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【ラーメン】オムニバス物語#1『旅立ちの駅ラーメン』


第1話 旅立ちの駅ラーメン


今、故郷を離れ上京する若者がいる。とある地方の駅にて列車に乗り込む前、一人息子Kタを持つ両親が見送りに来ているのだった。息子は警察官になるために東京の大学へ入学するのだ。父は病を患っており、入退院を繰り返していた。息子が巣立っていく姿をしっかりとその目に焼きつけようとしていた。



父「頑張ってな、辛くなったら戻ってきてもいいんだぞ、父さんはいつでもお前を応援しているからな」

父と息子が抱擁を交わすのであった

涙を指先で拭う母

母「体調には気をつけて、時々電話ちょうだいね。」

息子「うん、わかったよ」


父「…これからは新緑の季節だ、実りの花が咲くだろう」

「Kタの未来もいい花が咲くといいな」

Kタ「そうだね、そうなるといいよ」

母「フッフッフ…」

父「これ、kタにやるよ」

父は自分の被っていたベージュのハット帽を息子のKタに頭に被せた。

kタ「いいのこれ、父さんのお気に入りでしょこれ」

父「いいんだ、お前にやるよ」

Kタは少し遠慮しながら渋々受けとった。

父「よし、じゃ3人で写真撮るか」

母「すみません、ちょっと写真撮ってもらえますか」


父「お願いします。このシャッターです」

近くにいる人に声をかけ父はカメラを渡した。

カメラマン「はい撮りま〜す」

3人は肩を寄せ合う。両端に父母で真ん中に息子という並びだった。

パシャっ

父「もう一枚お願いします」

今度は母が真ん中に並び変えた。

パシャっ

父「どうも、ありがとうございます」

カメラマンはカメラを父に渡し離れた。

父「まだ出発まで時間があるな、腹減ってないか?そろそろお昼だしラーメンでも食うか、どうだ?」

Kタ「うん、でも母さんがおにぎり作ってくれたし」

母「おにぎりはまた後でたべれば」

父「ああ、そうしろ」

息子「じゃ食べる」

父「立ち食いだけどな、出発前の3人での食事だ」

駅のホームの立ち食いの店に入店する3人


店主「いらっしゃいませどうぞ〜」


父「ラーメン3つで」


店主「はい、3つ…」

Kタ「あの一つは大盛りで」

店主「はい、大盛り1普通盛り2で、」

父「Kタが小さい頃ここで食べたことあるんだぞ覚えてるか?」

Kタ「うん覚えてるよ、父さんラーメン食べながらビール飲んでた」

父「よく覚えてるな」

動物園へ行く時だった。小さい頃のこういった事は覚えているものである。



店主「はい、おまちどう様、ラーメン3つです」

湯気立つ3つのラーメンの着丼だ!!!

見た目はオーソドックスなラーメンだが…

父「おっいい匂いだな〜」

煮干しの香るラーメン。麺は細麺ちぢれ、具はメンマ、ねぎ、チャーシュー、ナルトの入ったTHE ラーメンだが。

皆がレンゲでスープを一すする。


父「んっ、これこれ!」

Kタ「うんっ!」

母「おいしい」


つるつる〜っ…、ズルズル〜…、ゾゾゾっ〜…

ちゅるちゅるちゅるっ〜‼‼‼‼…ポン

煮干しの効いたラーメン、しかし決してガツンっと来る系ではなく、あっさりではあるものの、コクがある。細ちぢれ麺との相性もいい、食べやすくスルスル入る。

こういったお店で食べるいわゆる納得の美味いラーメンではあるのだが、本来ならば出発前に家族3人で食べる…思い出のラーメン。生涯忘れられない味だとか、涙を浮かべながら食べるだったはずなのだが、そんな哀愁をもかっさらっていく。3人は箸を止めることなくひたすらラーメンをすするのであった。


息子は故郷の、その思い出のラーメンを家族3人で食し、心置きなく上京していったのである。

         



         終 







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