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営業職から高専教員への転身。~富山高専はこんなところ~

今回は、民間企業で6年間営業職として働いた私が、奇跡的なご縁を頂き、母校の富山高等専門学校(射水キャンパス)で教員になったお話です。
※執筆時点では赴任前のため、転職準備段階での内容です。


なぜ営業職から高専教員に?

客観的に考えても、特殊なキャリアチェンジだと思います。ただ、私自身はこの繋がりに只ならぬ「伏線」と「縁」を感じています。うまく説明ができるか自信がないのですが、可能な限り簡単にまとめてみます。

1. 6年間勤めたマイナビを卒業

新卒で入社した株式会社マイナビでは、新卒採用領域サービスを主とする営業に従事していました。特徴ですが、まず無形商材のため、広告媒体から制作物、人材教育プログラムなど様々なサービスを取り扱っていました。加えて、「採用」はどの業界業種にも存在するため、取引先企業も多種多様。

つまり、「〇〇に対し△△を売る」という単純式ではなく、年ごとに変化する採用市場の流れを捉えながら、求職者・企業双方のニーズをくみ取り、1社1社に適したサービスの組み合わせを創造して、時には無いものを作り出してまで、最良の提案を突き詰める仕事でした。

毎回、互いにとって理想的な取引を追求していましたが、「採用成功」という一つの成果物に対し100%コミットできたとは言い切れず…。それだけ、難易度の高い営業でしたが、それに比例したやりがいと奥深さのある仕事で、ビジネスパーソンとしては全くの素人だった自分が、6年間で少しは自信を持てるまでに成長できたと感じていて、マイナビに入社したからこそ得られた、かけがえのない経験です。

そんなマイナビを卒業する決心をしたのは、恩師から頂いたご縁がきっかけでした。

2. 教師になるという夢の想起

「ご縁」というのは、母校である富山高専学科専任教員の公募情報の通知でした。そもそも学科教員を公募していることも知らず、ましてや学位を持たない自分がなれるわけない、そう思っていました。しかし、恩師からは「応募資格はある」との吉報が…。

今回公募していたのは「商学・マーケティング」の担当教員でした。その応募資格は「商学の学位またはビジネスに係る実務経験を要すること」。見事に後者が該当し、挑戦する運びとなりました。

実はこのお話を聞くまで、マイナビの仕事に没頭して胸の奥深くにしまい込んでいたのですが、子どもの頃から『教師になること』が夢だったのです。

小学校で教師という仕事に惹かれ、教員免許の資格を得るために大学編入し、教育実習まで経験していました。しかし、就職活動を控えあらためて、「理想の教師像」と向き合って出した結論は、「自分には社会人経験もなければ、具体的に教え伝えてあげられるキャリアもない。そんな状態では教師にはなれない。」でした。

過去否定した自分から幾度かの挫折と脱皮を繰り返し、数段大人になった自分自身を見つめなおして、ようやく夢のひと先を掴みました。

3. 地域貢献への思い

この一大決心には、もう一つ強い思いがありました。それは、故郷への恩返しです。

少年時代を過ごしたふるさと富山には、自分を初めて自分たらしめてくれたヒト、モノ、場所、環境があります。名古屋での学生生活や社会人経験が、自分にとっての最高の武器だとすると、その武器の所有者である自分自身の性格やキャパシティ、可能性を磨いてくれたのが地元での出会いだったと思います。そんな故郷へどうにかして恩返しをしたいと考えていたのですが、まさかこんな形で早々とチャンスが巡ってくるとは思いませんでした。

故郷への恩返し=地域貢献と捉え、できることはなんでもしたいと考えています。それが、研究でなのか、教育でなのか、校務でなのか…まだまだこれから考えなければいけないことは山積みですが、新しい仕事に慣れながら、粛々と光芒を探り出していきたいと思います。

こうして、過去描いた夢と記憶に、現在の経験とご縁が折り重なって伏線となったのです。


富山高専について

高専教員にいたるまでの経緯をお話しました。次に、新たな職場である富山高専についてお話したいと思います。というのも、高専という機関自体が特殊な存在なためです。高専とは何なのか、その中でも富山高専はどういう特徴があるのか、少しでもご理解いただけると幸いです。

1. そもそも高専って?

ウィキペディアを引用してみました。


高等専門学校(こうとうせんもんがっこう)は、後期中等教育段階を包含する5年制(商船に関する学科は5年6か月)の高等教育機関と位置付けられている日本の学校。一般には高専(こうせん)と略される。 学校教育法を根拠とし「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成する」ことを目的とする一条校である。主に中学校卒業程度を入学資格とし、修業年限5年(商船学科のみ5年6か月)間の課程のもと、主に工学・技術・商船系の専門教育を施すことによって、実践的技術者を養成することを目的にした教育機関である。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

高等専門学校(通称高専)は、一般に高校1年生~大学2年生+専攻科を含めると大学4年生になる年の学生までが一つのキャンパスを学び舎とする教育機関です。したがって、下は15歳から上は22歳まで在籍していることになり、玉石混交の非常に賑やかな学校です。

設立目的は、「主に工学・技術・商船系の専門教育を施すことで、実践的技術者を養成すること」。この「実践的技術者」が最たる特徴です。その目的を表すように、1年次から、いわゆる大学における『専門科目』にあたるプログラムが開講されたり、実習やグループワークなどのアクティブラーニングを多く取り入れています。授業以外でも、ロボコンやプロコンなどのコンペティションでも有名ですね。

こういった教育プログラムを組むことが可能な理由は、「受験勉強がない」からです。卒業後に大学へ編入する「編入学」を選択した場合は編入学試験を受ける必要はありますが、通常の統一的な学力テストではなく、専門性の高い試験内容であることが多いため、一般的な大学受験とは対照的だと思います。そのため、受験対策を考慮したカリキュラムではなく、初学時から専門的な分野が学べる仕組みとなっているのです。

そんな高専は、令和2年度時点で全国で57校存在しています。2023年4月には、Sansanの創業者が徳島県に新たな私立高専「神山まるごと高専(仮)」を設立することを発表し話題になっています。
神山まるごと高専(仮称) | テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校 (kamiyama-marugoto.com)

2. 富山高専は”スーパー高専”

そんな高専の中でも、全国で4校のみ"スーパー高専”と呼称されている高専があり、富山高専もその1校です。スーパー高専とは、高専同士が統合してできた1県1校2キャンパスの学校であり、富山高専は、工業系の高専(本郷キャンパス)と商船系の高専(射水キャンパス)のハイブリッドです。

在籍学生数や学科数が単純に多いだけでなく、キャンパス同士の交流を通した横断的な学習経験を得られたりといったメリットもあります。研究分野の幅も広く、期待を懸けられている学術的領域が多岐にわたっています。

私自身は商船系の射水キャンパスにある「国際ビジネス学科」に在籍していましたが、これがまた特徴的な学科なのです。

3. 高専なのに文系?

先述の通り、高専に含まれるのは「実践的技術者」を養成するための技術系学科がほとんどなのですが、ごく一部、文系の学科を擁する学校があります。それが富山高専であり、私が教員として赴任する「国際ビジネス学科」なのです。

国際ビジネス学科では、「実践的技術者」=グローバル社会で活躍するビジネスパーソンと解釈し、語学や異文化理解に係るプログラムに加え、マーケティング、会計学、流通論といった高度なビジネスパーソンを育成するためのベーススキルを学習できるプログラムが体系的に組まれたカリキュラムが開講されています。

本学科の設立には、商船学校だったことが影響しています。国内外のあらゆる場所で活躍する人材を養成するという教育体系から、グローバル×商人のコンセプトが生まれ、独立した学科として誕生したようです。

また、本科で学ぶカリキュラムは、海外だけでなく地域産業との結びつきも強いのが特徴です。時には地域に根差す企業へ直接訪問したり、有識者を招いてディスカッションしたりする機会も多く、授業で学んだあらゆることが実際の社会でどう活かされるのかを実体験として理解できるのです。

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少し脱線しますが、私は「商学・マーケティング」の担当教員となります。マーケティングは、前職で働いていた時から今まで、非常に関心を高めていた学問です。マーケティングは、「売れる仕組みをつくること」と訳されることがありますが、私はそれだけに留まるとは思いません。

そもそも「売れる」とは、「価値の伝播」だと考えています。お金を稼ぐということだけではなく、個々人が大切にする何かに価値を与え、それを広め伝えていくことで、共感とシナジーを産み出していく。そんな有意義な生産活動に大きくかかわるのがマーケティングという知恵であり、考え方なのです。これは、だれかが独占できるものであってはならず、誰もが価値を伝播するために活用されるべきものだと思っていて、そのことを、本科での教育や研究活動、地域貢献活動を通してわかりやすい形に加工していけると良いなと思っています。それが私の、これからの目標です。
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なんとも馴染みにくい学校・学科だと思いますが、私が学んだ5年間は本当にとても有意義なものだったので、自らのこれからの覚悟と責任という意味でも、より多くの方に、高専と本科のことを知って頂けると嬉しいです。


以上です。少しは、私の特異な転身と、母校の高専についてご理解いただけたでしょうか…?

とはいっても、まだ赴任前の身ですので、あまり偉そうにつらつらと教育について語ることはできないと思っています。ましてや研究活動については未知の領域のため、ゼロからスタートです。

今後も、少しずつ高専のこと、自分が成し遂げていくことを発信していきたいと考えています。


ここまで読んで頂き、感謝申し上げます。

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