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③好きな子の名前が言えない〜ある吃音者の悩み〜

中学校へ入学したら
決めていた!


キャラを絶対に変えたかった!
実際にキャラ変に成功してる奴もいた。

いつも
「でぶっちょ!」とからかわれていた
タカトなんか
筋トレしてガッチリして、
面白いヤツになって、
女子に優しくしてモテだした。

いつもただへらへらして、
ただ背が高いだけだったまことなんか、
お笑い芸人のマネをして、
体当たりでいじられキャラに転身。

「まことはおもれぇヤツ!」と
皆から認められる存在になっていた。


俺も頑張った!
絶対にスクールカーストの
下位はイヤだ!と思った。

上位の奴らと仲良くしていれば
発言力はある。


本当は楽しくなかったけど、
上位のシンジやタクヤの話に合わせて
大げさに笑ったりしていた。


その頃、また吃音が気になり出した。
いや、実際吃ってはいなかった。
周りの皆んなには気付かれて
いないハズだ。

親からも吃音分からなくなったね、
と言われていたのだから、、、

でも学校ではいつもピリピリしていた。
友達の会話についていくのに必死だった。皆会話のテンポが早くて、
言葉を頭で考える間もなく、
話題が次へ移っている。

頭で「こういう返しがうける!」
と思うのに、
隣のヤツがイマイチな返しをして
笑いをかっさらっていく、、、


僕はただ、ただ 笑っているしかない。
いつからだろうか?
吃りやすい言葉を避けるように
なったのは、、、

自然と意味が似通っている、
言いやすい言葉に置き換えて
話すようになっていった。


だからいつも頭の中は
目まぐるしく動いていた。
1対1ならまだ話せる。
でも大人数になると、、、
とてもダメだ。


だんだんと会話に入るのを、
返しをすることを諦めていった。


皆んなの話にうんうんと
うなずくだけになっていった。


授業中も常に緊張していた。
いつ差されるか。
ヒヤヒヤしていた。
答えが分かっていても
「分かりません」と言っていた。


発表を沢山する生徒には
ポイントが付く。でも僕は
1回も手を挙げたことなんかなかった。
失敗して笑われる事が何より怖かった。



普通の緊張ではない。
音読なんかどこの行が
回ってくるのか先回りして、
吃りやすい言葉かどうかを確認して、
当たりませんように、、、
といつも祈っていた。



毎年クラス替えの度に必ずある
自己紹介、アレは地獄だった。


僕の名前は河野大輝(かわのだいき)
順番が徐々に近づいて来る。
汗は出てくる、心臓はバクバク
息苦しい、この場から逃れたい、
このまま消えて無くなりたい、


誰の紹介も全く頭に入って来ない、
笑いが起こっていても、
頭がぐぉんぐぉんと鳴っていて、
自分の心臓の音がバクバク
言っていて聞こえない。


ハイ次かわの君。
ばくばくばくばく、
「きた‼︎」

ガタッ!
「か、か、か、
かわの、だ、だだ だいきです。
し、し、しゅ 趣味は、、、
ゲ、ゲームです。
よろしくお願いします。」

そして着席。


シーン それだけ?
といった反応。


僕はうつむく。
皆の顔なんか見たくない。


先生がしばらくして
では次、と言うと、
心底ホッとして、
心臓の鼓動が
徐々に治まってくる。



昨晩何度も練習したんだ。
本当は、

「僕は河野大輝と言います。
趣味はゲームで、今はまってるのは
マイクラとあつ森です。
妹とよく一緒にやっています。

得意な教科は数学です。
パソコンも好きなので
将来はIT関係の仕事に就きたいです。

好きな食べ物はラーメン、
毎食ラーメンでもいいくらいです。
あとは、、、」



練習しても、
どーせつまるんだから、、
どーせこんなに
長くは言えないのだから


伝えたい言葉は 次から次に
湧いてくる。
言えない言葉が
お腹の中に澱のように
たまっていく、、、



自分の言いたい言葉で、
頭で考えることなく、
スラスラと口から
話すことができたなら
どんなにいいだろう、、、




でも皆はそれが普通なんだな。
何で僕はこんな
話し方になるんだろう、、、


話したい
もっと、もっと
自由に、友達と
冗談を言い合いたい。
わぁわぁ騒ぎたい!

授業で発表だって
できるんだ!
ハイ!って手を挙げたい!


本当の俺は、もっと
おちゃらけていて、
騒ぐことが好きで、
楽しいヤツなんだ。


想像の中の俺は
夢の中の俺は
SNSの中の俺は

いつもクラスの人気者で
楽しく笑っている。
でも、所詮
それは偽りの俺なんだ。


真実は
クラスの隅っこで、
ひたすら存在を
消すことに徹している
俺なんだ。


話しかけられても
口をパクパクする
のが嫌で口を開けることを
止めてしまった
まるで金魚のよう。

息が出来なくて、
苦しくて、、、
時々開けては
わずかに息をする。


でも もう
いっそのこと
閉じてしまった方が
ラクなのかもしれないなと
思っていた。




自分の事を伝えたい。
自分の言葉で、
表現したい。
望みは、ただそれだけ、










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