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タラの芽

山菜が好きだ。
旬のものを、とれたてのエネルギーそのままを贅沢にいただけるあの感じ。
ヨモギ狩りをしたいが、都会ではなかなかお目にかかったことがない気がする。単純に、私が草や地面に目を向ける心の余裕をなくしているだけだろうか?
だけど、今月引っ越した先はほどよく町と緑とが共存しあっている場所で、どこかで彼ら(ヨモギたち)お目にかかれるのではないか?と密かにワクワクしている。
単純に今の所お金がないので、無料でたべられる食料源はとてもありがたい、というのもある。

アルバイトの帰宅途中、乗り換えの駅内に小さな八百屋さんみたいなお店がある。
採れたてのお野菜や、旬のものを使ったお惣菜なんかが並んでいて、そういったものに目がない私は思わずそれらをじっと見た。
春大根や、レタスや、掘り立てっぽそうなじゃがいも。春にできた野菜はなんだかわいわいしている。上手く言えないけど、陽のエネルギーを放っていて、食べて食べてと私を誘ってくる(気がする)。
私は食費一月1万円生活を今月から営んでいる。買い出しは基本水曜日と決めているので、なるべくこれ以上の出費は避けておきたい。そんな時八百屋に足を向けた私がアホだったかもしれないが、中でもひときわ気になるものがあった。
タラの芽だ。まずスーパーではなかなかお目にかかれないし、あったとしても小さいの数個がパックで結構なお値段で売られていたりする。
その八百屋さんで見つけたタラの芽は、芽がぴょんとでっかくイキイキとしていて、それでいて200円と、量の割にリーズナブルであった。
なんだかワクワクした。だけど、私は水曜日まで食料品は買わないと決めていた…。さあ、どうする俺。このまま流されて買っちまうのか?俺。否、200円でこのワクワクが味わえるのであれば、費用対効果は抜群である。200円分しっかりと味わって、幸せな気持ちをたんと享受すればいいじゃないか。待て、俺。タラの芽なんかのんきに料理している時間があるのか。家のことやライブ、創作活動のこと、やるべきことがてんこ盛りだろう。俺…。
そんな風に脳内に突如として現れたもう1人の自称「俺」伶と対話しながら、どうにか帰宅した。カバンの隙間からぴょんと伸びたタラの芽の葉っぱを覗かせながら。

私はタラの芽に負けた。否、勝ったのか?
「俺」伶に負けたのか。否、勝ったのか?
…そもそもお前は誰だ。
そんなことを考えていたら映画「君の名は。」の入れ替わり妄想とかが脳内を繰り広げ始めそうだったので、「俺」との対話はこれにて中断することにする。

引っ越したばかりなのでまだ整い切っていない家のことをざっくばらんにやり終え、タラの芽調理の時間をどうにか確保。
山菜はとりあえずなんでも天ぷらにしたい。エネルギーが高いものは、私が余計な調理をしてこねくり回す必要はなく、なるべく材料たちの邪魔をしないように心がける、それくらいの心持ちの調理が丁度良いと思う。私たちはもっと、材料に対して謙虚であるべきだ。
なんてエセ哲学的で偉そうな話はとってもどーでもいいので調理に戻る。
小麦粉がないので米粉と片栗粉を適当に合わせ、水をざっくり粉と同量くらい加えて菜箸で混ぜる。米粉はダマになりにくいのでよくも悪くも、どのくらいの比率が天ぷらの生地としてちょうどよいのかわかりにくい。直感でちょっととろみがついてるな、くらいの水分量で配合した。
水気を切りタラの芽はそのまま揚げるにはでかいのでいい感じにちぎる。
先程作った生地にちょんとタラの芽達をつけ、生地をいい感じにはかし、少なめの油で揚げる。一ヶ月1万円生活は油だって貴重な食料源だ。無駄になどできない。揚げるというより、焼き揚げに近いニュアンスで仕上げさせていただくことにする(謙虚さ)。
米粉で天ぷらを作ったことがなかったのでちゃんと仕上がるのだろうかと一抹の不安がよぎったが、しばらくするとタラの芽達の表面はカッチリ、天ぷららしくコーティングされてきた。そうなると天ぷらを裏返す(焼き揚げタイプの天ぷらのため)。両面が天ぷらりしくカッチリしたら引き上げる。
延々と上げ続けるうち、天ぷら職人になった妄想をしながら(嘘)、時にちょっとつまみ食いをしつつ🌿完成した。



うぇーーーーい!

さてはて、玄米ごはんとともにいただく。それはなんとも原始的なビジュアルで、250年前の貴族の食卓と言われても違和感のない本日の空花家の晩餐である。250年前に天ぷらはあったのかしら?
さてはて、お味は…。口に入れた瞬間、さくりと音を立てた。これは…天ぷら!🌿
どこまでもちゃんと天ぷら。米粉は逆にさっくり仕上げる効果があるのではないだろうか?時間が経ってもいい感じにさくさくいけた。むしろ、小麦粉の天ぷらより美味しい気がするゾ!

天ぷらをいただきながら、ああ、こういうのよいな、とじんわり思った。
旬のものをさっと天ぷらにできる、そんなことができちゃうような心の余裕を持ちたい。そんな私に、この春からはなっていこうと私は改めて強く思うのであった。費用対効果は抜群だったよ、ありがとう200円のタラの芽。
…焼き揚げの油が意外と余ったので、近いうちにまた何かを揚げようっと。
昨日の私の、生活の中で見つけた小さな幸せのご紹介でした。

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