところに彫られている文言はドイツ語で「昔々〜」の意味なのだ。箱の中の冊子の英語がさっと読める頭ならそこに書いてあるんだろうけど、ちょっとした同人誌くらいの冊子なので英語が……な私は最後の日本語のところしか読んでなかった。
 ウェブの説明には書いてなかったからGoogleで翻訳したよ。
 後、購入してから気がついたけど、ウェブページのクリップ部分の説明、恐らくは翻訳が間違っている。
 「プラチナ仕上げのクリップを『回す』と、驚いたことにグリム兄弟の横顔のシルエットが現れます」って書いてあるけど、「クリップの(横に)『回った』とき〜、シルエットが現れます」の間違いだ。きっと英語にはない自動詞と他動詞の翻訳間違いだろう。
(原文:〜surprisingly reveals the silhouette of the profile of the Brothers Grimm when turned. ……最後のところだねえ)
 まー、日本語教師だから分かるんだけど、日本語の自動詞と他動詞は外国人には「何それ? うっそー!」な代物だから。
 そう言うわけで、私は危うくクリップ部分を「回そうとして」壊すところだった。

キャップを取ったところ。ペン先(ニブ)には炎が彫り込まれている。これがまたいい……。
 インクはペン尻の部分を回してピストンを動かし、ペン先をインク壺に突っ込んで注入する。

 さてこの万年筆、重さが60グラムくらいある。ちなみに普通の万年筆は重くとも20〜30グラムくらいである。
 上位モデル? の金ピカ宝石象嵌のマンション価格ヴァージョンは150グラムを超える。もう筆記具の重さではない。
 万年筆は筆圧ではなく、ペンの重みだけで書くものだと言うが、60グラムあると本当にそういう感じになる。
 モンブランの万年筆は純正インク以外のインクを入れると、保証期間中でも保証が効かなくなるそうだが、私はファーバーカステルのインク、Deep Sea Greenを入れてしまった。
 基本のブルーブラックはもう↓下に書く、3.セーラー「長刀研ぎ」に入れてしまっていたので、最初は黒とグレーを入れてみたのだが、黒は真っ黒すぎて日本製の万年筆のFより太いこのペンだとベッタリ黒くて面白みに欠ける。そしてグレーは色が薄すぎ、何だか「薄墨」で書いているみたいで縁起悪く、手紙とかには使えなくなりそうだったからだ。
 書き味は柔らかくてサリサリした感じが全然ない。Fと言っても海外の万年筆のFは手帳に書くには太いので、日記、手紙、何かで一筆書く時に使っている。

おまけ。「グリム兄弟」だけで描いたクロッキー。
ファーバーカステルのこのDeep Sea Greenはドキュメントプルーフでやや耐水性がある。
それでも描いてすぐに水筆でなぞるとこのくらいは滲む。
文字の形はにじんでも残る、という意味だろう。


2. ペリカン 「スーベレーンM805 デモンストレーター 刻印入り」字幅EF

ペン先は18金。こちらもインクはペン尻を回して、インク壺にペン先を突っ込んで注入する。

 二番目は万年筆の御三家? モンブラン、パーカー、ペリカンのうちのペリカンから、数年前に限定品として発売されたのだというスケルトンの一本だ。ペン先(ニブ)は18金にロジウム鍍金。
 スーベレーンはM400、M600、M800、M1000番台の四種類があり、数が大きくなるにつれて本体やペン先がデカくなる。各番台の末尾にM805のように「5」が付くものはペン先や外装がシルバー(色)仕上げのものになる。
 この限定品のM805のデモンストレーターはメルカリやヤフオクにもたまに出ている。(M200番台の鉄ペンのデモンストレーターはいつでも購入出来る)だが、この「刻印入り」のやつは10万円を超えていることが多い。刻印なしのスケルトンボディの方は定価に近い値段で出ているようだ。
 だが、見比べるとやはり「デモンストレーター」だから各部の名称が刻印されている方が絶対、カッコいい。

 私は前のLAMYの漢字ニブと同じく、某所で最後の一本で出ていた新品を購入することが出来た。ラッキーな定価購入である。それでも高いけど。まあ、上のモンブランと比べれば半値以下とは言え、高級万年筆であることに変わりはない。
 前のLAMY Safariでも最初にスケルトンモデルを買ったが、私はスケルトン万年筆が好きだ。
 この「デモンストレーター」はその名の通り、商品のデモンストレーション時に作られたものが商品になったそうで、各部の名称が英語で書き込まれている。そこがカッコよくて……ズキューン! だった……。
 現在のペリカンとモンブランの一番多いラインの万年筆は、コンバーター式ではなく、ピストン式を採用している。
 ペンのお尻を回してピストンを上げ、インク壺に万年筆のペン先を突っ込んで、インクを直接「吸い上げる」方式である。普通の万年筆よりも多いインクを一回で吸入出来るが、軸をペン先から外せないので、このデモンストレーターのようにスケルトンでないと、残りのインク量が「見えない」。
 上の「グリム兄弟」はその点、残りのインク量はどうやっても見えない。
 ペリカンの普通のスーベレーンや他のシリーズ、モンブランのマイスターシュテュックは、軸の一部が透明になっていたり、隙間から覗けたりする。
 このペンはややインクフローが渋い(専門用語:書く時に出るインク量が少なめ)ので、細く書けて却っていい感じだ。インクは古典インク(没骨子インク)のRohrer&Klingnerのスカビオサ(暗い紫)を入れている。このインクの色はすごく好きだ。

3. セーラー 「プロフィット21 長刀研ぎ NMF(中細字。でも普通より太い)」

長刀研ぎのキモはこのペン先の形状にあり! 
この「研ぎ」によって線に強弱が付けられ、日本語が美しく書ける。

 これはセーラーだけがやっている変態的ペン先、「長刀研ぎ」の一本である。横から見たペン先の形が長刀を連想させるのでそう呼ばれているらしい。これは今、通常は店頭での注文制作で一年くらい待たされるらしい。
 これも私はラッキーで、ダメ元の検索をしたら某市場で発見してしまい、即刻、定価で購入出来てしまった……。
 この「やっちまった3本」のうちの2番と3番は、漢字ニブの時と同じく「定価で最後の一本を通常購入」出来てしまったのが運の尽き? いや運命であろう。そう思いたい……。
 この「長刀研ぎ」には実は数種類あり、中には「長刀コンコルド」などと言う名称の「えぇ〜!」ってフォルムのものもある。ペン先がコンコルドみたいに曲がっているのだ。興味のある方はググってみて欲しい。

 長刀研ぎが普通のペン先と違うのは、「漢字仮名交じり文の日本語表記に合った、止め、はらい等の文字の強弱を表現するためのペン先」であることだ。線の強弱が出るので、普通のペン先よりも太い文字になる。私が買ったのは一番細字のN(長刀)MFで中細字だが、普通の中細字よりも太い文字になる。
 私の文字で恐縮だが、下に画像を載せる。あえて楷書で書いている。
 長刀研ぎは確かに縦書きで、それも文字を崩して日本語を書く時、ぬらぬらと滑るようにペン先が動き、筆ペンのような、とまではいかないが味のある文字が書ける。
 私が「長刀研ぎ」という存在を知ってすぐに興味を持ったのは、私は文字を書く場合、横書きよりも縦書きが楽な人だからだ。LAMYの漢字ニブを買い求めたのと同じ理由である。
 母が介護老人ホームにいるので、メールもLINEもできない母に手紙を書くことがあるのだが、手紙で一番使うのはこの長刀研ぎのような気がする。大きな文字で読みやすく書くのに一番適しているからだ。そのため、これにはペリカンのブルーブラック(昔ながらの没骨子インク=古典インク)を入れて使っている。耐水性があるので、宛名にも使えるからだ。
 ファーバーカステルのこの「伯爵シリーズ」のインクも一部は「ドキュメントプルーフ」となっており、ある程度の耐水性がある。私がモンブランに入れているDeep Sea Greenもドキュメントプルーフだ。

縦書き行書の書きやすさでは、左の「長刀研ぎ」がダントツ!
他の2本もペンの重さだけでヌルヌル書けるような自然なインクフローだ。
真ん中のペリカンのM805デモンストレーターは、この中ではややインクフローが渋い。
でもその分、EFであることもあって細く書けるので気に入っている。

 次回のネタはまだ書いてないが決まっている。
 セーラーの「ふでdeまんねん」である。これは某フリマで古いモデルを購入した。長刀研ぎよりも強弱が出せる、これまたセーラーさんの変態的ペン先の逸品である。

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