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性別とかじゃなくて、 「これが自分」ってところに行き着いた ー FTM&FTXのYouTuber・がんこちゃんインタビュー

自身のジェンダーに対してそれぞれ異なる解釈を持ちながら、石川県を拠点にYouTubeでの発信や講演活動をされている二人組「がんこちゃん」。二人にお話を聞きたいと思っていたところ、ジェンダーの区別を持たないREINGのアンダーウェアに興味を持ってくれたことがきっかけで、REING Livingでの対談が実現しました。

東京と地方の違いって何だろう?「自分らしく」ってどういうこと?お話を伺いました。

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がんこちゃん / Ganko-chan
石川県を拠点に活動するカオルとコネの2人からなるユニット。2018年9月結成。「地方からLGBTを発信する」をコンセプトに、YouTubeでの情報発信を行なっている。

カオル / Kaoru(写真左)

1996年・石川県出身。自営業。自分を受け入れてもらえないと感じ、一度は嫌いになった石川県。周囲の温かさを知った今では石川県の魅力をバンバン伝えている。その経験もありYouTube活動を始め、FTM(Female to Maleの略:女性から男性へ性別移行を望む人)として発信を始める。いつまでも好奇心を忘れない大人でいたい!

コネ / Kone(写真右)
1997年・石川県出身。パーソナルトレーナー。中学生の頃はFTMと自覚していたが、高校生の頃からFTX(Female to X-genderの略:女性から女性・男性の性別のいずれでもないという性別の立場をとる人)。がんこちゃんとして活動する傍ら、現在の法律では夫婦・親子と認められない人たちへ家族関係証明書を発行する Famiee Project にも携わる。

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この場所で生きたいのに、
生き辛さのせいで離れるのは寂しい

Kaoru :初めてこの下着を見た時に「すごいな」みたいな感覚があって。男性も女性の下着?女性も男性の下着?って「?」が残って、もっと知りたいなって思いました。自分たちも、地方で自分らしく生き続けられるために話し合えるスペースみたいなのがあったらいいなって話しているので、まだ知らない考え方を学べるんじゃないかと思って来ました。

自分たちは地方出身で、地方ってなるとまだまだ理解というか、セクシュアリティへの認知度が東京と全然違ってて。日本全体が変わったらいいなと思う反面、今は東京ばっかり盛り上がってて、地方に行くと「LGBT」の意味すら分からない状況。その差って何なんだろうと感じています。

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- 言葉の認知の差とか情報の届き方の違いとかは、やっぱりあると思いますね。
ただ、最近になって「純粋に知らないだけなのかな」という気もしてる。私は福岡の田舎出身で、地元に帰って話をすると、たしかに周りの人たちはLGBTQっていう言葉を知らない。だけど説明すれば「あ、そういう人もいるよね」みたいなライトな反応だったりする。言葉が広がっている=正しく知られているっていうことでもないと思うし、言葉を知らないからといって存在を拒否してる・受け入れてない、ってことでもない。だから、地方だから理解が進んでいないとも言い切れないんじゃないかなと思っています。

Kaoru : 地方は親戚同士が近いとか、噂がすぐ回るとか、みんなが行く場所とかも決まってたりしたりして、人目を感じるっていうか…。東京だったら知らない人ばかりだし、何やっててもみんな見てないだろうみたいな感じなんですけど、地方にいるとどこかで繋がるんじゃないかって…。みんなが繋がっていることにちょっと生き辛さを感じるのかな。

- 二人はそんな地元を変えていきたい気持ちがあるんですか?

Kone : はい。

Kaoru : そんな中、がんこちゃんとして色んなところに行くうちに、一周回って地元の良さを思うこともあって。自分がカミングアウトを決めた時も、小さい頃から自分を知っている人に囲まれていたからこそ、カミングアウトっぽいことを言わなくても周囲は「もう分かってた」ってなりました。
東京にやりたいことがあるから行くんだったらすごい良いことだと思う。でも、こっちにやりたいことがあるのに居られない状況はなんか違う。この場所で生きたいのに、生き辛さを感じて東京や別の地方に出てくのはなんか寂しいなって…。そういうのを変えていけたらいいなって考えてますね。

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着ぐるみを着ていた自分
本心を言えず、嘘をついているようだった

- カオルさんは「女性」というラベルを持って生きていた時と、今「男性」というラベルを持って生きている時とで、感じ方とか人に対する接し方の違いはあったりしますか?

Kaoru : うーん… めっちゃ大きな違いはないんですけど、やっぱり自分が男性になったことを伝えた時から、周りも「男性」として見てくれるようになったっていうか。男性として意識されて、女友達からは少し距離を置かれたことは、自分的には嬉しかったことでもあります。
今まで女性として生きてきた20年間があるから、男性になりきれないところもある。ほんと丸っきり女性の生活だったので、男性らしさを求められても対応しきれない。でも、今までは女の人の"着ぐるみ"を着てた感覚…この体は自分じゃないし、違う人の中に入ってる感じ。二重人格みたいになっていて。

- 気持ち悪い、みたいな感覚が強いのかな…?

Kaoru : そうですね。高校くらいまでは、自分が言ってることなんだけど「女」の自分が言ってるって感覚が強くて、心の中で本当の自分が思ってることは言ってない。すると、嘘ついてる気分になるんですよ。自分の思ってることを言えない+人に平気で嘘をつけるようになってる自分も、めっちゃ嫌でした。
まだ男性に変わって3ヶ月なんですけど、今もまだ自分らしさっていうか、どういればいいのか考えています。

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性別とかじゃなくて、
「これが自分」ってところに行き着いた

Kone : 私は、性別を変えないっていう選択をしました。

- それは、どうして?

Kone : 私は小学生くらいから自分の性別に疑問を持っていて、一時期は男性に変えたいって思ってたんですけど…。ある女性の存在によって、別に自分は男性になりたかったわけじゃないなっていうことに気付いて。そこから自分の性別は何なんだろうと考え続けた結果、別にどちらになりたいわけでもないと思った。性別とかじゃなくて、「これが自分」っていうところに行き着いたので、体を変える選択にはならなかったです。
その時学生だった自分は相談できる人もいないし、学校の図書館に行っても大した情報が無いし、ネットもあまり使えなかったし…。その時は大変でしたね。

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- 今は「自分らしくいられてるな」って思います?

Kone : あ、もう、今は。
その女性…18歳くらいの時に付き合ってた彼女で。それまで付き合ってた人は自分を「男性」という形で見てたんですけど、その方は私のことを性別関係なく見てくれてて。それを受け入れられたことによって「あ、これでいいんだ」って、ありのままの自分っていうのが分かるようになりました。

- 素敵ー!めっちゃいい話。

Kaoru : でも、友達の枠から抜け出せない中で自分の気持ちを伝えて、今までの友達の関係を壊すのも嫌だし、考えるよねーって。さっきも二人で話してました。

- 関係性って結構変わるものだから、友達の時期もあれば、恋人の時期もあって、兄弟みたいな時期もほんとはあるはず。「恋人!」みたいにラベルを貼られた瞬間にその頭になっちゃうから、そこは難しいなと思う。ラベルのイメージが固定化されてると、自分がどう思うか、何を感じるか以前に、ラベルに対する役割とかを求められちゃう。そこって結構しんどいんじゃないかなと思ってる。

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「自分らしさ」の理解は、
自分じゃなきゃ出来ない

Kaoru : コネみたいに、悩んで悩んで、そういう環境や関係性によって性別を変えない選択をする人も今後増えると思います。自分はコネとは対照的で、たぶん環境が変わっても変われなかったと思う。自分は逆に、体を変えたことによって自信がついて、自分らしさを出せた感じもあった。環境が変われば体の違和感が無くなるかって言われると、違う人もいるのかなって思ってて。

- 性別も含めて、どういう自分でいたい、どういう風に見られたいっていうのになかなか答えは出ないよね。
身体を変えることで自分らしさを取り戻せるんだったら、それはそれですごくいいなとは思いつつ、日本の法律で言うと、戸籍上の性別を変えるためには生殖機能を全部取らなきゃいけなくて、心身ともに負担がすごく大きい。過去会った方の中には、戸籍上は出生時の性別のまま、例体は変えずに自分の振る舞いとかファッションだったりとかで変えてる方もいた。社会的イメージを装うことで解決する人もいれば、身体を変えるという選択で解決する人もいる。違和感の強さが人によってだいぶ違うんだなって思って。

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Kaoru : そう思います。その理解ってたぶん、自分自身じゃなきゃ出来ないと思うんですよ。最近「自分らしく」っていうフレーズを色んな場面で目にするなって感じていて。自分らしくいるのはすごく良いことだけど、その「自分らしく」を他人に押し付ける感じがするというか…。その答えはその人にしか分かんないし、実際言葉だけじゃ分かんないし。みんなLGBTのどこかに入らないといけないかって言われたら、そうでもないと思う。一から十まで他人に全部理解してもらうのは無理だけど、認めてもらえる。そういう関係があればいいですよね。

- 分かります。違うことが前提であると構えるのがすごく大事かなと思っていて。ただ、今はまだ違う存在をお互いに認め合うことが難しい。多様性を考えることって、それをどう実現するかを考えることだなと思ってます。

Kaoru : たぶん地方にも実際にいるんですよ、当事者が。いるけど、いないものと思ってる。身近にいないからこそ分からなくて、いるはずの人も生き辛くて外に出てってしまう。そんなことが起こってるような気がしてます。
その状況で当事者と実際に会ってみて、当事者であるかないかは関係なく、色んな人が分かり合えるような機会をもっとつくりたい。まずは石川県で、遅れてるところの差を埋めていきたいと話しています。

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本当はいるけど、いないものと思う。“身近にいない”からこそ分からなくて、”本当はいた人”が本当にいなくなってしまう。二人の話を聞いて、「知らない」という無関心の怖さについて考えさせられました。

カオルさんが「今までは女の人の"着ぐるみ"を着てた感覚…この体は自分じゃないし、違う人の中に入ってる感じ。」と言っていたけれど、これは身体的な違和感に限った話ではない気がします。互いに本当の姿がわからない中で、私たちは誰しもがラベルと呼ばれる"着ぐるみ”を自分や相手に着せている。それは対話を築くために必要なものだけど、あくまで手がかりでしかない。相手や自分が思っていること、感じていることを大切にできなければ。「この人はどう思ってるのか?」と考えてみなければ。そして、その気持ちを素直に伝えることができなければ。私たちは永遠に本当の自分を隠したまま、それを着続けることになってしまう。

「自分らしさ」とは、”着ぐるみ”を着たり脱いだりする中で見いだされるのかもしれない。私たちが自分らしくあれる場って、そういう自由がある場所のことを指すのではないでしょうか。



Writer : Maki Kinoshita
Editer:Yuri Abo
Interviewer : Asuka Otani
Photographer:Yuri Abo / Edo Oliver

がんこちゃんがこの記事のトークをYouTube動画にしてくれました。対談の雰囲気が伝わってきます。ぜひ合わせてご覧ください!

REINGでは、自分自身と向き合いながら「自分らしい選択」を紡ぎ続けている人たちのインタビューを実施。今はまだ「普通」とされていない選択をしている人たちや、フォーカスされていない関係性を紡ぐ人たちのお話を通して、形やあるものにとらわれずに、自分らしさを見つけるヒントをお届けしています。





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