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”Don’t shrink yourself for others” 「誰かのために自分を変えないで」 ー モデル・Amity Miyabi インタビュー

Instagramで漫画AKIRAのアイコンをクリックすると、ダークブラウンのショートカットと瞳が印象的な女性が現れます。いや、待て。さらにスクロールしていくと、男性の笑顔が見える…?それらの投稿の間には浮遊感漂うイラストが散らばっており、さらにその姿は捉えどころをなくすようです。

名前はAmity Miyabi。環境、スタイル、セクシュアリティ… 色々な変化を経験する中で「無意識のうちに自分を押さえつけていた」と語ってくれました。

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アミティ ミヤビ / Amity Miyabi
2001年・アメリカ ワシントンD.C.出身。東京で大学生の傍らモデル、イラストレーターとしても活躍中。ファッションを使ってジェンダーの境界線を探ったり、曖昧にしたりするのが好き。バイセクシュアル(=男性と女性の両方に性的指向が向くセクシュアリティ)を自認している。
Instagram:@amitymiyabi

- 18年間暮らしたワシントンD.C.を離れて、東京で暮らそうと思った理由は何かあったの?

Amity : 東京には去年の9月に引っ越して来ました。おじいちゃんとおばあちゃんが日本に住んでいたので夏に遊びに行ったりはしてたんだけど、住んだことはなくて。アメリカって国籍を2つ持っていると21歳のときにどちらか選ばないといけないんだけど、「住んだこともないのに、どっちか選ぶなんてできない!」って思ったのが最初かな。大学進学をきっかけに住んでみたいと思った。結局どちらか選ぶ必要はなかったんだけど(笑)。
東京はすごく住みやすいし、居心地がいい。D.C.も美術館がたくさんあったりと楽しくはあったけど、ファッションやLGBTの面では東京の方が住みやすいかな。東京の方がいろんなタイプの人がいろんなところから来ていて、ひとりひとりがもっと独立してる感じがする。

ー 小さい頃から外の世界に出たいと思ってたの?

Amity : 今もそうだけど、すごく人見知りで。小さい時はあまり新しい人にも会いたくないし、外に出たいとかは思ってなかった。だから、東京での生活は自分が慣れ親しんだ狭い世界から、一歩踏み出そうと頑張ってる感じがする。
でも、180度自分を変えてるわけじゃないと思う。自分のベースはすでに作られてる。ただ、今は前に進もうって気持ちが強くて、今の自分の方が今までの自分よりも好きなんだと思う。東京に引っ越して来てから、これまで無意識のうちに自分を押さえつけてたことに気づいたんだよね。

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とにかく「男の子」として見られたかった

ー 例えばどんなこと…?

Amity : 11歳の時、自分がFtM(Female to Maleの略:女性から男性へ性別移行を望む人)だと周りに伝えたことがあって。小学校から高校の間は「自分は男の子だ」と言って、できるだけ男の子っぽい格好をしてた。当時はそうやって自己表現をしてたけど、今思うとそれすら男らしさのイメージに縛られてたなって。中学生の時は自分らしいファッションへの感覚もなかったし、ファッションの新しさを模索することもなかった。とにかく「男の子」として見られたくて、ずっとカーゴパンツとか穿いてた(笑)。
お母さんと一緒に買い物に行っても女の子の洋服売り場には目を向けようとしなかった。だって、そこで女の子の服売り場に行ったら「ほら!やっぱり勘違いだった」とか「心は女の子じゃん」とか言われそうで…。当時は何が自分の気持ちをこんなにも押さえ込んでくるのか、よくわかってなかったなあ。

ー 当時FtMだと伝えた時、自分の姿とか周りのリアクションとか、どんな風に変わっていった?

Amity : 私の場合は突然変わる感じではなくて、学校で一緒に過ごす友達のグループが徐々に変わっていった。人気者でグループ意識が強い女の子っているじゃん。そういう子とはあまりつるまなくなったなあ。そんな感じで、両親に話す前に学校の友達にカミングアウトをした。それ以降は特にプランとかはなくて、自然と変わっていった。
周りにFtMだと伝えたけど、誰かがわかりやすく私をいじめてくることはなかった。ただ、長い間ひとりぼっちの感覚が強かった。だからかな、みんなの感覚がわからないんだよね。もっとみんなと仲良くなったり感覚を共有したりしたかったんだけど…実際はそう上手くいかなくて(笑)。

私が「ノンバイナリー」であるのは、
誰かのためじゃない

ー 当時はFtMだと思ってて、今はノンバイナリー(男性でもあり、女性でもある、もしくは男でも女でもない、どちらの性別にも分けられない人)だと思うようになった。自分に「男の子」のラベルを貼るんじゃなくて、自分の価値を見つめ直すまでにはどんなことがあったの?

Amity : 私は「ノンバイナリー」であることを取り立てて発表したことはなくて。ただ、周りの目を気にするのをやめて、ちょっとしたメイクとか、自分が本当に好きな服とかを着るようになっただけ。自分のスタイルを見つけたら、自分の中に女性的な部分があることに気づいて。今は心から、男の子らしさと女の子らしさの両方を楽しめるようになりたいと思ってる。LGBTの友達やノンバイナリーの友達はいたけど、本当に心地いい自分を知るまでは、自分の中に男性と女性が混ざってることに気づかなかった。

ー でも、東京が抱えるジェンダーの課題を感じることもあるでしょ?それを乗り越えて「ノンバイナリー」と言うのは大変だったりしなかった?

Amity : んー…。ファッションの自由があること加えて、相手に嫌われる心配をする必要がなくなったのは大きいかも。私が会う人は初めましてか、何回か会ったことがある程度の場合が多いから。
あとは「ノンバイナリー」って言い始めてから、自分の意識が大きく変わったと思う。去年の10月くらいに「ノンバイナリー」って言い始めたけど、インスタグラムのプロフィールにそう書いただけ。長いこと私をフォローしてる人は、FtMからノンバイナリーに変わったことにも気づいてないと思う。

ー フォロワーの中にはトランスジェンダーの人をフォローしたいと思ってる人もいるはず。彼らにとってアミティの女の子っぽい投稿が、その期待を裏切ることもあるかなと思うんだけど…?

Amity : 上手く言えないけど、そういう部分は確実にあると思う。実際、私が投稿をするたびにフォロワーが減っていく。でも今はもっと大切なことがあるように感じてて。昔は「君こそがLGBTコミュニティの真のアイコンだ!」ってメッセージをもらったりしてて、その度にそんな自分に自信が持てた。でも、本当の私は自分が男の子だと思う時があれば、女の子だと思う時もあるし、どちらでもないと思う時もある。性別のイメージを纏わない「ノンバイナリー」な状態は私にとっては大切だけど、誰かのためにそうあるわけじゃない。私がしていることが常識を覆すわけでもないし、私はLGBTコミュニティの代表でもない。私はたまたま自分がノンバイナリーだなって思っただけ。確かに女の子っぽい投稿をするときもあるけど、私は「〜な女の子」って思われたくないし、そう思われるとちょっと辛い。私は私だから。

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絵を描くことで、
自分以外の誰かと感情が繋がる

ー 自分でつくる作品は自分のジェンダーの表現と関係があったりするの?何かを伝える手段になってるとか、自分のアイデンティティを理解するためとか。

Amity : 自分が一番クリエイティブだと思うのは、何かにすごく嬉しくなったり、悲しくなったり、そういう時。だから私が自分のアイデンティティを見つけようともがいてる時に、その時の感情が作品を通じて現れるかな。「ゲイであるとはどういうことか」みたいに、何かのステートメントを表現するために作品を作ってるわけではない。

ー 自分の気持ちが表れるって言ったけど、アミティの絵を見ても一方的に感情を押し付けられてる感じがしないところが好きだな。

Amity : 私が絵を描くときは悲しさが元でも、悲しさを一面的に描かないようにしている気がする。そうすると自分ひとりの感情が元になった絵でも、誰か他の人の悲しみと繋がるように感じられるから。誰かの悲しみの理由が私の悲しみの理由と違ったとしても、彼らは彼らの感覚で私の絵に触れられるし、その体験を通して自分の感覚に自信を持てるようになる人もいるかなって。これは私の絵が曖昧な感じになってる理由かも。
自分で絵を描くときも一番最初は誰かの作品からインスピレーションを受けることが多くて。小さい頃から絵を描いてるけど、自分のイマジネーションだけで絵を描くんじゃなくて、他の作品からアイデアをもらいながら自分のイマジネーションとミックスさせてる。違うもの同士を縒りあわせる中で自分の表現が形作られていく感覚があるし、それが私の作風だと思う。作品の要素を紐解いて、違うものと合わせるのが楽しいから、誰かと一緒に作品を作るのも好きなんじゃないかな。

ー 東京に来てから、自分が描く絵に変化を感じたりする?

Amity : それはないと思う。環境、周りの人、ライフスタイル… 全部が変わる中、絵だけが、絵を描くことだけが変わらない。その変わらなさは私には心地よかったりする。

過去の自分に、「目を覚ませ!」

ー ワシントンD.C.で過ごしていた頃のことを振り返ると、当時は環境によって「本当の自分」を押し込めてしまっていたのかな…?

Amity : どうだろう…。でも、今の方が自分で自分の責任を負うことが多いこともあって、前よりも自分を強く持てているとは思う。別に自分のことを成功者だなんていうつもりはないけど、今の環境で結構うまくやってるなって。当時は私に話しかけもしなかった子たちが私のインスタグラムをフォローしたり、「元気そうだね!」ってコメントをくれたりしてるから、今の私は彼女たちの中でポジティブな存在になってるみたい。仮に高校時代に戻ったとしても、彼女たちを怖がることはないかもね(笑)。

ー 彼女たちのこと怖かったの(笑)?

Amity : なんていうんだろう。今思うと、小学校とかって本当にぐちゃぐちゃだった。みんな大人っぽく振る舞おうとするし、誰も自分らしくあろうとしないし、何かの流れに自分を当てはめようとするし。私も昔は髪が長くて、スキニージーンズを穿いたりしてたんだけど、周りはブロンドヘアに青い目の子ばかり。どうして自分は彼女たちと同じじゃないんだろうって毎日悩んだりしてて。本当に時間の無駄だった!過去の自分に「目を覚ませ!」って言いにいきたい。

ー 今はもう、そういう自分のことを受け止めてる?

Amity : 最近は過去の思い出に浸ることが多くて。すごいノスタルジックな気持ちになって、これは自分のウィークポイントだと思いつつ、私はただ過去の自分に誇りを持ちたいんだなって思った。
昔から数年後の自分に手紙を描くのが好きなんだけど、そうやって書いた手紙を本の間とかに挟んでおいて、何年も忘れたままにするの。あとは過去のTumblrの投稿を見返して数年ぶりに返信してみたり。今の自分に何かを返すには主観的になりすぎちゃうんだけど、13歳の自分が言ってたことをポジティブに捉えたり、当時の自分に前向きに返すことはできる。ある種、自分で自分の背中を押すというか。

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自分で作った壁を壊してしまえば、
後の人生がぐっと生きやすくなる

ー さらっと話してくれたけど、過去の自分に「目を覚ませ!」と言うのってすごいことな気がする。その一言をなかなか自分自身にかけられないでいる人に、一言もらえませんか?

Amity  : "Don't shrink yourself for others."
これが私の人生を通しての学び。これは自分のジェンダーで苦しんでる人に限った話ではない。私は人の目を気にして過ごす時間が長かったし、当時は自分がそうやって小さくなってることにも気づかなかった。多分今も少しはそういう部分があるんだろうけど。人生のどんな時でも、みんな自分で自分を小さくしないで欲しいなと思う。

ー 私も、気づかないうちに自分の可能性を狭めてることがあるんだろうなって思う時がある。

Amity  : 私たちは自分で壁をつくって、自分で自分の可能性を狭めてると本当に思う。それは簡単に越えられるような壁じゃなくて、ジェンダーとか、どんな人が好きとか、そういうこと…  一旦その壁を壊してしまえば、後の人生がぐっと生きやすくなる。自分の頭を使って何かを考えることは大切だけど、考えすぎる必要はないのかなって。と言っても、私も考えすぎちゃうんだけど(笑)。

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環境の常識に違和感を感じたり、それを発する中でいろんな人の期待を受け止めたりしてきたAmityさん。今の自分の思いを語るその姿には他者と自分の違いをひとつひとつ見つめる真摯さが表れていて、それがAmityさんのしなやかな物差しを揺るぎないものにしているように感じました。

「LGBTコミュニティのアイコン」と呼ばれたことは、Amityさんにとって、自分が誰かのためになっている実感と繋がっていたのかもしれません。一方で、私たちの時間は自分自身のためにも費やされてしかるべきであるはず。誰かの目に映る自分のことばかり考えて、自分の目に映る自分の姿をおそろかにしてしまっては、私たちは永遠に「本当の自分」を探して彷徨い続けることになってしまうでしょう。色んな経験を経て、Amityさんは自分の目で自分の姿を形作ることを知った。だからこそ、「たまたま自分がノンバイナリーだなって思っただけ」というひとことが私には力強く響いたのです。

私たちの存在が誰かのためになることもあるけれど、それを狙うのって結構難しい。もし誰かのために生きる自分の姿ばかりが浮かんだ人がいるならば、たまには自分のために時間を過ごしてみるのはどうでしょう。「たまたま見つけた好きなもの」「たまたま見つけた自分らしさ」に没頭するあなたの姿は、気づかぬうちに誰かの背中を押しているかもしれません。そう考えるのは私だけではないように思うのです。


Writer : Maki Kinoshita
Editer:Yuri Abo
Interviewer : Edo Oliver / Maki Kinoshita

REINGでは、自分自身と向き合いながら「自分らしい選択」を紡ぎ続けている人たちのインタビューを実施。今はまだ「普通」とされていない選択をしている人たちや、フォーカスされていない関係性を紡ぐ人たちのお話を通して、形やあるものにとらわれずに、自分らしさを見つけるヒントをお届けしています。

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