見出し画像

空き家問題と不動産投資~個人投資家の視点から

 7月4日のガイアの夜明け「空き家を眠らせるな!」を見て、REIT中心の投資・配当生活をする者の視点からいろいろ思うことがありました。番組では、民間会社、個人投資家、自治体がネットワークを組んで、空き家を再生・活用する取り組みを紹介するものです。民間会社が空き家を調査して、ネットで購入希望者に紹介したり、空き家問題に困る自治体と協力して空き家を少しずつでも減らそうとする工夫、別の社団法人が、個人投資家向けの空き家投資ツアーを企画し、投資したいという人に地元の工務店を紹介してリフォームをサポートし、最終的に購入者はそれを賃貸して収益を得る、というビジネスを紹介していました。最後に、無印良品が地方自治体などの要請により、自社商品と地元の大工さんも活用しつつリフォームし、自治体は旅行会社とも手を結んで宿泊施設として再利用する、という楽しい例まであり、官・民間会社・個人投資家・観光客と幅広くつながっている業態の在り方が面白いと思いました。

 しかし、空き家はいまや1,000万件に迫ろうという勢いで増え続けているそうで、私が住んでいる愛知北部の都市(高速道路が交わる物流の中心地ですが)でも、国道や駅にごく近い土地にも空き家が目立ちます。駅前の商店街すらシャッター通り化しているところもあり、これが大手私鉄に人、国道に車があふれる愛知郊外でさえ現実なのです。以前住んでいた青森などはもっと悲惨で、倉庫・会社や工場の建物でも解体されず放置されているもの数知れず、豪雪の時期はとても危険です。

 昨年暮れ、アメリカ、カナダへの出張があったのですが、郊外の住宅街では自分の庭の落ち葉の清掃が義務付けられていて(放置すると罰金だそうです)、ゴミ屋敷などもってのほか。ヨーロッパの町を歩くとどの高層住宅でも、アパートの全部の窓に同じ花の鉢植えが飾られているのを見ます。要するに家やアパートを持つということは、自分で勝手にしてよいということではなく、近隣のためにも管理する責任がある、ということですね。きれいな住宅のすぐそばに朽ち果てた空き家がある、というのは日本や途上国あるあるですが、見ているだけでも悲しい気持ちになりますね。先の番組でも「土地住宅は個人の所有物であり、行政としてもできることが少ない」という担当行政官の困り果てた口調を紹介していました。この絶対的な所有者の権利こそ空き家増加の最大の問題と思われます。

 ところで番組について話したかったもう一つの点は、個人投資家と空き家物件のかかわりです。個人が空き家の下見ツアーに参加し、気に入った物件の購入を希望すれば、資金の相談先、リフォームなどは仲介業者さんたち、ときには行政も助けてくれ、あとは物件を賃貸にして収入を得るという投資のスタイル。たとえば番組中に購入費・リフォーム代で750万円をはらうことにした投資家が、12%の家賃を期待し、7年で元が取れる(あくまで試算)ような紹介がありました。私は、個人投資家(ごく普通の方たちのように見えました)がとられるリスクに個人的にとても驚きました。自分のリート中心投資と比べて、空き家から賃貸化投資にかかるローン、借主や空室の可能性、地震や大雨などの天災などを考えると、足がすくみます。築うん十年間、空き家になっていた民家を合同見学会でいくつも回り、その夜に「買いたい人は手をあげて」「うん、買います」のようなやり取りで、あっけなく、こんな大きなリスクを取ってしまわれる。手続きの大変さ、リフォームしてもどんどん古くなっていく家。借りる人によってはトラブルがあるかも。私なんかにとてもそんな度胸はありません。ただ、ある投資家の方が、リフォームを抑えて収入の少ない家庭の方にも借りてもらいやすくする、と言われた言葉は胸に響きました。また物件についても、個人投資家の方はそれぞれ自分の好みに基づいて選別されているようで、行政の担当者、仲介業者さん、個人投資家とそれぞれ善意で空き家を活用しようと思われており、(私はできませんが)共感できる空き家活用法と納得しました。

 私は地方創生にも空き家活用にも極めて悲観的で、地方の全般的な過疎化を食い止めるために、コア都市を決め、希望する住民の方がコア都市周辺に集まって暮らせる高層住宅などを作り、行政や商業施設の集中化を進めるべきと思います。もちろん、田舎暮らしや古民家カフェの好きな方はそうする自由がなくてはなりませんが、行政や多くの人にとってはある程度の密度の中で暮らし、利便性を享受するほうがはるかによいのではないでしょうか。なにより持ち主不明の土地・家屋の面積が九州全体よりも広いとか(五十嵐敬喜「土地は誰のものか--人口減少時代の所有と利用」から。とても勉強になる本でした!)。空き家再生のビジネスは社会的にもすばらしいですが、根本的な解決には遠い道のりの気がします。新土地基本法の精神からも土地家屋は単に個人のものではなく、「持続可能な社会の形成に資する(同書から)」べきで、行政や企業がその精神を生かすべく積極的に動いていただきたいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?