神部奏人

離れた場所にもう一度近づこうと思いました。

神部奏人

離れた場所にもう一度近づこうと思いました。

マガジン

  • 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚

    見る、観る。聞く、聴く。触る。味わう。嗅ぐ。

  • あいつとあの娘ときみとぼく

最近の記事

朝は朝で夜は夜。

誰もいない部屋で起きることに慣れたのはいつからか。毎朝、真夜中を迎えたような顔をして意味なんて持ってもないくせに持ってるフリをして。やっぱり楽しみたいし、楽しませたいから勝手に期待して勝手に捨て去らないように。それだけは気をつけて行こう。

    • 懐かしさも、切なさも、何もない6月

      湿気混じりの6月の空気を少し吸い込んでくしゃみした。時折襲う悲しみがどれほど凡庸でどれほど切実か。それを忘れることのないように刻み込んでいこう。勝手に嘆いて、勝手に捨て去らないように。 「もうあの頃の僕じゃないですよ。」 15年振りに会った後輩が言った。 「上司が右向けって言ったら向きますもの。」 彼は当時かなりのパンクスで、攻撃的で人を寄せつけないような雰囲気を放っていた。 今はかなり落ち着いた雰囲気で当時の面影もない。 「世の中に簡単に揉まれてしまったんですよ。とんがって

      • うまく騙してください。踊るから。

        「まだ頑張れるの?」 「ひどく眠いよ。」 「私はまだ頑張れるわ。」 「そう。」 鏡を見るとひどく疲れた顔をしていた。大事に紡いできた糸は儚くも驚くほどに呆気なく切れた。あれからいくつもの季節が終わりを告げ、また始まっていった。きっと彼女は変わらない生活を送り、少しだけ変わった景色の中で生きているのだろう。 あれから10年が経ち、何も変わらぬまま僕は生きている。それとも、何かが変わったのか。ただ、唯一変わらないと言えることは許すことも許されることも守ることも守られることもでき

        • 気付かずに訪れた7月

          いつかの7月を迎える頃、そんな事には気も付かずに僕は日々を過ごしていた。現在を軸に、以前は知り得なかったことをほんの少しずつ学んでいる。 それは無駄に築き上げてきた自意識を壊す作業とも言える。 全てがうまくいっているように思えてたあの頃は少しずつのズレに気がつかず、何一つ感じていなかったのだろう。今思えば、ただの道化師かめでたい人間だと、自分の事ながら冷静に考えしまう。今の僕からすれば、ただただ笑うしかない。  彼女と出会った後、僕は構内で彼女を探すようになっていた。見つかる

        朝は朝で夜は夜。

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        • 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚
          3本
        • あいつとあの娘ときみとぼく
          5本

        記事

          今日が今日でありますように明日が明日でありますように

          「おーい!」 誰かが僕を呼んだ。声の主はすぐにわかった。鉄ちゃんだ。だからすぐに僕を呼んでるのだと気がついた。周りを見渡すとやはり僕を呼んでいた。 「こっちこっち!」 呼ばれた方に行くと鉄ちゃんと知らない女子学生数名がいた。 彼女と出会いはこのときが初めてだった。大学4年の梅雨も明けようかという少し蒸し暑い時期。 「鉄ちゃんどうしたの?」 そう聞くと 「この子たち4月からアリノでバイトしてるんだってー」 アリノは僕たちが通っている大学の近くにあるスーパーのことだ。 「へーそう

          今日が今日でありますように明日が明日でありますように

          夏の終わりと秋の始まり

          突然の連絡。 もう10年前に別れた彼女。 別れた後も何度かフラっと僕の前に現れては消えていった。 最後に会ったのは5年前か… その時の別れ際にもう二度と会うことはないだろうと何となく感じていた。 「元気?」 「元気だよ。」 たわいない会話を繰り返し、しばらく沈黙の時間が訪れた。電話口の向こうから聞こえる雑踏の音。 「何も聞かないし、何も言わないんだね。」 「え?」 「何も変わらないね。」 「変わった部分もあるだろうし、変わらない部分もあるよ。」 「

          夏の終わりと秋の始まり

          曖昧なままでいて

          ナイーブだった言葉たちもチープな言葉になってしまった。 美しさ、儚さ、尊さ… 愛、生、死… 簡単に言葉にしてしまう現代。 でもそれでいいとも思う。 そもそもよくわからないから。わかってないから。 わからない方がきっと楽しいんだ。 そう思えるようになったのはいつからだろうか。

          曖昧なままでいて

          経験のないこと

          私は浴衣を着たことがないの。だから着てみた。 何かが変わると思ったけどそれは勘違い。 結局、見上げた夏の空は絶望的なほど青くて、恐ろしいほど高くて近い。

          経験のないこと