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怖がりな私の乳がん生きのばし日記 ㉗乱れ髪で術後半年の超音波検査を受ける

2021年12月21日

ついにこの日がやってきた。3ヵ月ぶりの乳腺外科。
手術から半年経ったので、おそらく検査をするのだろう。まさか半年で再発するはずがない……と思いたいが、やはり不安で落ち着かない。

昼休みに会社を出て、病院まで時間があるので、まずは予約していた美容院へ行く。

前回ショートにしたので、そこから伸びた分だけカットしてもらうつもりだったけれど、担当の若いお兄さんが「くせを活かした自然な感じで」とか「トップをふんわり立たせて」とか「前髪を流して動きのある髪型」とか、あれこれ提案してくる。心意気を有難く受け入れ、すべて了承する。

「このあとはお帰りですか?」
「いえ、ちょっと用事が……」
といっても、楽しい予定でもなんでもなく通院なのだが、お兄さんはそんなことつゆ知らず、
「わかりました!」と、はりきってスタイリング剤でセットしてくれる。

できあがった姿を鏡で見ると、ふんわり立ったトップに、前髪が流れて自然な動きのあるオシャレ頭の自分がいた。これで病院に行ったら、
「えらく乱れ髪だけど、外はよっぽど風が強いのかな?」
と、主治医の先生に内心思われるのではなかろうか……と考えながら会計をして、病院へ向かった。

病院に着くと、案の定、一時間以上待たされる。
心配のあまり何度かトイレに行き、そして鏡を見るたびに、
「髪、動きすぎでは……」
と、こちらもついでに心配になる。
そんなこんなでトイレや廊下をうろうろしているうちに、呼び出しのブザーが鳴った。

診察室に入り、まずは共訳書『算数の実験大図鑑』の報告をする。
「ちょうど乳がんの検査や手術のときに作業していたのですが、おかげで先月無事に本が出ました」と、お礼を述べると、
「ぼくも年に3回TOEIC受けてますよ」と、先生が言い出した。

なんと。私は一応英語を使う仕事をしているというのに、TOEICなんてもう十年以上受けていない。
それにしても、先生は外来に手術に学会に学生の指導と、ただでさえじゅうぶん忙しいだろうに、さらに英語の勉強もしているとは……超人なのだろうか。究極超人あ〜るみたいに、アンドロイドとか……

そしていよいよ超音波検査へ。
左に再発していないか? 右に新しいものができていないか? 
祈るような気持ちでベッドに横たわる。先生は放射線焼けが残る胸を見て、
「色素が沈着してますね」と言いながら、機械をあてていく。
「何もありませんように……」とびびっているうちに、胸から脇へ移り、「リンパも異常ありませんように……」と、念をこめる。

「大丈夫ですね。経過順調です」と、先生が画面を見ながら言う。
「リンパも腫れてないですね」
「ほんとですか……よかった!」と、思わず安堵のため息をつく。

とりあえず一安心したけれど、まだまだ先は長い。
なんといっても治療は十年続くのだから。先生に質問する。
「転移していないか調べるには、どうしたらいいんですか? 腫瘍マーカーで診るんですか?」
「いや、腫瘍マーカーはアテにならないし、症状がないのにCTを撮ったら無駄な被爆になるので、症状が出てからですね」

たしかにガイドラインにもそう書いてあるけれど、症状が出たらめっちゃ怖いやんけ~~~と思いつつ、さらに質問する。

「……症状って、どんな症状ですか?」
「鎖骨などにしこりができるとか、骨転移なら腰などが痛くなるとか」
「もし肺に転移したら……」
「咳が出たりとか」
身体の痛みや咳って日常茶飯事やないか~~~やっぱ何もかも恐ろしい! と、心の中で嘆きながら、またも質問する。

「……万が一、転移したら、ずっと抗がん剤を受けないといけないのですか?」
「いや、まずホルモン治療の薬と阻害薬を使って、それが効かなくなったら抗がん剤をします」
「はあ……仕事できますかね?」
「できますよ」

いや、そんな状態になってまで仕事したいわけではないけれど、仕事しないと病院代はもちろん、家賃さえも払えない。いや、たとえ働いていても、毎月毎月限度額いっぱいまで支払わなければならなくなったら、命より先に金が尽きるような気がする。
と考えていると、私の不安げな表情に気づいたのか、先生が言葉を足す。

「毎年のように新しい薬がどんどん出てきているから。また数年もしたら、治療ががらっと変わるかもしれないし」
「はあ……転移や再発しないよう、なんとか頑張ります」
どう頑張ったらいいのか不明だが、とりあえず声に出してみる。

「そうですね、運動を続けて」
「はい、毎日8000歩歩くのを目標にしてます」
先生の言葉を信じて、雨の日も風の日も雪の日も――いや、雪の日にはまだ遭遇していないけれど、きっとこれから遭遇するにちがいない――ひたすらせっせと歩いてるのだから、再発なんてするわけない! 
……たぶん、いやきっと! なんとか気持ちを前に向け、
「今年はお世話になりました」と、再度お礼を言って、診察室を出る。

不安が消えたわけではないけれど、いまのところは順調なので大丈夫、きっとこれからも大丈夫と、自分に言いきかせながら、今年何回通ったかわからない病院を出て、家へ帰った。

(この季節の曲というと、これ一択ではないでしょうか。
「世の中はいろいろあるから どうか元気で お気をつけて~」という歌詞が心にしみる年頃です。ライブに行くために頑張らねば!と、自分を奮い立たせた一年でした)



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