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みなさまのたなごころ撰集

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これは私だけの、と云いながら、その宝箱とやらをどうしても人の目前でぱっと開けて見せたくなるというのは、どうやら生来人間に根を張っている欲求らしい。たなごころ撰集だなんて、それっぽ…
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2021年12月の記事一覧

【小説】ホタル

【小説】ホタル

せまいアパートの一室で。瞳から成って、頬を伝い、顎の先から、透きとおったようなその一粒が、落ちる。あの時、瑞葉が言ったとおりの方法で、いま、ぼくは精神と生活から解き放たれようとしている。神さまなんて信じていなかった、あの時。

***

「辛いことがあった時はね、自分のためではなくて他人のために哀しんで、他人の幸せを祈るようにして涙を流すの」

「なんで、そんなことを?」

瑞葉は、こうして不意に

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