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怖がりな私の乳がん生きのばし日記 ⑮ 40万は高額なのか? オンコタイプDX

2021年7月13日

追加手術の抜糸をしてもらう。前回と同様、皮膚の上を糸が滑るだけで痛くはない。
それにしても、手術にしても抜糸にしても、手先が器用じゃないと外科医は勤まらないとつくづく思う。定規で線をひいたり、ハサミで紙を切る程度のことでも高い確率で失敗する私は、百回生まれ変わっても外科医にはなれそうもない。

抜糸が済むと、先生がまたも
「抗がん剤どうする?」と尋ねる。
そりゃ私だって、オンコタイプDXを受けて再発スコアを知りたい気はする。しかし40万は悩ましい。

どのみち再発スコアが余程低くないかぎり、抗がん剤を受けるつもりなので、オンコタイプDXを受ける意味があるのだろうか? 
それに、再発スコアが予想よりもさらに高かったら、結果を受けとめられるだろうか? その場合、抗がん剤を受けたとしても、いつ再発するのか気が気でなくなるのではないだろうか?

というようなことを話したあと
「40万は私にとって高額なので……」と、先生に言うと、
「誰にとっても高額ですよ」と、すかさず返ってくる。
医者は金持ちだから平気で高い検査を勧めてくる! と文句を言っているように受け取られたのだろうか?(それもちょっとあるけど)
でもやはり、私にとっての40万と、先生にとっての40万はちがうやろ~とも思うが、さすがにそうは言えない。

2021年7月16日

会社へ行く。6月末に復帰してからは、おもに在宅で仕事をし、週に1回くらい出勤している。

そして会社へ行くたびに、みんなから「大丈夫?」と心配される。よれよれの重病人と思われているのだろうか。
まあたしかに、手術を2回して、さらに抗がん剤もどうのこうのとかいうめんどくさい話を聞かされたら、「この人大丈夫かいな?」と私だって思う。

とはいえ、たとえオンコタイプDXをしなくとも、治療だけでじゅうぶんお金がかかっているので、働かないわけにはいかない。有休が打ち出の小槌のように無限に出てくるのならば、たとえ身体がピンピンしていても、いつまででも休みたいが……。

すると、後輩Aちゃんが私の席に何かを持ってくる。なんだろう? と見ると、「お見舞い」と書かれたのし袋だった。
後輩AちゃんとBちゃんが事務所の人たちに声をかけて、カンパを集めてくれたのだ。しかも、大阪事務所のメンバーのみならず、DC事務所のメンバーまでカンパに加わってくれたらしい。なんと有難い……!!

以前に紹介した『がんが自然に治る生き方』の9箇条のひとつに、「周囲の人の支えを受け入れる」というのがあるが、この点に関しては、完璧に実践できている自信がある。綺麗事を言うようだけど、病気になると、周囲の人たちの思いやりがつくづく心に沁みる。マークも感謝していました↓。

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2021年7月20日

午後に病院の予約がある。職場のみんなからもらったお見舞金を手に考える。これをオンコタイプDXにあてようか……40万もらったわけではないが、一応自分の貯金もある。老後のためと思って貯金していたが、ここで使わないと、老後まで生きられないかもしれない。

考えたら、再発スコアが高ければ、先生だって定期健診の際に念を入れて注意してくれるかもしれない、やはり採れるデータはぜんぶ採っておいた方が、予後もよくなるのではないだろうか?

そこへ、父ヒロシがやってくる。明日、母親が退院するのでその準備に追われていると話す。それならなんで来たんやと内心思っていると、父ヒロシが胸ポケットから封筒を取り出す。封筒の中には、40万の現金が入っている。

「これで検査受けたらええ」

ついに自分の貯金を崩さずに、オンコタイプDXを受けられることになった。これでいいのだろうか? いや、いまこのお金を使うつもりはない。受け取った封筒は、大事なものを入れている段ボールに収めた。将来、父ヒロシを老人ホームに入れる際の一時金に取っておこう。

病院に行き、予約の時間になると、先生が診察室から顔を出して待ち構えている。私が入るやいなや聞いてくる。
「抗がん剤、どうする?」
「すみません、いまさらですけど、やっぱりオンコタイプDX受けようかなと思って……」と言うと、先生の顔がぱっと明るくなった。

「じゃあ、40万現金で支払ってもらったら、検体をアメリカへ送るから……」
「現金なんですか??」
「そう、あと病院の会計ではなく、1階のファミリーマートで払ってもらわないといけない。というのも、混合診療になったらまずいから」
しまった! まさか現金とは思っていなかったので、父ヒロシの40万を家に置いてきてしまった。いやいや、さっきあの40万は使わないと決めたじゃないか。自分のお金をおろさないと……

「この近くに、三菱UFJ銀行ってありますか?」と聞くと
「ファミリーマートでもおろせるよ」と、先生が即座に答えるが、すぐに横からクラークさんが
「手数料かかりますもんね」と言ってくれる。
ほらやっぱり、先生は庶民の金銭感覚をわかってへんやん! と思いながら(医者だからというより、男だからかもしれない)、クラークさんに銀行の場所を聞くと、駅の反対側まで行かなければならないとのことだった。

そこまで行くのは億劫なので、病院内のATMで40万おろし(調べたところ、ファミリーマートは手数料198円だが、ATMなら110円だった)、ファミリーマートで支払って診察室へ戻ると、クラークさんに
「手数料大丈夫でした?」と心配されてしまった。
40万で散々悩んだので、かなりの貧乏人と思われているのだろうか……事実、貧乏人ではあるが。

オンコタイプDXの申込書に記入する。結果が出るまで4週間くらいかかる。
「それまで、無治療で大丈夫ですか?」と聞くと、先生は悩ましそうに
「うーん」と首をかしげ
「放射線治療をしてから抗がん剤治療をすると、ごくたまに胸の状態が悪くなる人がいるからね。まあ1ヵ月くらいなので、大きな問題はないでしょう」と言った。

つまり、結果が出るまで、乳がん治療も夏休みに入るということだ。
「しばらくはゆっくりして、病気のことは忘れて……」先生はそう口にしたあと、私の顔をちらりと見て
「無理かもしれんけど」と付け加えた。

次回の予約は8月24日になった。
誕生日の一日前に結果を知らされるのか……とんだ誕生日プレゼントやな、と考えていると
「あ、誕生日おめでとう」と、先生が言った。


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