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ユニバーサルデザインとピクトグラム〜しぜんのかがくep.33 ぼうさい豆知識〜津波からの避難

これまで紹介してきたピクトグラムの原型とされているのは、実は今から約100年前、1920年代にオーストリアのオットー・ノイラートが開発した「アイソタイプ」というものです。ノイラートは哲学者でもあり、社会学者・経済学者でもありました。

アイソタイプ(「国際図象言語」つまり「国際絵ことば」という新しい言語の概念を発表したもの)は、戦争で教育を受けられなかった労働者や、言葉のわからない移民に対し、新しい視覚記号で情報コミュニケーションを図る目的で開発されました。それまでは文字だけの情報伝達が主流だったので、画期的ですね。
例えば、以下の図です。「コーヒー豆」「ココア」「紅茶」の輸入量(白抜き)、消費量(黒塗り)を表しています。

ピクトグラムはユニバーサルデザインでもあるんですね。

ユニバーサルデザインという考え方は、1990年代後半に「ユニバーサルデザイン(UD)」として、日本に改めて「輸入」されました。ユニバーサルデザイン(UD)とは「universal=普遍的な」の言葉が示す通り、文化・言語・国籍や年齢・性別・能力などの違いに関わらず、できるだけ多くの人が利用できることを目指した設計(デザイン)のことです。これまで作ってきたピクトグラムのデザインは、ユニバーサルデザインの考え方とほぼ一致しているということになりますね。
SDGs時代に、ユニバーサルデザイン(UD)の歴史を改めて振り返る|TOPPAN|TOPPAN CREATIVE

私たちが普段生活している身近な場所にユニバーサルデザインは活用されています。例えば、多目的トイレ、音声案内、絵文字(ピクトグラム)の標識、幅の広い改札も車椅子が通れるよう配慮されたユニバーサルデザインです。
携帯の絵文字(emoji)も日本初のユニバーサルデザインですね。絵文字でいろんな感情や象徴など表現できます😁1990年代終わりのポケベルから発祥したようですよ。🗻(富士山)や🗼(東京タワー)といった日本の名所が絵文字に含まれています。♨(温泉)、🎏(こいのぼり)、🍢(おでん)、📛(名札)なども日本らしいですね。「おまもり」で変換すると出てくる、不思議な青い二重丸🧿。これは「ナザール・ボンジュウ」というトルコのお守りです。「ファラフェル」と入力すると出てくる、お団子みたいな絵文字🧆。これは中東のコロッケのような料理なんです。干支の龍🐉も出てきますね。

また、私がよくPowerPointでも使っているのが、ユニバーサルデザインの視点で作られたフォントを「UD(ユニバーサルデザイン)フォント」です。
遠くからでも文字の形がわかりやすく、誤読しにくいようにデザインがされています。

モリサワ・新ゴとUD新ゴの比較例。UD新ゴはAdobe Fontsで利用可能 
「山」はよりシンプルなかたち
「な」は3画目を離すことでよりはっきりとした文字のかたち
「C」「3」は開口部を大きくすることで、「C」と「O(オー)」「0(ゼロ)」との読み間違い「3」と「8」の読み間違いを減らす配慮がされています。

ピクトグラムはナッジにも使われています。ナッジとは「そっと後押しする」の意味の英語。自発的に行動したくなるように背中を後押しする設計のことです。これはナッジ理論といって、2016年に行動経済学のセイラー教授がノーベル経済学賞を受賞した考え方です。

例えばどんなことにデザインが使われているかというと、
ゴミなどの不法投棄が多い場所で、注意喚起の看板を立てても全く効果がありませんでした。そこに鳥居のイラストを書いたら???実は不法投棄が減ったんです。

イエローチョーク作戦と言って、飼い犬のフンの放置対策として、道路のフンがそのままになっているところに、黄色いチョークで丸をつけていただけで、フンの回収率が上がったそうです。看板をつけるより効果が上がったそうです。
また、外国では男性用便器をきれいに保つためのアイデアとして、ナッジを取り入れました。オランダのアムステルダム・スキポール空港では、男性用トイレの小便器に黒いハエを書いたんです。ハエマークによって、なんと汚れが80%も減少したそうです。お金にすると、空港で年間7億円かかっていた清掃費の2割(約1.5億円)が削減したそうですよ。

https://tamakisono.blogspot.com/2010/10/blog-post.html

スーパーのカゴを手に取ったとき、無意識にカゴいっぱいに商品を入れたいと思うことが多くありませんか。これもナッジ理論のひとつで、カゴの大きさに合わせようと商品を購入する傾向が人にはあるそうです。カゴの大きさを微妙に調節することで、売上アップを目指すのはナッジ理論を活用したテクニックですね。

コロナ禍で役立ったナッジは、消毒液までの道筋を矢印や足形で示すという方法です。意識せずいつの間にかデザインを生活に活かしている例ですね。

防災では、広島県が2018年に発生した豪雨災害をきっかけに、災害時の県民の避難行動を促進するメッセージを出しています。「今までは避難しましょう。」「準備しましょう」など、自身に投げかけるメッセージでした。それだとなかなか避難のきっかけにならなかったんですね。
ナッジメッセージとして、(A)「あなたが避難すると、他の人の命を救う」(B)「あなたが避難しないと、他の人の命を危険に晒すかもしれない」という、あなたの避難行動が周りに影響を与えるというメッセージに変えたんですね。
避難行動スイッチとしては、これまで近所の人の声がけ、親戚や孫の声かけで避難行動に結びついたという例がありました。
自分のことだと行動できないけど、誰かのために避難行動を起こさせるそっと行動を後押しするメッセージに変えることで避難行動を起こしやすくできるんですね。

参考:TOPPAN CREATIVE 「ユニバーサルデザインと関係の深いピクトグラムとは」

ぼうさい豆知識〜津波高さの影響

過去2011年の東日本大震災、今年(2024年)1月1日の能登半島地震では、津波の影響がありました。
能登半島地震では、石川県志賀町で高さ4.2メートル到達しており(東京大地震研究所1/4発表)、大津波警報もでました。
津波警報は、以下の基準で気象庁が発表しています。

気象庁ホームページより

実際は津波の力は、物理的には、その水の重さ×流速となります。水は物資としてはかなり重く、10センチ四方の塊(1リットル)でも1キロもあるので、物を流す影響が大きいです。
津波時の流速の測定は難しく、近似的に津波の流速と津波の高さが比例することから、津波災害を考える際に、津波の高さを基準にすることは適当とされています。

津波の高さの影響を以下の表にまとめました。
人が歩いて避難するには0.3mの津波でも逃げられなくなり、1mで人の命に関わります。木造家屋は3m、鉄筋コンクリートの建物でも10mの津波では全壊する可能性があります。
1983年5月26日日本海中部地震では、津波で104人が亡くなった。津波警報が遅れ、秋田県男鹿市では、遠足に来ていた小学生4,5年生13人が戸賀加茂青砂地区の海岸で津波にのまれ、亡くなりました。津波の高さは5~6メートル、局所的には約14メートルに達したそうです。

(参考)
津波波高と被害程度(首藤伸夫(1993)を改変)
気象庁 津波の高さと被害との関係(平成23年東日本大震災の事例より)
08tsunami_keihou_kaizen_siryou3.pdf (jma.go.jp)
気象庁 津波の高さと被害状況
https://www.data.jma.go.jp/ishigaki/bosai/tmanual/pdf/m29.pdf

津波の高さの影響(動画)「NHK明日を守るナビ」では津波の威力の実験映像が見られますので参考にしてください。
津波のメカニズム - ナビ動画 - 明日をまもるナビ - NHK

これまでの最大の津波高さは、2011年東日本大震災です。岩手県大船渡市の綾里湾で局所的に40.1mの遡上高(海岸から内陸へ津波がかけ上がった高さ)が観測されました。

津波は沖合ではジェット機に匹敵する速さとなり、沿岸でも時速36キロなので、あっという間に津波に追いつかれてしまいます。(オリンピック選手の短距離選手の時速と同じくらい)
1月1日の能登半島地震では、地震発生から第1波が到達するまでの時間は、石川県珠洲市と輪島市で1分以内と、日本海で起こる地震は断層地震が多く、非常に早く津波が到達します。
津波注意報(0.2m以上)がでたら津波が見えなくてもすぐに避難することです。避難場所としては、海に近いところは津波避難ビルが指定されています。(名古屋市は、中村区、熱田区、中川区、瑞穂区、南区、緑区、港区にあります。)

気象庁ホームページより

また、住んでいる地域にはどのくらいの津波がくるのか?を事前に知ることができます。やはりなんといっても、ハザードマップです。

私が住んでいる名古屋市のハザードマップでは南海トラフ地震の想定シミュレーションが示されています。30センチの津波の浸水想定時間もあります。
名古屋でもこれまで1853年の安政東海地震では、堀川に高さ2~3mの津波がきて、天白川の堤防がきれ、堀川を遡上したという記録があります。

⭐️Podcast本編はこちら↓宜しければお聴きください♪
神田沙織 がりれでぃ スピンオフ
ナチュラル・サイエンス・ラボ
しぜんのかがく




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