見出し画像

少女漫画みたいな

入学してからずっと好きな先輩がいた。

少女漫画のヒーローみたいな人。

生徒の間でファンクラブができるほど、とてもかっこいい先輩だった。

練習に打ち込む様子。

部員とのコミュニケーションの取り方。

立ち振る舞い、言葉遣い、気遣い、どれも完璧。


話しかけたい。

話してみたい。

「好きです。」

その一言でいいから、伝えたい。


でも、先輩はいつも遠いところにいる。


春になったら先輩は卒業する。

隣の県の大学へ行くと噂で聞いた。



もっと、遠くなる。


恋なんて、少女漫画のようにいくわけないんだ。

全部幻想だ。



諦めていた。

心がぐしゃぐしゃになっていく。

離れていく。

遠ざかっていく。

無くなっていく。


嫌だ。


嫌だ。


嫌だ。



学校の帰り道。


そう、思っていた。





横から春の匂い。

過ぎ去って行く自転車。


靡く髪。

何度も見た後ろ姿。



「あ、の!!!!」


振り返る。

初めて見る驚いた顔。




「ずっと好きでした!!!!!」


考えるより先に勢いで出た言葉。



「ありがとう。」


初めて見る柔らかい笑顔。


その一言。


再び自転車に乗り、遠ざかっていく。


やっぱり少女漫画なんて幻想の世界。



でも。



その一言を伝えただけで心が軽くなる。


世界のトーンが明るくなる。


ずっと秘めていた、伝えられなかった思い。


少女漫画みたいな、恋の話。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?