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剣神#3


鶴雅から出発した6人は、首都・大京まで、およそ100里の道のりを、順調に進行していた。

馬車には2人と幌台には百合恵が乗っている。

先頭には豪多義、馬車の後ろには剣神と流木矢が、後に続くのであった。

先頭の豪多義が休憩の合図だ。

幌台から百合恵が降りてくる、

羽織浴衣で夏らしい着衣で降りてくる。

周囲を見ながら剣神と流木矢は、常に守りを固めていた。

百合恵「あなたのお名前は、悟丸氏でございましたね、お水をいただけますか?」

剣神は、荷台からひょうたん型の水筒を取り出し、百合恵に差し出した。

百合恵「おいつくになられるのですか?」

悟丸「17です、こちらの流木矢も同い年です」

百合恵「私と同い年ですね、ご家族はいらっしゃるのですか?」

悟丸「いえ、2人とも家族はおりません」

百合恵「…失礼いたしました」

悟丸「いえ…」

百合恵「剣手ってお聞きしましたが、普段は何をなさってますの?」

悟丸「普段私は農業をやっております、剣手は、ほとんど農家育ちが多いです」

百合恵「そうなのでございますか…ご多忙でいらっしゃるのですね」

神妙な面持ちになる


豪太義「剣術はどうやって、覚えた?」

話しに割って入る

悟丸「小さい頃から剣手になるために寺小屋へ入門させられ、そこで少し、剣道を学びました」

豪太義「そちらの流木矢も一緒か?」

流木矢「俺は、剣術よりも弓の方が得意ですよ、祖父が忍びの者だったので、主に忍術を…」

豪太義「なに、貴様忍者なのか!?」

悟丸「いや、あくまで忍術を取り入れた修練というだけです」

悟丸は、流木矢が闇討ち者であるというのを、何とかごまかし、自分たちは、あくまで剣手、足軽として雇い主に従事し、仕える者であり、剣神の称号はこの際封印して、決して横柄な態度は取るべきではない、と強く念頭に置いていた。


豪太義「その刀を見せてもらえぬか?」

豪太義は、侍であるため刀には目がないようだ。

悟丸は刀を豪太義に差し出す
 
豪太義「うん、いたって普通の刀だが、とても良く手入れされている」

悟丸は、鶴雅の酒場で振りかざした名刀、魔天斬を隠し、常用の刀を見せたのであった。

侍の豪太義にあの名刀を見せるわけにはいかなかった。


一行は、日暮れ前にこの先にある宿場へ入るため、先を急いだ。夜になると野盗が出てくるとも限らないし、百合恵に対して、旅の疲れをできるだけ早くとってもらいたい、という豪太義の配慮もあったからだ。

宿場町・湯野谷へ着いたのは、酉の刻の夕暮れ時だった。

湯野谷は温泉地だ、ゆっくりと温泉に浸かりたいが、そうもいかない。

もしもに備え、常に一行の見張り役に徹するだけではない。なぜなら、湯野谷を過ぎると険しい山越えをしなければならないのは当然だが、何よりも、その山には、落武者や浪人たちが結集した野武士の賊が割拠しているからだ。
夏のこの時期は、野武士らも活動的ではないものの、豪太義はもちろん、悟丸と流木矢も警戒を強めていた。


        

        
         つづく




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