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『MapFriend』はGoogleストリートビューのいびつな風景が持つ恐ろしさを確認させる、批評的な短編ホラーADV。【月の裏側のビデオゲーム】

【月の裏側のビデオゲーム】とは、メインストリームと外れた場所で、ビデオゲームの可能性を追求するタイトルを特集するものです。

いまやGoogleマップは生活や仕事に欠かせないものだ。特にストリートビュー機能は行先を事前に確認するときに重宝している。東京のおいしいカレー屋のチェックから、ベルリンの旅行前に興味深いストリートアート美術館の場所を見ておくところまで頻繁に使っている。

ストリートビューは現実をシミュレーションしたマップとして優れているが、よく見ると違和感があるものを映し出してもいる。地球上の都市部のほとんどを、気づかないうちに路地裏まで360度カメラが撮影し、マップの情報にしている事実もそれなりに不気味ではある。

不気味なハトマスク集団、モザイクがかかる人々、(見え辛いが)空にばらまかれるサービス元のウォーターマーク

しかし、それ以上に異様さがあるのはそもそものストリートビュー自体だろう。適当なビューを開いてよく見てほしい。空にはGoogleのウォーターマークがばら撒かれ、その空間が企業の所有物であることをアピールしている。360度カメラが撮影のバグを見せることもある。それはある種の現実感を歪ませるだろう。私たちは異様なシミュレーションやデバイスを通して今日の世界を捉えているのである。

このGoogleマップとストリートビューがもたらす歪さは、しばしばメディアなどで特集されるが、ゲームとして反応したものがある。それが『MapFriend』である。本作は10分弱のゲームプレイにて、Googleストリートビューが覆った現実をある意味で批判的に切り取ったADVとして優れている。

執筆 / 葛西祝

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Googleマップを開くのにOPムービーやタイトル画面がないように、『MapFriend』をスタートはいきなりどこかの衛星地図の表示から始まる。ざらざらとした映像だ。この世界はあきらかにGoogleストリートビューが開始された2007年より以前の古いコンピュータで描かれているのだが、まだ洗練とは程遠い時代の荒い画質や表示方法を使うことによって、これから起こりうる不穏な予感をプレイヤーに伝えるつもりなのだろう。

地図上に人型アイコン(Googleマップにおける「ペグマン」まんまだ)をクリック&ドラッグして落とすと、画面はまるでプレイステーションやセガサターン時代みたいな低解像度のローポリゴンによるストリートビューに切り替わる。

人型アイコンは不気味にユーザーへサービスの内容を説明する。しかしそれは親切なチュートリアルというより、信頼できない語り手だとか、これから人々を親切な言葉で地獄みたいな場所へ連れていく狂言回しだとか、そんな類だ。

地図に打たれたピンをクリックして調べると、その場所について教えてくれる。基本的に自然があふれていて、観光にはうってつけの場所みたいに見える。ピンを調べるとワイヤーフレームの地球みたいなものが飛び出していき、ゲームはこれを集めていくと先へ進めるかたちだ。

だいたいどんなホラーも最初は怪人も殺人鬼も親切に見える人間だとか周囲に紛れて見えないところに隠れているもので、時間が経つにつれて本性を現すものだ。だんだんとマップを調べていくと不気味な情報が目に付きはじめる。

ロケーションの情報が記録されていないエラーなんか序ノ口だ。マップには大きな事故か大量殺人の血痕みたいに錯覚するロケーションが見え出し、徐々にペグマンの説明もロケの情報も壊れ始める。

これはGoogleマップで見受けられる異様な風景の異様さを虫眼鏡かなにかでクローズアップするみたいに、『MapFriend』では世界中で記録された360度カメラのどこかで奇妙なものが映ったものを恐怖として表現するのだ。その恐怖から、今日の現実感を捉えるのに、常にGoogleやappleのサービスやデバイスが挟まっている事実を噛みしめることになるのである。

『MapFriend』を開発したアダム・パイプ氏は、膨大な短編ゲームを作る中でテクノロジーに関する興味深いホラーをいくつか開発している

過去には廃墟と化したマルチプレイヤーFPSのレベルを探索するホラー『No Players Online』、冷戦期のアメリカとソ連の緊張関係のなか、電話一本で核戦争の危機に関係する『COLDLINE』など、ある種の現実に対して批評的なゲームを生み出している。現在、『No Players Online』を無料版からさらにブラッシュアップしたものを開発中。テクノロジーに関するホラーにチャレンジしている作家として、アダム・パイプ氏は興味深いだろう。

ある種のテクノロジーが現実感自体にも影響を与える、という状況に対して、テクノロジーのメディアであるビデオゲーム自体が批評的に見つめるという入り組んだゲームが『MapFriend』といえるのかもしれない。

葛西祝
令和ビデオゲーム・グラウンドゼロ主催。
「ジャンル複合ライティング」というスタンスで、ビデオゲームを中核に映画や現代美術、文学、あるいはスポーツや格闘技なども越境するテキストを作り続けている。
●Twitter:@EAbase887 ●公式サイト
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