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Phantom

一気に様々なものが繋がる瞬間が定期的に訪れる。

大抵その直前には煮詰まったようなスッキリとしない期間がある程度続き、きっとこれを乗り越えるとトンネルの向こうには見たこともない美しい景色が突然出現するんだろうなぁ…と淡い期待を抱いてやり過ごすことにしている。

トンネルの長さはまちまちではあるが長くても1週間。早い時には数時間で抜け切ることもある。「見たこともない景色」という形容は決して過剰な描写ではなく毎回驚かされるし間違いなく待ち望んでいた質感のものであるから狙って宝くじを当てたような達成感も味わうことが出来る。

勿論、その新しい世界との邂逅は嬉しいが真っ暗なトンネルの中を闇雲に疾走している期間も嫌いではない。トンネルの始まりに決まって起こる"青天の霹靂的不調"により「あぁまた暫くはこの老体を労って過ごさねばならないのか…」と哀れな気分へ落下し、時折チカチカッと目を攻撃してくるハロゲンライトを鬱陶しく思い、密閉された空間により増幅される中低音域の走行音で耳をやられようとも、その先に必ず待っている美しい光景が在るからこそ耐えられる。

耐え忍んだフェイズで得た教訓や実感がトンネルの先に広がる景色の印象を底上げする、と言った方が良いだろうか。

そんなこんなで今年に入ってから既に一度や二度ではない川端康成現象にもしかしたら己の命もあと僅かな予兆なのかと慄きつつもまあその時はその時ねと覚悟を決めて幸運を受け入れる。そんな時にふと宇多田ヒカルの「Fantôme
」が聴きたくなった。幻影や亡霊といった意味のタイトルが8年前よりも腑に落ちる。

代表曲(と勝手に自分で思っている)の「二時間だけのバカンス」のラストの歌詞が沁みる。幸運をひけらかすのではなくあれもこれも足りない不幸を喜びと感じられる人間になりたいと思う。

足りないぐらいで
いいんです
楽しみは少しずつ

二時間だけのバカンス/宇多田ヒカル

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