シャニマスと短歌について
こんにちは、宇野なずきです。
今回は僕が常々感じていたシャニマスと短歌の繋がりについて書こうと思います。何故ならシャニマスがかなり好きだからです。シャニマスや短歌をよく知らない人にも分かるように努めますのでよろしくお願いします。
※シャニマスの色んなコミュのネタバレを含んでいます。見たくないと思ったら目をそらしてください。
・アイドルマスター シャイニーカラーズ(シャニマス)とは
アイドルマスターシリーズの育成シミュレーションゲーム。プロデューサーとして色んなアイドルをプロデュースする。スマホアプリの他、enzaという謎のプラットフォームによりブラウザでも遊べる。アイドルの実在性やクオリティの高いシナリオ、美しいイラストなどに定評がある。
・短歌とは
5・7・5・7・7の31音で構成される短い詩のこと。俳句と違って季語は必要なく、1首、2首と数える。短歌を詠む人のことは歌人と呼ぶ。歌人と接する機会があっても「ここで一句!」と言ってはならない。
宇野なずきは普段短歌を読んでいる歌人です。シャニマスが好きなのでシャニマスの短歌を詠むこともあります。
・杜野凛世と短歌
シャニマスに登場するアイドルグループ「放課後クライマックスガールズ」には杜野凛世というアイドルがいます。着物の似合う大和撫子な女の子で、プロデューサーに叶わぬ恋心を抱いています。
(シャニマスはアイドルをプロデュースするゲームなのでアイドルとプロデューサーの恋が実ることはない)
文学への造詣が深い凛世のシナリオでは、短歌の引用が用いられることがあります。
例えば彼女のMorningコミュ(アイドルが朝に話しかけてくるイベント)では、
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを(小野小町)
が引用されています。好きな人を思いながら眠ったからあの人の夢を見たのだろうか、夢だと分かっていたら覚めなかったのに、という恋の歌ですね。
また、【凛世花伝】杜野凛世のtrue endコミュ「序破急-jo ha kyu-」では、
(シャニマスを知らない人へ:なんかそういうシナリオがあると思っててください)
なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな(与謝野晶子)
を凛世が思い出すシーンがあります。
このコミュでは、凛世とプロデューサーで違う解釈をしているのが印象的です。
凛世は一般的な読みと同じように恋の歌だと解釈していますが、プロデューサーは歌の中の「君」を「月」だと読んでいました。月が待ってくれている気がして外に出ると、本当に月が出迎えてくれた。それも素敵な読みですね。
現実でも、人によって短歌の読みが異なることはよくあります。歌会やTwitterなどで違う解釈を聞いて、新しい視点に驚かされたり楽しんだりできるのも、短歌の魅力のひとつだと思います。
彼女のシナリオでは他にも、
小学生である小宮果穂に「恋とは何か」と聞かれた凛世が、小倉百人一首にも収録されている
筑波嶺のみねより落つるみなの川恋ぞつもりて淵となりぬる(陽成院)
を引用するシーンや、
新人アイドルの祭典であるW.I.N.G.(ワンダー・アイドル・ノヴァ・グランプリの略。誰も正式名称で呼んでいない)で優勝した際に、
天の海に雲の波立ち月の舟星の林に漕ぎ隠る見ゆ(万葉集 柿本人麻呂歌集)
を引用してステージから見た景色を表現するシーンなどがあり、彼女にとって短歌が身近な存在であることが分かります。
凛世はよく和歌を引用しますが、宇野なずきは和歌に詳しくないため見落としがあるかもしれません。もしあっても許してください。
・幽谷霧子と短歌
「アンティーカ」というユニットに所属する幽谷霧子についても触れておこうと思います。彼女は親の働いている病院でボランティアをしている心優しい女の子で、独特な感性を持っています。
彼女のコミュでは明確に短歌の引用をしているわけではありませんが、現代短歌のオマージュと思われる部分があります。
以下の場面は、雨が降ってきたことを伝えたい霧子が、体温計をくわえているせいで上手く「あめ」と言えないシーンです。
現代短歌に詳しい方なら気がついたかもしれませんが、これは
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ(穂村弘)
のオマージュと思われます。霧子の豊かな感受性と優しい空気のコミュは、穂村弘の短歌と相性がいいのかもしれません。
また、シャニマスにはアイドルに複数の衣装が用意されており、それぞれにフレーバーテキスト(俗に言う衣装ポエム)があるのですが、
先にあげた例での穂村弘との繋がりを考えると、この衣装ポエムも
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、きらきらとラインマーカーまみれの聖書(穂村弘)
と関係があるように思えてきます。
色の並びから考えると、両方とも虹のことを指しているだけのようにも見えます。しかし先ほど紹介した雨のシーンの後には教会のステンドグラスを見に行くシーンがあり、上記の短歌を「教会のステンドグラスからの光が聖書に落ちている」と解釈すれば、穂村弘の短歌のモチーフとも重なって見えてきます。
霧子のシナリオは詩的な表現と優しさに溢れていて、見る人を惹きつける魅力があります。それはきっと彼女の目が、他の人とは違う空を映しているからなのでしょう。
・おまけ
シャニマスの公式4コマ漫画にはタイトルが「短歌」の回があります。
かわいいね
・終わりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。短歌を知らない方にもシャニマスを知らない方にも、この記事がそれぞれに興味を持つ機会になれば嬉しいです。
最後に、おすすめのシャニマスのシナリオと、おすすめの歌集を紹介して終わります。
YOUR/MY Love letter
アルストロメリアが登場するイベントシナリオ。事前知識はほとんど必要なく、アルストロメリアというアイドルユニットがいるということだけ理解していれば多分楽しめます。何故ならこのシナリオの主役はアイドルではなく、名もなき人々(モブ)だからです。彼ら、彼女らの人生と、その人生のそばに存在しているアイドルについての物語。それはきっと誰かの心に寄り添ってくれると思います。
あなたのための短歌集
木下龍也さんがお題を受け、その人のために短歌を作る「あなたのための短歌1首」が歌集となった一冊。シンプルなお題もあれば、辛くて苦しい自分の人生についてや、お別れが近づいている家族についてなど、簡単に答えを出せないようなお題もあります。そういったひとりひとりの想いに真剣に向き合って作られた短歌が詰まった歌集です。
人生にはどうしようもないことや、はっきりと解決できないことが溢れていますが、シャニマスはそれらを無視せず、その上でどうするのかを真摯に描いています。だからこそそのシナリオは胸を打ち、現実に立ち向かう彼女たちの姿は我々の目に眩しく映るのだと思います。
(シリアスなシナリオばかりではなく、勝手に冷蔵庫のおやつを食べられちゃったよ〜みたいなやつもあります)
そして短歌も、どうしようもない現実や、簡単に言葉にできない胸の内を表現することで、この世界を生きるためのお守りのように人の心に残るのだと思います。愚かで愛しい人間と、醜くて美しい世界を、シャニマスや短歌を通して見ることで愛せるようになることができればいいと願っています。
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