地獄の十王 その5.閻魔王
創作のために創作する。十王をキャラクター化しておもしろい作品に昇華できるのでは?という試み。
さてさて、十王のお裁きの折り返し。第5番目の十王がついに登場だ!
その名は、言わずと知れた地獄の裁判長。十王 オブ 十王。
“閻魔王(えんまおう)”だ!
知っているようで知らない閻魔様について、ちょっと調べてみようではないか。
そのメモである。
1.光明院と閻魔王のじつは...
閻魔王の裁きは、死後35日(五十七日)に行われる。
死後、だいたい1ヶ月後に行われる。だから、もし閻魔様に会いたかったら、1ヶ月は裁判に抗おうね。
......まぁ、この前の五官王でだいぶやられているとおもうけど💧
閻魔王の御殿は「光明院」と呼ばれている。
まず、最初に言っておくと
この建物。光明院。
めっちゃデカいっす!!
建物というものでいえば、十王の中で最大であり、獄卒も、収容できる亡者も最大級である。
その大きさ故に、かつて登場した地獄アイテムの「壇茶幢」が、一個だけでなく各四方に設置されている。
さらに皆さんご存じである、亡者の生前の罪を映すと言われている巨大な掛鏡・「浄玻璃鏡(じょうはりきょう/じょうはりのかがみ)」も設置されていたりと、規模に劣らず設備も十分なのだ。
これほどまでの御殿が閻魔王に与えられているのは、なぜか?
それは元をたどると閻魔が十王で唯一の「神」であるとされるからだ。
閻魔=死者の神
これは、ゾロアスター教の原典において最初の死者とされる神「ヤマ」が、インド~仏教にかけて死者の王にあたる「閻魔天」に移行した。
その後、中国~日本に伝来した仏教が道教と結びついた“十王思想”によって裁判官の一人「閻魔王」にいたるという変遷の歴史があるのだ。
だから、閻魔王が有名なのも、御殿が立派なのも、体格が巨大に描かれやすいのも。
神様に由来する存在だからということを前提にしている。
...なのに、というか実は。
閻魔の御殿が巨大なのは、もう一つの(というかこっちが真意か?)理由がある。
それは閻魔王のお仕事=裁きの内容に関係している。
2.与える裁き
閻魔王の裁判の役割とはなにか。
“亡者の罪と罰を定めること”
これである。
ん?今までの十王も同じことやってたって?
うん、そうだよ。
閻魔王の仕事は、「亡者の罪と罰を調べること」にある。
「貴様は地獄行きじゃ~!」と亡者の罪に応じて行き先を命じたり、舌を抜いたり釜ゆでを実行したりなどの罰を与えることでも、尺もってふんぞり返ることでもない。
今まで通り、
亡者がこれまで犯した罪とそれにふさわしい罪を定める。
さて、この意外にも思われるフツーの内容にも理由がある。
実は、地獄の裁判はかつて第四の王・五官王までであった。閻魔王は元々、インド仏教由来の存在なので、中国の道教と融合するまで登場していない。
なので、むしろ閻魔王の仕事とイメージされやすい、亡者に裁きを与えたり罰を与えたりするのは、五官王が役割を担っている。
※実際、五官王の御殿までの道中が最大級に過酷であったり、業秤によるハッキリした罪の自覚最終ジャッジ、現世の者にまで影響範囲を及ぼす罰など、いかにも最後の王らしい力を持っている。
仏教に道教が誘導したことで、地獄の裁判は4回→10回に延長された。
その最初を任されているのが閻魔王である。
しかも、これまでは4回で裁き終わるはずの裁判をかいくぐってくるような、極悪・罪深い亡者を相手取らなければらない。
ので、これまでの十王1~4の王が行ってきた「亡者の罪と罰を定める」という裁判と閻魔王のそれとは、その面密度が異なる。
なぜ裁判長が一人なのに、壇茶幢や浄玻璃鏡がたくさん設置されているのか。
閻魔王は一人亡者の生前の行いを、完璧に洗い出すからだ。
なぜ、閻魔の御殿=光明院はバカでかいのか。
亡者一人にかける裁判が濃密なので、待ち時間(待機時間)のために必要だから。必要だから。
あくまで閻魔王の裁判は、
“亡者の罪を完璧に洗い出し、ふさわしい罰を証明する”
ここで膨大な証明過程によって、罪と罰が確定した亡者たち。
対し、
それでもなお、定まりきらないような亡者たち。
証拠を見せつけてもなお、罪を認めない者たち=判決に不伏を申しつける亡者たち。
こいつらは次なる十王・変成王と泰山王によって。「罪の自覚」の旅路へと移っていく...
3.信仰対象としては「地蔵菩薩」
閻魔王の本地は「地蔵菩薩」。
そう!こちらもご存じの通り、お地蔵様である!
ダブルでビックネームなんですね、閻魔様。
有名な理由の一つは「子どもの守り神」であるからだ。
道祖神として、道ばたに祠が建てられていたりもするだろう。そこにお菓子やお花や、お供え物をする風習があるだろう。
これは、「道を行き交う子供たちが安全に暮らせますように♡」という願いを地蔵菩薩が引き受けてくれるからだ。
いつもありがとう!お地蔵さま(^^)
そしてもう一つ、「大慈悲」の仏様でもある。
普賢菩薩のさらに上をいく慈悲の仏様。
地蔵菩薩の“本来”の役割とは、われわれを見守ることである。
が、その期間はとんでもない。
“釈迦入滅後(お釈迦様が亡くなった後)、次の仏(=弥勒菩薩)が現れる5億7600万~56億7000万年後までの間”
宇宙がもう一個できるわ、こんなん。
これほど長い間、われわれの日常の隣でいつも見守ってくれているお地蔵様。これが閻魔王の真の姿である。
つまり、
“いつも見守っている = 生前も死後も、何でもお見通し”
それが閻魔王(地蔵菩薩)のすごいところだ。
現世では、自分が何ものなのか分からなくて思い悩む人がたくさんいる。
そんなときは、お地蔵様を見かけてみよう。
お地蔵様はいつも見てくれている。良いことも悪いことも知っている。
死後に十王の姿となった閻魔王に尋ねてみよう。
「わたしは、どんな人間でしたか?」と。
〆
4.〈参考文献など〉
『地獄の経典』山本 健治(2018)株式会社サンガ
『地獄巡り』加須屋 誠(2019)講談社現代新書
『十王讃歎鈔』系諸本と六道十王図 鷹巣 純(1997) 純東海仏教 (42), 1-17.東海印度学仏教学会
死後の十王(全13回)2020.10.10
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