10すいこまれ

懐かしさも、切なさも、何もない6月

湿気混じりの6月の空気を少し吸い込んでくしゃみした。時折襲う悲しみがどれほど凡庸でどれほど切実か。それを忘れることのないように刻み込んでいこう。勝手に嘆いて、勝手に捨て去らないように。
「もうあの頃の僕じゃないですよ。」
15年振りに会った後輩が言った。
「上司が右向けって言ったら向きますもの。」
彼は当時かなりのパンクスで、攻撃的で人を寄せつけないような雰囲気を放っていた。
今はかなり落ち着いた雰囲気で当時の面影もない。
「世の中に簡単に揉まれてしまったんですよ。とんがってたら干されるし。」
年を重ねれば重ねるほど、はき違えていた自由など『ない』ということに気付いていく。
彼もそうなのだろう。どこかでラインを引かなければ生きてはいけない。そのラインは人それぞれだ。
「今はミーハーパンクスですよ。」
笑顔でそう言った姿がどこか寂しげだった。
人はどこかで変化せざるを得ない状況や自ら変化していくものなのだろう。
中には変化できない人や変化を受け入れられない、変化を受け入れたくない人もいるだろう。
自分はどうなのだろうとふと考えながら帰路に着いた。
受け入れる。受け入れられない。受け入れたくない。
頭の中を三つのキーワードだけがぐるぐると回っていた。
「自分の好きなように進めばいいんじゃない。」
彼女は笑いながらそう言ったであろう。そんな風に考えてしまう僕はあれから何も変化していない。ただそれだけのことだ。

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