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「8歳で80年生きた天使」〜プロジェリア症候群の娘と生きた8年〜No.8

もう生えてこない髪の毛

りさの髪の毛は1歳半にはほぼ抜けてしまいました。
「もうきっと生えてくることはない」と思っていながら微かな期待も持ち続けていました。

しかし、プロジェリアの診断を受けてからはその期待は持てなくなりました。
小さな頃は、帽子をかぶって過ごしていましたが、りさが社会デビューするにあたって私は「イジメられたらどうしよう…」と悩み、外出する時はウイッグをつけるようにしようと思いました。そして、3歳の時にウイッグを作り、お店で初めてつけてもらった時のりさの様子は今でもはっきり覚えています。
ウイッグを見るなりとても怖がって泣き始めたのです。
そんなりさを「アンパンマンのお帽子だから怖くないよ」と言ってなだめてほぼ無理やり被せました。目の前で嫌がっているりさに被せることに抵抗はありましたが、その時の私は「りさがイジメられないように…」と必死でした。

それからの日々は、外出する時は可愛いヘアピンやゴムで結んだりしてなんとか着けていましたが、小さなりさにとっては何故ウィッグを着けるのか理解できていなかったと思います。それでも、着けてくれたのは必死な私への優しさだったのだと感じます。
今思うと、小さいながらもきちんと話をしてりさの気持ちを聴くことが必要だったのではないかと思っています。お友達家族とのバーベキュー、花火と夏休みの楽しいイベントの時は、着けている時間が長くなります。そんな時、「今日は長くアンパンマンのお帽子をかぶらないといけないんだけど、大丈夫かな?」と聞くと、「大丈夫だよ」と言ってくれましたが、暑いよね…ごめんねという気持ちになっていました。りさは帰宅すると、すぐに自分で「暑ーい」と言ってウィッグをはずします。その様子を見て私は、葛藤しましたが、どうしても「イジメられたらどうしよう」という思いに強く駆られていました。しかし、「髪の毛がなかったらイジメられて傷つく」というのは私の価値観であったのかもしれません。でも、当時の私にはそこまで冷静に考えられませんでした。そして、りさが幼稚園に入園するにあたり、大きな転機が訪れました。

幼稚園の入園で出会えたシスター

りさも幼稚園に入園する歳になりました。そして私はキリスト教ではないのですが、温かな優しさを育んで欲しいと願いシスターのいらっしゃる幼稚園へご相談に伺いました。シスターとのお話しの日もウィッグを着けて行きました。すると、「お母さん、園に入園するのをきっかけにウィッグを着けることをやめて見ませんか?通園は、制服のお帽子、園内ではカラー帽子で過ごすというのはどうでしょう。子供達はありのままのりさちゃんを受け入れられると思いますよ」とおっしゃってくださいました。きっと、シスターは私にありのままのりさを受け入れることの大切さを伝えてくださったのだと感じています。そして、その場でりさに「りさはどうしたい?」と初めて聞いてみました。すると、迷うことなく「お帽子にする」とハッキリ答えたのです。私はこのりさの言葉を聞いてウィッグを卒業することに決めました。小さいからわからない…と思っていましたが、りさはりさなりにいろいろな事を感じ、考え、自分の気持ちを素直に言えるように成長していたのです。その日からは、可愛い帽子をいくつか揃えて、外出時もウィッグを着けることはなくなりました。幼稚園の入園式や生活が心配でしたが、イジメられたことはなく、りさの個性として子供達、先生方、保護者の方々が受け入れてくださいました。おかげで、小学校入学の時もお帽子で通学できました。小学校でも、イジメられることもなく、体のとっても小さなりさ(小2で体重が10キロくらい、洋服サイズは90)が出来ないことを、助けてくれる温かいお友達にたくさん恵まれました。先生方にも保護者の方々にも本当に良くしていただき、りさは幸せだったと思います。ハンディがあるりさがみんなと一緒に市立小学校で学べたたくさんの思い出は、今でも私の心に感謝と共に深く刻み込まれています。

ありのままを受け入れること

りさが、小学校1年生の時に2人が好きなバンドのライブに行こう!という計画を立てました。その時に、私は「その日はウィッグにカラーを入れたり出来たら着けていくのもかっこいいよね〜どうする?」と話したのです。すると、ハッキリとした少し強い口調で、「着けないよ、ウィッグを着けたら本当のりさじゃなくなるから!」と言ったのです。私はびっくりしました。この子は自分の全てを受け入れているんだ…病気も自分も。りさが天使になって20年が経った今、あの子は心の深いところでありのままの自分をしっかり受け入れていたと改めて感じずにはいられないのです。そして、自分が背負った宿命すら受け入れていたのではないかと思います。自分に起こる辛い出来事を受け入れることは、本当に難しいことだという事を私自身が身を持って体験しました。深い心の部分でその出来事をどう捉えるか…これは、人生を幸せに生きるためにとても大切な視点だと思います。私は、鬱病、摂食障害、右指フォーカルジストニア、心臓完全房室ブロックでペースメーカー装着という数々の試練を与えられた末に辿り着いた心理学の勉強を通じてようやく自分の人生を心から受け入れ始めたのです。やっぱり、りさには今でもかないません!

次回に続きます。




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