一ノ瀬玲

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元カレからの知らせ

新居の電話が鳴ったのは、まだ寒い2月の雨が降る日だった。 受話器を取ると、懐かしい声が聞こえた。息を呑んで思わず電話を切る。 またすぐに鳴った。 「彩耶、切らないで!」 「……。」 「今日はね、報告があるんだ」 やっぱりカレだった。心臓がズキっとする。きっと、結婚の報告だ。 「オレね、婚約したよ。」 鋭利な刃物で突き刺されたようなショック。 「そうなんだ……。良かったね。おめでとう!」 受話器を耳に押しあてて、カレの返事を待つ。そう言えば、よくこうやって夜

    • 行ってみたいレストラン

      店内が暗く、すすり泣きやガラスの割れる音があちこちから聞こえ、暗視ゴーグルをつけたウェイターが無言で料理をテーブルに置いていく。 それなのに、今までに味わったことがないほど美味しい料理。 そんなレストランがあったら行ってみたい。

      • 私が生きている理由

        あなたの腕の中で静かに目を閉じる。 今日のこの日のためだけに、辛い毎日をやり過ごしてきた。 腕の中に抱かれるだけで十分。 %%% そう思っていたはずなのに、 あなたにキスされただけで、もっともっと近づきたくなる。 若くもない私を可愛いと言ってくれ、丁寧に抱いてくれる。それだけで救われる。だから、応じてしまう。 あなたには、大切な家庭があるって知っているのにね。 %%% 肌が触れ合う。あなたの指が、唇が、私の肌を滑っていく。張り詰めていた緊張が解けていく。時に

        • 強い目をした男の子

          美術部にヒロシが入部してきたのは、私が高3の時だった。 美術部に入ってくる男子は普通色白のオタクなのに、この子は妙にとんがってた。美術部よりもサッカー部のほうが似合いそうだった。本人にそう伝えると「オレ、先輩にペコペコしたり、みんなと仲良くやるの苦手なんで」と、にべもない返事だった。 ヒロシは部活を休んでばかりいたが、たまに来て絵を描くと、驚くほど上手かった。「ガキの頃から絵を描くのが好きだったんすよ」と恥ずかしそうに答える彼の横顔が妙に可愛かった。 気がつくと、ヒロシ

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        元カレからの知らせ

          キスの記憶

          唇を重ねた瞬間、記憶が蘇った。 「あの頃」が堰を切ったように溢れ出し、私を満たしていく。 あの頃の景色。一緒に行った場所。眺めた夕日。着ていた服。あなたの重さ。体温。 強引にこじ開けられた扉から、ほとばしるように「あの頃」が流れ続けた。甘美な思い出も、切ない記憶も。楽しかったあの日も、悲しかった最後の日も。揺れ続けた当時の気持ちも。 ### 「唇にも記憶があるんだな」 長いキスを終えて唇を離した浩之は、伏目がちに呟いた。どうやら、彼にも同じことが起きたみたいだった

          キスの記憶

          夢の中の記憶

          明夫は彩耶のパジャマの下とショーツを乱暴に引き摺り下ろすと、手に唾をつけて敏感な部分をこね回した。そして、体を重ねてきた。 夫のセックスは、言わば排泄行為だ。自分がしたくなると体調も聞かずに下だけを脱がせ、強引に入ってくる。そして果てると、すぐにイビキをかいて眠ってしまう。コンドームをつけると気持ちよくないという理由で中に射精した。仕方がなく、私は日頃からピルを飲んで自衛した。 最後に、男性に抱かれて幸せを感じたのはいつだろう? それ考えると、いつも切なくなる。思い浮かぶ

          夢の中の記憶

          まだ愛なんて知らなかった

          清恵はいつも学校を休んでばかりいる、ちょっと謎めいた子だった。重い病気を患っているとの噂だったが、本当のことは誰も知らなかった。さらさらの黒髪と端正な顔立ちが、日本人形のように美しかった。 そんな彼女と僕が初めて話したのは、中学3年の夏だった。体操部のマネージャーだった彼女とはなぜか気があって、なんとなく打ち解けた。かといって、好きだったわけでもなければ、付き合ったわけでもない。彼女は最後まで僕を「先輩」としか呼ばなかったし、僕も彼女を、苗字でしか呼ばなかった。 ただ、一

          まだ愛なんて知らなかった

          あなたは白シャツが一番よく似合っていた

          あなたは、白シャツが一番よく似合っていた。 童顔にアンバランスな太い二の腕。 器械体操で鍛えた体を覆う白シャツが、あなたをとてもセクシーに見せた。 それなのにあなたは自分のセクシーさに少しも気付かず、いつも冗談ばかり言ってたっけ。 %%% あなたと私の関係は、控えめに言って最高だった。あなたは私のことをいつも大切に思ってくれていたし、私もあなたが大好きだった。いつも支えてくれて、私は安心だった。 だから、卒業したらきっと結婚するって思ってた。 でも就職してしばら

          あなたは白シャツが一番よく似合っていた