筋トレするなら知っておきたい「タンパク質の摂取と糖尿病のリスク」〜最新エビデンスと予防戦略


 「筋トレのあとはタンパク質を摂取しよう」

 なぜ、筋トレのあとにタンパク質の摂取が必要なのかというと、筋トレしただけでは筋肉は肥大しないからです。

 筋肉を大きく肥大させるには、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成量を増やさなければなりません。筋トレをすると筋タンパク質の合成感度が高まります。そこでタンパク質を摂取することによって、はじめて筋タンパク質の合成量が大きく増加し、筋肥大が生じるのです。

 これが「筋トレとタンパク質の摂取はセットである」といわれる理由です。

 しかし、タンパク質は筋肥大のための重要な材料なのですが、「薬も過ぎれば毒となる」といわれるように、その過剰摂取は身体に悪影響を与えることが示唆されています。

 よく言われるのが「腎臓へのダメージ」です。

 腎臓は老廃物を濾過する機能がありますが、過剰にタンパク質を摂取すると腎臓に負担がかかり、腎臓の機能を低下させることが指摘されてきました。

 しかし、近年の研究により腎臓へのダメージはタンパク質の摂取量よりも「食品源」が影響することがわかってきました。豚肉や牛肉などの赤身肉やその加工肉の過剰摂取が腎臓にダメージを与えることが報告されています。
プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え
プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス

 また、2018年に報告された最新のメタアナリシスでは、おおよそ2年間においてはタンパク質の摂取量にかかわらず腎臓へのダメージは生じないという科学的根拠(エビデンス)が示されています。
高タンパク質は腎臓にダメージを与えない〜最新エビデンスが明らかに

 メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン

 そのため、現在ではタンパク質の摂取量よりも赤身肉や加工肉の摂取を減らし、鶏肉などの白身肉や乳製品、大豆などの食品などからバランスよく摂取することが推奨されています。

 そして近年、もうひとつのトピックスになっているのが「糖尿病のリスク」です。

 タンパク質を過剰に摂取すると、糖尿病のリスクが高まることが報告されており、そのエビデンスや予防法が明らかになってきているのです。

 そこで今回は、タンパク質の摂取と糖尿病のリスクについての最新のエビデンスとその予防戦略についてご紹介しましょう。ご自身のタンパク質の摂取戦略を見直すよい知見になると思います。


◆ 糖尿病のリスクを高めるのは動物性タンパク質?


 2016年に報告された国民健康・栄養調査結果で注目を集めたのが「糖尿病患者が1000万人を突破した」というデータです。糖尿病患者は年々増加しており、日本ではじめて1000万人を超えました。

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Fig.1:平成28年 国民健康・栄養調査結果より筆者作成

 日本だけでなく、糖尿病は世界でも増加の一途をたどっており、1980年の1億800万人から2014年には4億2200万人にほぼ4倍となり、今後さらに増加することが予測されています(World Health Organization 2016)。

 なぜ、糖尿病が怖いのかというと、悪化すると腎臓病や眼の病気などの深刻な合併症を発症するだけでなく、心臓病や脳卒中などの危険因子になるからです。そのため、現代の医学では糖尿病の予防や治療の研究が盛んに行われています。

 その中で近年、糖尿病のリスクに大きくかかわる要因として明らかになってきたのが「食事」です。

 糖尿病は、がんや脳卒中と比べて、病気の発症や進行に食事の影響を強く受けることが示唆されています(Mozaffarian D, 2016)。

 そこで今、議論になっているのが「タンパク質の摂取」です。

 これまでタンパク質の摂取量を増やすことは糖尿病のリスクを減らす効果的な食事戦略とされていました。高タンパク質の食事は、体重の減少を促し、糖尿病のリスクを低下させると考えられてきたのです(Wycherley TP, 2012)。

 しかし、これは短期的(1年以内)の効果であり、高タンパク質の摂取が長期的に糖尿病のリスクに与える影響はわかっていませんでした。

 2016年になると、高タンパク質の摂取による糖尿病のリスクの影響を調査した研究報告が増え、これらの研究結果をまとめて解析したメタアナリシスが報告されました。

 オーストラリア筋骨格科学研究所のShangらは、2万人の被験者を対象に10年間の追跡調査を行い、さらにこれまでに報告された10件の観察研究をもとにメタアナリシスを行いました。

 その結果、総タンパク質および動物性タンパク質の摂取量が多いほど、糖尿病のリスクが高くなり、植物性タンパク質の摂取量が多いほど、糖尿病のリスクが低くなることが示されました。

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Fig.2:Shang X, 2016より筆者作成

 この結果から、タンパク質でも「動物性タンパク質の摂取量」が多くなると糖尿病のリスクが高まることが示唆されたのです(Shang X, 2016)。

 しかし、これに反対する研究結果も報告されています。

 2017年、東フィンランド大学のVirtanenらは、1984〜1989年の5年間で2332人の中年男性を対象とした調査を行った結果、総タンパク質、動物性タンパク質の摂取量は糖尿病のリスクと関連が認められず、植物性タンパク質は糖尿病のリスクの低下と関連が認められました。

 また、動物性タンパク質の摂取エネルギーの1%を植物性タンパク質に置き換えると糖尿病のリスクが18%減少することがわかりました(Virtanen HEK, 2017)。

 このように糖尿病のリスクに動物性タンパク質の摂取量が関連するというメタアナリシスが報告されている一方で、動物性タンパク質の摂取量は関連しないという知見もあり、長期的な影響についても議論が続いていたのです。

 そして、この議論に答えを示す研究結果が報告されました。


◆ 糖尿病のリスクは動物性タンパク質の「食品源」によって異なる


 動物性タンパク質はひとつの食品に含まれているわけではありません。牛肉や豚肉などの赤身肉やハムやソーセージといった加工肉、とり肉などの白身肉、魚、卵などさまざまな食品に含まれています。

 では、糖尿病のリスクはこれらの動物性タンパク質を含む食品源によって異なるのでしょうか?

 この調査をおこなったのがハルビン医科大学のTianらです。

 2017年、Tianらはこれまでに報告された動物性タンパク質を含む7つの食品と糖尿病のリスクについての研究報告をまとめた系統的レビューとメタアナリシスを行いました。

 11の研究報告をベースに動物性タンパク質、植物性タンパク質、赤身肉、加工肉、魚、卵、すべての乳製品(全乳製品)、牛乳、ヨーグルトの摂取による糖尿病のリスクとの関連が解析されました。これらの研究報告にはアメリカ、ヨーロッパ、アジアなどの研究結果が含まれています。

 解析の結果、動物性タンパク質の摂取と糖尿病のリスクには正の関連が認められ、植物性タンパク質の摂取とは関連が認められませんでした。

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Fig.3:Tian S, 2017より筆者作成

 ここでも動物性タンパク質の摂取量が多いほど糖尿病のリスクが高まることが示唆されました。

 しかし、動物性タンパク質を含むすべての食品も糖尿病のリスクに関連していたのかというと、そうではありません。

 もっとも糖尿病のリスクと正の関連を示したのが赤身肉や加工肉でした。しかしながら、魚や卵には関連が認められず、逆に全乳製品や牛乳、ヨーグルトとは負の関連を認めたのです。

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Fig.4:Tian S, 2017より筆者作成

 これらの結果から、Tianらは動物性タンパク質の摂取は糖尿病のリスクと関連しているが、それは食品源によって異なると結論づけています(Tian S, 2017)。

 これまで、動物性タンパク質の摂取が糖尿病のリスクと関連するか否かの議論が行われていましたが、その要因は動物性タンパク質の「食品源」にあることが示唆されたのです。

 この検証結果により、糖尿病のリスクを高めない筋トレ後のタンパク質摂取の戦略を導き出すことができます。

 糖尿病のリスクを高める赤身肉や加工肉を摂取量を減らし、リスクと関連していないか、あるいは減らすことができる魚や乳製品によるタンパク質摂取を意識して多くすることが糖尿病を予防につながります。

 しかし、ここで疑問が残ります。

 では、動物性タンパク質を含むそれぞれの食品の「摂取量」は糖尿病のリスクと関連しているのでしょうか?

 たとえば、赤身肉はどのくらい食べると糖尿病のリスクが高まるのでしょうか?

 乳製品はどれだけ摂取しても糖尿病のリスクは高まらないのでしょうか?

 この疑問が解決できれば、さらに的確なタンパク質の摂取戦略を構築することができるはずです。

 そして2019年11月、この疑問を明らかにした研究結果が報告されたのです。


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