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長編小説【記憶の石】

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14歳の、終わりから。 ※フィクションです。
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2022年12月の記事一覧

【記憶の石】⑦

【記憶の石】⑦

 私がバンさんとの行為をイメージするときに同時に再生されているのが、蛇がネズミを丸呑みしている映像である。頭の中に二つのスクリーンがあって、額の真ん中あたりでバンさんとのセックスが、そして左前方か左後頭部のほうで蛇がネズミを丸呑みしている映像が同時に流れている。実は、バンさんとのセックスビデオよりも蛇のスクリーンのほうが大きいと感じている。バンさんとのセックスが流れるスクリーンは額にピッタリと張り

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【記憶の石】⑥

【記憶の石】⑥

 当の本人が愛だと信じる感情を、他者が否定し取り上げるのは難しいし、それが本人の不幸にもなり得る。未熟な愛着でも、愛は愛なのだ。
 あのときの私は、今思えば、自分の感情を取り上げられないように必死で守っていた。実際、心のどこかでは、すぐに気づいていたのだと思う。あの男とは、恋愛関係にないということを。でも本来の自分に似合わず華々しい高校生活を始めてしまった私は、後に引けなくなってしまった。男は目の

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【記憶の石】⑤

【記憶の石】⑤

 イズミは待機所のブース内でうたた寝していた。客がつきにくいのに朝イチで出勤するのは、せめて普通の、一般的な仕事をしている人間を装ってラッシュ時の電車に乗りたかったからだった。
 オフィス街の深みに、彼女たちにしか見えない階段がある。そこそこ急で埃っぽいその階段を3階まで上がり、グレーのペンキがベッタリ塗られた古い扉を開けると、スーツ姿の若い男女がパソコンの前に座っていて、にこやかに迎えてくれる。

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【記憶の石】④

【記憶の石】④

 私は誰のサオで処女を喪失したのかわからない。わからない、今でも。裂けるような痛みで少なくとも4人はベッドから突き飛ばしてしまった。
 私は「挿れる」直前までが好きで、おそらくその瞬間が当時の自分にとってのオーガズムで、それを目指して男を引っかけていた。だから、私に性欲というものはちゃんとあった。それが物理的なオーガズムを求めることでなかっただけで。
 「入った」のは誰と、いつだったかは思い出せな

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【記憶の石】③

【記憶の石】③

 トモは数学が得意だったのか、『受験が終わったら遊ぼう』ではなく『数学なら教えてぁげるよ↑』としきりにメッセージを送ってきた。少女は、その言葉自体にはそそられなかった。トモが在籍しているという大学は、自分が目指している高校から進学するには「負け組」に相当するレベルだったからである。少女の心を掴んだのは、トモからの強烈な興味、好奇心だった。
 トモは見ず知らずの女子中学生である自分と、積極的にコミュ

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