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夏の終わりと秋の始まり

突然の連絡。
もう10年前に別れた彼女。
別れた後も何度かフラっと僕の前に現れては消えていった。
最後に会ったのは5年前か…
その時の別れ際にもう二度と会うことはないだろうと何となく感じていた。

「元気?」
「元気だよ。」

たわいない会話を繰り返し、しばらく沈黙の時間が訪れた。電話口の向こうから聞こえる雑踏の音。

「何も聞かないし、何も言わないんだね。」
「え?」
「何も変わらないね。」
「変わった部分もあるだろうし、変わらない部分もあるよ。」
「ううん。あなたは変わってないよ。」
「そうかな。」
「私ね。結婚するの。11月に。」

少し黙った後に僕はお決まりの言葉をかけた。

「おめでとう。」

彼女は沈黙し、しばらくして

「それだけ?」

と言った。

「それ以上もそれ以下もないよ。おめでとう、だけ。」
「そっか、ありがとう。じゃまたね。」
「うん。また。」

またね。が、ないことは二人とも解っていた。解った上での「またね。」
彼女が何を伝えようとしていたかは僕には解らない。
だからこそ、そこに踏み込もうとしなかった、 というより踏み込む権利などないことが解っていた。 一口分余っていた珈琲を飲み干した。理由はない。ただそうするしかなかったのだ。

少しずつ夜風が冷たく感じるようになり、「今年も夏が終わるな。」なんてことを思っていたらすぐに秋が始まる。季節はいつも嘘をつく。

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