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小説の続き

正直なところそんなに印象は良くなかった。
犯罪者と定義されている連中だったし、世間からの印象も悪いはずなのに、ほんの十数秒見ただけで、オレは彼らをもっと見たくなってしまった。
アイドルと呼ばれるグループやアーティストとかも所長になるのだから「好む」というより、全体的に知って置く程度で良いと教わってきたから特にこだわりがあったわけではなかった。
なのに、何故彼らだけ、こんなにも求めてしまうのだろう。
本当は見てはいけないといわれていたはずの動画を、気が付けば次から次へと彼らが写った動画を見ていた。
川辺で水遊びをしている様子や、パソコンを仕事ではなく娯楽のために使う様子、人に悪戯を仕掛けたり、夜遅くに花火をしたりなどダメだと思いながらも、もっと見たいという気持ちの方が強かったためか扉がノックされるまで何十件という動画を見ていた。
急なノック音に思わずスマホをベッドに放り、返事をしながら教科書を開く。

「あら、お勉強中だったのね。お茶の時間にしない?」

適度な休息、などと言えない状況だけどとりあえず頭を冷やしたくて母さんの言葉に頷いて部屋を出た。

「~~だと思うのだけど…レイ?聞いているの?」

ティーカップを持ってお茶の水面を見つめたまま動きを止めていたから母さんの言葉に我に返る。

「体調が優れないの?無理をしても母さんにはバレバレよ?」

違う、そうじゃない。という言葉が出てきそうになったがぐっとこらえて、

「…うんそうだね。少し部屋で休むよ。」

ちょうどいいと思って“嘘”をつき部屋に戻ってベッドへ倒れこむと先程放り投げたスマホが目に入る。

(今見たら、バレるかな?)

そこまで考えてハッとした。ダメだ、彼らは犯罪者グループなんだ。
ブンブンと首を横に振って瞼を閉じるが、頭の中で先ほど見た動画が鮮明に流れているせいか眠りにつけない。

(何なんだよ、一体。)

この胸に付きまとう靄は何だ?さっきからやけに居心地が悪いような気がして落ち着かない。

「あぁ、全く面d…いや待てよ?」

小学生の時に友人と遊んでて見つけた絵本があったはずだ。あれも所長になるには不要だから捨てておけと父に言われたものが確か押し入れにあったのを思い出し静かに探してみる。

「(何で捨てなかったんだっけ…)っと、これだ。」

やけに古ぼけた表紙に赤い塗料でバツ印が書かれているその下には【狂った王子さま】と書かれている。
話の内容は覚えていないからもう一度読み進めてみよう。

『その昔、とある王国で笑顔を持つ王子が生まれた。その国は皆同じ表情をしているのにその王子だけが変わっていた。
転べば痛いと涙を流し、頭を撫でられればやった!と笑い、コロコロと顔を変えていった。そんな王子を見て王やお妃さまは頭を抱えていました。
ある時、王子様は王様とお妃さまにこう言います。
「お父様、お母様、何故いつも同じ顔しかしてないのですか?」
その瞬間、王様とお妃さまは
「おぉ、どうすれば…我が国が出来て以来この子のようなものは生まれておらぬ。」
「何かの呪いでしょうか。そうでなければ、こうなるはずはありません。」
続けて二人は王子様にこう言いました。
「王子、貴方は呪われているのです。ですからそのようなことを聴くのですね?」
と聞いても面白くないお祓いの言葉を聞かされた後に、王子様にも言葉にするように言ってきた。
それ以降、問いかけることはなかったが王子は不思議だった。父も母も、国の民も、何故みんなは僕のように笑わないのだろう、何故人形のような顔をしているのだろう。
王子は怖かった。まるで自分が別の世界に放り出されたような感覚だった。

それから大きくなった王子は王様とお妃さまが居ない所でこう言った。
「楽しいから笑うのに皆はどうして笑わないの?」と…
国民は「笑う?笑うとは王子がしている顔ですか?我々はそのような表情をせずとも笑っていますよ。」と言う。
王子は毎日、国民にこう尋ねた。
「悲しいのに泣かないのかい?」「苦しいと思わないのかい?」
その度に国民は「泣いておりますよ?」「苦しいですよ?」と顔を変えずに言い放つ。
この国はおかしい。そう王子は思った。何故この顔が当たり前になったのか突き止めるべく王子はお城にある古い本を読み、国のはずれにある村のさらに奥にいるという何百年も生きているという魔女や魔法使いの話も聞きに出向いた。
魔女は言った。「おやまぁ…100年ぶりかねぇ。“表情”を作れる人の子は…」
王子は返した。「“表情”?笑ったり、泣いたりすることですか?」
魔女はゆっくり頷き、寝物語を聴かせるような声で王子に話した。
「“感情”があふれた時に“表情”は出来るのさ。“感情”というのはね…ふむ、王子様よ、あんたは何をした後に笑うんだい?」
「歌を歌った後や踊った後です。何かは知らないけれど、心があったかくて、お腹の辺りから力が湧いてくるような…」
そういうと魔女は優しくにっこりと笑うと
「それは“楽しい“という感情さ。そして泣くのは“悲しい”」
魔女の言葉を繰り返すように王子は胸に手を当てた。
トクントクンと少しずつ大きくなっていく心音に王子は目の前が色鮮やかになったように感じた。
「それなら僕はいま“感情”を知って“楽しい”と思っているんですね。」とにっこり笑った。
「あぁそうさ。そして“嬉しい”のだろう?」
王子は初めて、呪われていると言わない人と出会い、今まで持っていた疑問を解くことが出来た喜びに浸っていた。』

感情?あれが?声を思い出して胸に手を当ててみる。ドクドクと波打つ心臓が、彼らを見て感じたものが、「楽しい」という感情そのものなのだと、物語る。
爽やかで清々しく、何度でも味わいたくなるような心地の良い鼓動に目を閉じるとスッと胸の靄が薄れていくような感覚にキモチが高揚していくのが分かる。感情を知ったオレの胸の内に柔らかいぬくもりが広がっていった。

それを知った後の、この絵本の話は残酷だ。
その後王子は何度も魔女の元に通い、沢山のことを話し、魔女から教わった。しかしそれを知ったお城の召使が王子は悪魔なのだというのだ。
王様とお妃さまの子を喰らい悪魔が成りすましているのだと言った。
そのせいで王子様は処刑されてしまうのだが、嗚呼、まるで彼らはこの王子様のようではないか。何故この世界の法律は彼らを犯罪者と罵り、蔑むのか不思議でならない。

『「僕は決して悪魔ではない。僕からしたら皆の方が悪魔ではないか!大勢で集まり、僕一人を呪われている子だと言って仲間はずれにしていたじゃないか!」』
最後に王子はそう残して首をはねられてしまった。オレは王子様の言葉を脳内で繰り返しながら胸に本を抱いた。

その後、眠ってしまい夜中に目を覚ました。あまり昼寝はしたことが無くて、ちょっと悪い子になった気分だったけれど楽しいという感情を知ったことが何よりも嬉しくてそんな小さなことは気にしなかった。
それ以降、彼らの動画ばかりを見るようになって勉強の合間に息抜きと称して必ず眺めていた。

彼らは罪人集団、または『エートス』と呼ばれている

良く笑い大胆な行動をする、エートスのリーダー的な存在の“ネルフォン”
サブリーダー的な立ち位置で冷静な判断を下す“まひる”
飄々とした佇まいを見せるが、恥ずかしがり屋でお茶目な部分を時折見せる“エリシア”
元気で快活、その明るい言動故に励まされることも多いエートスの兄貴分“シーラン”
根暗だが芯が強く、時折見せる笑顔に勇気をもらえる“フィルノ―”
あまり表情は出さないが、紳士で子供好きな“スペード”
華奢で儚いイメージが強いがよく食べ、よく遊ぶ末っ子“モル”

この七人のグループが世に言う犯罪者と呼ばれているが実のところ個性がある以外、なんの犯罪も犯していないのだ。盗みを働いたわけでもない、人を殺めたわけでもないのに何故この世界は彼らを罪人と定義したのだろうか。それこそ何故“個性を悪”だといったのだろう。
見たところ個性は悪いものではないのに…考えれば考えるほど訳が分からなくなり、リトとの会話も段々とおざなりになってきた。

そんなある日、ふと良いことを思いついた。
そうだ、歴史を振り返れば良い。
あの絵本を読んだ王子のように古い本を読み漁れば、この国の起源から今迄の道を辿れば、きっと何かが見えてくるはずだと考え学校を終えて、家に帰り準備を終えて図書館へ自転車をこいだ。
図書館について、勉強スペースの席を借りたらとりあえず席に鞄を置き、歴史の棚を目指して館内を歩く。
この図書館に来るのは中学生3年生の受験以来だからここ数年で少しだけ中の様子も窓から見える外の景色も変わっていた。
ただ歴史のスペースは記憶にある場所と全く変わらない場所にあってくれたおかげですぐに目当てのものも見つかる…かと思いきや中々古い文献だけが見つからない。
誰かほかの人が読んでいるのか、2、3冊分だけ空白になっていて少しがっかりする。何故か感情を見つけてからというもの、色んな思いが自分の中で形になって遊んでいるような感覚がして少しだけ疲れてしまう。

(嫌な疲れじゃないから良いけれど。)

ふっと息を吐いて上がりそうになる口角を下げようと右手で口元を覆った。さて本が帰ってくるまでの間、どの歴史を振り返ろう。
そう本の背表紙を指先で触れると

「珍しいね、アイドルか何かかな?」

何処かで聞いたような、ハスキーな声色がすぐ近くで聞こえてきてパッと顔を向けると真紅の瞳と目が合った。
真紅の瞳を持つ青年はまっすぐオレを見据えながら、そう問いかけてきた。
アイドル?そんなわけないだろう。というより、何処をどう見たらそんな風に考えられるんだ?

「いいえ?貴方は…」

そう自分で問いかけようとして息をのんだ。
オレはこの青年を知っている。否、知ってしまった人物だ。

「おや?もしかして僕のことは知らないのかな?」

彼は少年のような笑顔を浮かべ、踵を鳴らしながらオレに一歩一歩確実に近づいてきた。

「自己紹介は必要ないだろうが、僕はネルフォンという。周りからは犯z「っ、知ってます…!」…何だ、ならば犯罪者は近づくな、とかなんとかあるだろう?」

今まで言われ続けているからその反応の方が慣れているのか、さもオレの反応がおかしいとでもいうように眉間にしわを寄せていた。
だけどオレはそんなことは言わない、言いたくない。
オレも貴方たちと同じように…いいや貴方たちに憧れたのだから。

「いや、そんな…」

言えばいいものを、周りの目が気になってしまって声が出ない。
するとネルフォンさんはため息をつくと

「そこにこの本を返したいんだ。少し横にズレてくれると助かる。」
「あぁすみまs」

ネルフォンさんの手元を見て探していた本であることを理解した。
じっと眺めていたからかネルフォンさんも呆れながら

「だから、退いてくれると助かるんだが?」

再度同じ言葉を紡いで本棚の前に歩み寄ってくるから慌てて弁解するために手を振る。

「その、私が探しているのは、その本でして…読み終わったのならお借りしてもいいですか?」

そう聞いた瞬間、ネルフォンさんの瞳がオレを射抜いた。
突然のことで驚いてしまって首を傾げるがまるで品定めをするかのように鋭い視線でオレをじっくりと眺めると

「見たところ、市長や所長などの地位の生まれだと見るが…あっているかな?」

その言葉に小さく頷くと無邪気な笑みを取り戻し

「名は?」
「ぇ、レイリー、です。」

そういえばそうだ、オレは名乗ってなかったし一方的に知っているだけだったから名乗らなきゃいけなかったのに…
次期所長としては相手に対して失礼な態度をとったように見られてもおかしくないな。

「すみません。先に名乗れば良かったですね。」

なんて呟くと、目を丸くさせて何度も瞬きを繰り返していた。
何か変なことを言っただろうか、と首を傾げると

「君は…いや、やめておこう。それより、その本に載っている歴史を知った上で読むのか?」

ある程度は知っているが、それ以上のことを知りたいからこの本を選んだのだと伝えると顎に手を当てて、再びオレを品定めし始める。

「さて、そろそろ会話をするのは止めておこう。次期所長殿に火の粉が降りかかってしまうからな。」

そう言うと背を向けて歩き始めてしまった。
こんなチャンスは滅多にやってこないのに、会えるのは今日で最後かもしれないのに声が出せない。
奥歯を噛みしめて、深呼吸をする。

「あ、あの!」

やっと絞り出せた声は震えていて、ネルフォンさんは背を向けたまま立ち止まった。

「その…また、こうして会話、してくれませんか?少しだけでいいんです。」

犯罪者だということは知っているけれど、知りたいと、もっと沢山言葉を交わしたいと思った。それを言葉にすることがとても怖くて緊張した。

「犯罪者と喋りたいなんて、気でも狂っているのか?」
「ぅぐっ…その…」

俯いて床を見つめる。あぁ今いるところが、本棚に囲まれているスペースで良かった。古い歴史に関しての著書の場所は特に人が少ないから、なおさらだ。そうだ、この会話も聞かれたら本当は不味い。
友人がいたのなら見た時点でその場を去るだろう。沈む気持ちを押し殺して謝罪をいれようと口を開けば

「この時間帯はこの奥にある共用スペースにいる。もし人目を気にするのなら国会図書館にいる司書に頼むと良い。面会、という形で指定時間まで会話が可能だ。」

その言葉が信じられなくてパッと顔を上げるとヒラヒラと手を振りながら奥の方に歩いていくネルフォンさんが見えて感謝の言葉の代わりに礼をした。ギュッと本を抱き寄せて胸の奥底から湧き上がるものを味わう。
嗚呼、これはなんていう感情だろう、そうだネルフォンさんなら知っているだろうか。所長なんて言う立場さえなければ、もっと話せたのだろうか。
なんて言葉は次もまた会えるかもしれないという期待に潰されて消えた。

仲間が待っているはずの共用スペースに戻りながら、先程の少年の表情を思い出す。始めこそ、アイドルの様に明るい雰囲気を纏っていたがあれは憧れの眼差し、そして個性を欲する瞳だった。
どうやって興味を持ったのか、所長などといった偉い立場の者が犯罪であるとわかっている個性について調べるのか、聞きたいことはこちらも沢山あるんだ。

「あっ、ネリ遅いよ。」

フィルノ―が愛称で呼びながら共用スペースのソファに転がっている。

「あぁすまない。少し興味深いものを見つけてな。」

その言葉に一瞬呆れた表情をしたまひるは眼鏡を直しながら

「どの本だ?必要なら司書殿に頼まなければ手に入らない。」

「いいや本じゃない。人だ。」

その言葉に全員動きが止まり僕に視線が集中する。

「今度、皆にも紹介しよう。面白くなるぞ。」

まさかの収穫だったが、さてどれだけの期間で熟れるかな?そんなことを考えながら、別の本を手に取りページを開いた。


どうも皆さんこんばんはレグルスです!!
火曜日は少々企画の方に打ち込んでおり投稿できませんでしたが、今回は前回投稿したオリジナル小説の続きを投稿しました!

ここから段々と面白い(自称)展開にはなってくると思ってます!
個人的には長編にしたい作品だったので寄り道をすることを意識して描いているつもりですが、中々一直線になりかけているので再度軌道修正中ですw

ということで来週の火曜日には企画の一端をお見せいたします!
それでは今回はここまでにしたいと思います!
次の話題が気になるなどありましたら、気軽にフォローやいいね、コメントお待ちしております。
私の記事に出会ってくださってありがとうございます!そしてスキをしてくださる皆様本当にありがとうございます!
それでは皆様今宵も良い夢を。
チャオ(*´ω`*)ノ


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