牛丼
サラリーマンの合田は、顧客回りでヘトヘトだった。
「あっ〜!腹減ったな」
まるでグルメドラマの主人公のように一言呟いた。
合田は腹が減っていたが、まだ昼前。この後の顧客回りもまだまだ続くし、手っ取り早く食し、しかも美味いものが食いたい!そう思っていた。
選択肢は色々だ。まずはサラリーマンの強い味方の立ち食いそば、これも悪くないが合田は毎日のように立ち食いそばだった。
そしてラーメン。これもありだ。しかも名店はあえて避け、シンプルな手頃価格の中華そばだ。悪くない、悪くないが昨日同僚と食ったばかりだし、今日は麺の気分ではなかったのだ。
だとすると、めしだ!とにかく俺は猛烈に飯が食いたかった。
飯だと、選択肢が広がってしまう。町中華だと餃子定食や炒飯、中華丼、えびチリ定食、豚バラ定食、麻婆丼…。和食だと定食屋で定食メニューが多い。唐揚げ定食、カレーライス、かき揚げ丼、カツ丼、とんかつ定食…、いい…いいけど時間もかかる。
となると、あの一択しかない。
そう牛丼だ!
牛丼なら時間がかからず着丼も早いし、食う時間もかからない。
よし、決めた!男は近くにあるチェーン店の牛丼屋に入った。
「いらっしゃいませ~!」
店員が迎えてくれる。
「牛丼大盛り、つゆだくで、あと卵も…」
迷いなく注文する合田だった。
数分して着丼する。さすがに早い!
これだ、私が求めていたものは…。
合田の目の前には大盛りの牛丼に、すでに割られた卵が目の前にあった。
合田は箸をとり、牛丼のどんぶりを左手に持って七味を軽くふりかけ、まず卵をかけずに肉を一口食べた。
肉の旨味と汁のほのかに甘い醤油ダレは、白いご飯に合う、最高だっ!やはり牛丼にして良かった!合田は思った。肉とご飯を食していく合田は、どちらも半分くらいになった頃、ここで始めて卵に手をだした。
箸で卵をかき混ぜる、特有の音が店内にこだまする…。「かっかっかっか…」と…。
半分くらいで卵投入には、合田にはこだわりがあった。
最初から入れてしまうと、肉そのものの味が楽しめなくなる、というのと、卵というのは小さいので、最初に入れると卵が負けてしまう。ある程度食してからだと、たまごも牛丼と同等な割合になるのでお互いの良さが対等になるから、という一風変わったこだわりがあったのだ。
合田は汁が下の方に染みた所に卵を投入し、紅しょうがを添えた。
卵が肉に絶妙に絡む、合田はどんぶり淵に口をつけて一気にかきこんだ。
「ふっ〜」とひと息吹く。
合田は満足だった、だがサラリーマンの束の間のランチはこれにて終了した。
もうこれで十分だ。サラリーマンの急速(休息)充電は完了したのだった。
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