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「誰かが決めたらしさ」を脱ぐきっかけに ー IIQUALが目指す、性別の枠組みを超える服づくり

「誰かが決めたらしさ」を脱ぐきっかけとなる服づくりに挑戦する、ファッションブランドIIQUAL(イーコール)。2021年4月、従来のメンズ・ウィメンズという区分のないアイテムの数々を携えてデビューしました。

REINGは商品開発の段階でアドバイザーとして、その後のクリエイティブ制作においてプランニングとキャスティングに関わりました。また、ジェンダーバイアスにとらわれず多様な生き方をする人々にフォーカスした企画「Diverstyle Book」をプロデュース。通常ファッションブランドにおいては、服の商品スタイリングを見せるための"ルックブック"が制作されます。しかし、IIQUALでは「多様な生き方をする人をエンパワーメントするためのブランド」として、その人々の価値観や生き方といったストーリーを追った"ライフスタイルブック"を制作しました。

社会風潮のみならず、服づくりの現場にもまだまだ性別の区分があるなかで、その当たり前を取り払い、誰もが着られる服の開発を試みてきたそうです。社会が決めた「らしさ」を脱ぎ去る体験を、ファッションを通して応援したいと考えるIIQUAL。性別問わず全ての人が「誰かが決めた“らしさ"にとらわれることなく、自分らしいファッションを楽しむことができるように」という思いをもつ同志として、IIQUALのブランド担当者の皆さんに服づくりのアイデア、意識や思考の変化についてお話を伺いました。

写真左から
宮本彩子さん (IIQUAL デザイナー)
飯室航嗣さん (IIQUAL マーチャンダイザー)
市毛茉莉さん (IIQUALマーチャンダイザー)


ー まず、IIQUALがどんなブランドなのかを教えていただけますか?

飯室:IIQUALは「誰かが決めたらしさを脱ぐ服」というコンセプトで、メンズ・ウィメンズという概念のない服づくりに挑戦しています。誰かが決めたらしさではなく、自分のらしさを纏える服を目指して、ワンピースやスカートといった従来は女性用とされてきたアイテムをはじめ、性別を問わずに自由に着こなしていただけるデザインや型にこだわっています。さまざまにある体格への考慮や、心理的抵抗を少なくするデザインを心がけ、開発過程では様々なジェンダーや体格をもつ方々にフィッティングのご協力をいただきました。オンライン販売からスタートしますが、性別やバイアスを理由にこれまでは選択できなかったアイテムを着てみていただくことで、固定観念を脱ぎ去り「自分らしさ」を見つけることを、ファッションの立場から応援しています。

ー そのようなコンセプトで立ち上げようと思った背景は何だったのでしょう?

市毛:ファッション業界全体で取り組まねばならないテーマの一つに「サスティナブルなファッションのあり方」があります。今はどの企業でも考え始めていることだと思うのですが、弊社でも浮上していた大きなテーマでした。私たちも服づくりを通して、お客様と一緒に考えられる切り口を模索しているなか、チームでジェンダー平等の話が出てきたんです。弊社は女性が多くて、チームも男女半々の比率であることが多いので、職場ではそれほど性別の差を感じることなく仕事をしてきたのですが、家庭に置き換えたときに同じようには思えないよね、と。パートナーで手伝い合える家庭もある一方で、なかなか女性ばかりに負担が多い暮らし方をしている家庭もあります。そういった会話がきっかけで、環境問題や気候変動も重要なテーマだけど、ジェンダー平等はより身近に自分自身に置き換えて「問題があるな」と感じられた。このチームで取り組んでみたいと思える糸口が見えた気がしました。

課題に感じたのは、
「男性服」「女性服」の括りの根深さ


ー 服づくりに携わられてきた皆さんにとっても、ファッションとジェンダーはつながりの強いテーマだったのではないでしょうか?

飯室:世の中の常識がこうやって変わりつつあるなかで、ファッションの分野ってある意味では、すごく遅れている部分がたくさんあるなと思っていました。男性服はもともと軍服にルーツがありますし、女性服もココ・シャネルが切り開くまでは非常に着づらい物であったように、時代時代によって変化はしているものの、未だに「男性服」「女性服」という括りがしっかりと根付いてしまっていることを課題に感じていました。弊社でも制服が求められるシーンはあります。女性はカットソーでいいけど、男性は襟付きのシャツを着用しなければならなかったり。細かいことかもしれませんが「男性はスーツを着なければならない」という風潮が社会にあり続ける限り、ファッションって全然平等じゃないよね、と話したりもしましたね。

宮本:ジェンダー平等というと、社会では女性の方が不利益を被ったり犠牲にされている事実や報道が多いですが、服というカテゴリーでは男性の方が窮屈な思いをしている。私自身、そこが意外というか盲点だったんです。女性はメンズ服を着ることも厭わず結構好きなものを取り入れられる。けれど、男性はそもそもアイテムの幅が少なかったり、着てみたくてもサイズや機能が間に合わないことが多いことにどんどん気づかされました。

ー 男性の方が服に窮屈な思いをされているのは、意外と語られてこなかったかもしれませんね。

飯室:特に社会に入ってからはそれを顕著に感じてしまうんです。スーツとまでは行かなくてもちゃんとした格好をしなきゃいけない、カジュアルな服は敬遠されることもあります。私自身も自由に服を楽しみたいと思うんですけどね、男性服ってつまらないですよ、結構。素材やデザインもあまり凝られてなかったり、画一的なものが多い。だからこそ、ウィメンズの服の魅力を自分自身取り入れてみたい、好きな服を自由に着てみたら新しい楽しみ方を見つけられるんじゃないかって、私自身も考えながら開発に取り組んでいるところです。

宮本:私自身もメンズ服のデザイナーと一緒にお仕事するのは初めてでした。ユニセックスを掲げているブランドさんでも、メンズのデザイナーさんだけで作られているとか、逆にレディース服のデザイナーしかいないとか。分断された業界なのかもしれません。 IIQUALは一つのブランドに両方のデザイナーがいますから、リアルな意見が出てきやすくて、すごくいいなと思いましたね。メンズ服は型の選択肢がベーシックな分、仕様の凝り方はレディースとは違う。 逆に、素材に関してはレディースの方が選択肢がある。デザイナー同士で話しているうちにお互いの引き出しに新しいアイデアを見つけるようで、双方が発見しあえる関係です。

自由に服を着たい気持ち
それを叶えるデザインのアイデア


ー 性別のらしさではなくて「自分らしさを纏おう」というコンセプトには、どのような思いをお持ちでしょうか?

市毛:IIQUALに携わるまでは、私自身が「女性らしい服」「男性らしい服」という二軸の枠だけで判断して選んでいたなと思っていて。私には女性らしい服を着ることが自然でしたが、IIQUALを通じて出会った皆さんとのやりとりで「女性用」「男性用」に限らず、色々試してもいいかも!という自由な気持ちが芽生えたというか。一度その枠組みを取り払ったらもっと色々なアイテムを選べる自分に出会えたんです。私自身、自分にはこういうのは合わないから、と敬遠したデザインも当初はありましたが、いろんな人に着ていただくなかで、自由に服を着てみたい気持ちが湧いた気がしました。「意外といけるかも〜!」という気持ち。それが心と体にしっくりきて、楽しいなと思えたんです。何かを纏うハードルは自分自身が勝手に作っているところがあるのかもしれませんね。

宮本:私も結構腰が重いというか、固定観念に縛られるタイプの人間で。正直に言うと「これまでジェンダー問題に触れてこなかった私がデザインしていいのか」という葛藤を抱えてスタートしたんです。その過程で、今までレディースのデザイナーとして培ってきたデザインを男性のメンバーたちがすごく新鮮に感じてくれて、「スカートやワンピースを履いてみたい!」と意欲的に語ってくれるのを聞きました。私はすごく小柄で、自分が着たいと思ったものを着られないという経験を山ほどしてきたからこそ、男とか女とかではなく「シンプルに、着たいと思ったものを着られる世界がいいよね」って感覚に共感していきました。「性別の枠を超える」ことにフィーチャーするよりも「好きなものを着よう!」ぐらいの捉え方で、前向きに「自分らしさを纏う」ことにトライしていただけたらと考えています。

ー サンプルをいろんな人に実際に着てもらって、ヒアリングされてきたそうですね。想定外の発見などもありましたか?

飯室:シャツやジャケットは女性用と男性用でボタンの位置が逆なんです。男性がレディース服のボタンを止めようとすると、すごくやりづらいという意見は多かった。今回出しているシャツの一つは、取り外しのしやすさからスナップボタンを採用しています。

宮本:スカートパンツは、スカートを着たい意欲はあるけれども実際に着てみると慣れなくて「ちょっとスースーする」という男性側の違和感をカバーする発想で生まれましたし、ワンピースは、背中側のファスナーに手が届かないという男性の体の硬さに配慮してリボンを長めにしたり。骨格の差は想定して挑んでいたのですが、服を着るまでの作業の慣れの違いから生まれるデザインのアイデアはこれからもどんどん出てきそうで、それを解消していくのが強みというか、IIQUALらしさでもあるかなって思います。

市毛:たくさんの人に着ていただいて、いろんな骨格のひとが着られるちょうどいいシルエットを、ちょっとずつ整えていった過程がすごく重要でした。0.5cm単位で、ちょっとずつ調整していって。みんながいいと思える落とし所を見つける作業の繰り返し。ほんとにちょっとの差なんですけどね。

服をきっかけに、
気づきや会話が生まれたらいい


ー オンワードは創業90年を越える、老舗企業。歴史がある企業だからこそ、IIQUALのような新しい取り組みをする意義を感じる一方で、乗り越えなければならないハードルも高かったのではないですか?

飯室:僕らが今やろうとしていることは、大きなブランドを一発で立ち上げるのではなくて、小さなブランドの集合体をいっぱい作って、それを一つのプラットフォームにして出していくっていう構想です。いきなり大きな売り上げを上げるよりかは、少しずつ少しずつ成長していくのがひとつ肝になっているかなと。単にトレンドやニーズに合わせた服づくりではなく、社会やお客様を取り巻く課題を自分たちから一つずつ見つけていって、それを乗り越えるブランドを作っていくという考え方を取っています。そういう話し合いをしていって、社内の理解を得てきました。

宮本:正直、会社名で買う時代ではないのかなと思っています。ブランドが小さくても大きくても、自分の欲しいものを買ってくださる時代なのかなと。IIQUALに共感してくださるお客様がどんどん広がって、「ああ、これってオンワードがやってることなんだ」と後から広がっていけばいいなという気持ちはすごいあります。それぐらい、全員が自主性と自信を持ってお届けしています。共感してくれる人は少なからずいると思うので、一気に全てを動かそうというよりも小さいところから共感してくださる方たちに届けて、成果を出せたらと思います。4月にローンチする商品たちはまだ完成系ではありませんし、お客様の声をどんどん聞いて次の商品や企画に繋げていこうねと、みんなで話しているんです。

ー たくさんの人々と一緒に作りあげた服が、いよいよ届いて行きますね。最後に、IIQUALの服づくりやアイテムを通して、どんな未来を描いていきたいとお考えですか?

市毛:私たち自身が、IIQUALを通じて「ジェンダー平等ってなんだろう?ジェンダーフリーってどういう状態だろう?」と考えるきっかけをたくさん得ました。これまでは意識できていなかったことも、目には見えていなかったことも、服をきっかけに会話に上がるようになったトピックが数々あります。会話が生まれたことで、フラットな関係性で仕事を進められているようにも思います。そういった気づきや会話が生まれるきっかけになるような存在であれたらいいなと思います。

飯室:私はいま30歳なんですけど、画一的なファッションやファストファッション全盛期を経た身として、こういった服たちも手に取って見ていただいて、本当に自分の好きなファッションを見つけて欲しいと願っています。新しい服に出会わない限り、自分では気づいてあげられなかった一面や「似合うな、好きだな」という気持ちってなかなか発見できないと思うんです。私のような“普通な人”がスカートパンツを履いて見せることも、そういったきっかけの一つになれば嬉しいですね。

宮本:本当にきっかけになればいいなって思っています。自分らしさを纏うことは「遠いものではない、普通だよ」ということを一人でも多くの人が伝え合える社会へのきっかけ。それがたまたま服だったというだけで、いいんです。EC販売からまずスタートなんですけど、実際に着てみることが一番の体験ですから、POP UPショップなど試着できる企画も今後進めたいです。

Interview / Text /  Direction: Yuri Abo
Edit: Maki Kinoshita, Asuka Otani
Interview Photo: Edo Oliver

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Diverstyle Book 公開中

ジェンダーバイアスにとらわれず多様な生き方をする人々にフォーカスした「Diverstyle Book」。服やスタイリングの参考になるだけでなく、その人の価値観や生き方といったストーリーを追った"ライフスタイルブック"です。インタビュー記事とIIQUALのアイテムを着こなしたビジュアルをお届けします。ブランド公式サイトおよび公式noteで順次公開予定です。詳しくは下記リンク先をご参照ください。


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- 二元論ではない多様な社会のための協働 -

Creative Studio REINGは 見えない“普通”という風潮をつくってきた従来のマーケティングやクリエイティブ、メッセージのあり方に疑問を投げかけながら、これからの時代を生きる人々に何を発し・伝えていくべきかを問いかけています。コミュニケーション戦略設計・プロデュース・クリエイティブ制作等のご相談は staff@reing.me までお問い合わせください。




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