『RE edit north otsu』2020年に開催したローカルライターワークショップ参加者のインタビュー記事001 奥田彩さん

はじめに
2020年9月から開催された「RE edit North Otsu ライティングワークショップ」に参加しました、奥田彩と申します。ワークショップの中でインタビュー記事執筆をさせていただくことになり、料理家である蓮溪邦枝(はすたにくにえ)さんにお話を伺いました。蓮溪さんの許可をいただき、記事を公開させていただきます。

自己紹介

△奥田彩さん
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湖北に移り住んできたからこそ知っている、滋賀の魅力、人々の面白さ。料理家 蓮溪邦枝さん

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深い緑、強い赤、白、紫、黄色……。カラフルで個性的な料理に、目も心も奪われる。

蓮溪邦枝さんは、彩り豊かな野菜料理を、世界に向けて発信し続けている。その名も「Nouvelle SHOJIN(ヌーベルしょうじん)」。

精進料理とは、仏教の「殺生を禁じる」教えに沿って、肉・魚・卵を使わないで作られるもの。そう聞くと、伝統的で質素な食事をイメージする。しかし「Nouvelle」は、フランス語で「新しい」という意味。彼女の作る料理は華やかで、どこの国の料理とも言い表せないところに、その名の通り「新しい」魅力を感じる。

「お野菜の『声』を聞くことが大事!」「どのお野菜にも、必ず、世界中の誰もが美味しいと感じる瞬間がある!」

蓮溪さんは、とても人懐っこくて、ポジティブで、パワフルな人。話し始めるとどうにも止まらないみたいだ。彼女はこの滋賀にいて、どんなことを考えているのだろう?

蓮溪 邦枝さんプロフィール

滋賀県長浜市、湖北町で28代続くお寺に嫁ぎ、家に伝わる行事料理、いわゆる「精進料理」の伝統を守り続けてきた。
大地の力をたっぷり纏った野菜たちの声に耳を澄ませ、その中にある閃きやときめきを共鳴させながら料理を作る。手を動かす中で次々と生まれる即興の自由なアイデアはまるで音楽のジャムセッションのようであり、クリエーターやアーティストから「ライヴ・キッチン」と称される。
現在はその活動を「Nouvelle SHOJIN-新・精進料理」と銘打ち、出張ケータリングや飲食店メニュー開発などにも携わるなど、多岐に活躍。滋賀を拠点としながら、全国、そして海外にも活動の場を拡げている。

Webサイト▶︎ http://kuniehasutani.com/
Instagram▶︎https://www.instagram.com/kunie_hasutani/

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「個性」を大事にして生まれた、Nouvelle SHOJIN

ーどれくらい滋賀にお住まいですか?

蓮溪: もう25年になります。地元は千葉県。滋賀のギャラリーで仕事をするために移り住んだのですが、主人と出会い、結婚しました。嫁いだ先が、長浜市湖北町にあるお寺だったんです。

ーお寺。それで精進料理を扱われているんですね。

蓮溪: でもね、実は、最初は「精進」をうたっていませんでした。

お料理の活動を始めて数年経って「もっと世界にはばたきたい!」と思ったとき、自分だけの名札を武器にしようと考えたんです。すると、精進料理が得意なのはわたしの「個性」だと気付きました。もともとつくる料理はカラフルでバラエティ豊かだったんですが、その全部を、お野菜でつくることにしたんです。

ー具体的には、どんな活動をされていますか?

蓮溪: 会食などのお料理提供や、ケータリングを手がけたり、お料理教室を開催したりしています。最近はオンラインでのレッスンもしていて、湖北の雪の下で育った白菜など、滋賀の美味しいお野菜を使ったフルコースを紹介していますよ。

お料理教室に来られる方の中には、詳しいレシピや分量を知りたい・覚えたいとおっしゃる方もいました。でもわたしにとっては、目の前にあるお野菜すべてがひとつひとつ違って、「個性」がある。あらかじめ決まったレシピを覚えることよりも、今まさに目の前にあるお野菜が、おいしくなる「瞬間」を感じることの方が大事。その瞬間こそが一期一会だと、お伝えしたい。

ー面白そう!「お料理の先生」よりも、「アーティスト」という言葉が似合いますね。

蓮溪: そう、一般的なお料理教室とは全然違うんですよね。そんなことを考えたり表現したりしていたら、「ライヴ・キッチン」と呼ばれるようになりました。

この自分のスタイルは、きっと世界に通用する。Nouvelle SHOJINをひっさげて、もっともっと世界中の人に会いに行きたい!と思いながら活動を続けています。

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▲蓮溪さんが、お料理について描いたもの

「何もない」は、魅力!?

ー世界に目を向けて、精力的に活動されているんですね。一方で、拠点である滋賀、特に湖北町が位置する「湖北」地域には、どんな思いを持たれていますか?

蓮溪: わたしは湖北町で2人の子どもを育てました。とても素敵な地域で、幸せな経験だったと思います。でも、子育てを終えた頃からか、周囲の人たちの「ここには何もない」という言葉が耳に入ってくるようになりました。

本当は地元を好きな方も多いと思うけれど、地域の人が「何もない」と言って卑下していると、そこで育った子どもたちは、もう帰って来なくなる。仕事や学校のために一度地元を出るのは悪いことではないし、経験として重要だと思います。でも子どもたちが外に出たときには、改めて地元を「素敵だ」と感じられるようにしたいんです。

特に、若いお母さんたちの「何もない」という意識を変えたい。お母さんが地元のことを素敵だと言っていると、子どもが帰りたくなるというか、自然と「ここで育ってよかったな」と思うようになるんですよね。だから身近で出会うお母さんたちには、「こんなにすごいところで子育てさせてもらっているんだよ!」と伝えています。

ー今ここにあるものに目を向けるべきだ、ということですか?

蓮溪: いいえ。何もないということにこそ、注目してほしいんです。わたしは、湖北は本当に「何もない」からこそ、自分が息を吸っているのを実感できる場所だと思っています。

たとえば「山々があって自然があって、四季を感じる田舎」と言うと、それはそれで素敵だけれど、日本中にたくさんあるでしょう。ところが湖北には、山がなくて、あっちもこっちも、とにかく四方が広いんです。そんな場所は、なかなか他にはありません。その中にいると、「宇宙の一部である」「自分が、生かされている」と感じます。お寺の嫁だからそんなことを考えるのかな。

「自然が綺麗」だとか、「なになにが綺麗」だとか、他の何かを主語にする必要はないんですよね。「自分」を主語にしていい。「自分が」生かされている、「自分が」息をしている。何もないからこそ、それを改めて感じることができるんです。

東京の友人たちにそう言って一度来てもらうと、必ず「また帰ってきたい」と言います。そんな人たちの想いが積もると「住みたい」になるし、実際にこの場所に魅せられた人は移り住んできます。

ーなるほど…。お話を伺っていると、湖北に行ってみたくなってきました。

蓮溪: そうでしょう!でも、魅力ある地域だというのは、湖北に限った話ではありません。わたしは滋賀県のどこにも、それぞれの良さがあると思います。土地や環境の良さに惹かれて、自然に面白い人たちが集まってきていますよね。

愛する滋賀の人たちのために、できること

ー滋賀にいる「人」には、どんな思いを持たれていますか?

蓮溪: 「実は面白いこと」をしている人がたくさんいます。面白いことって、何か特別なイベントをしているとかじゃなく、その方々がしている日常のお仕事のことです。

まずは自分たちの価値、自分たちの仕事の価値に気づいて欲しい。面白い人たち同士がつながって、みーんなで盛り上がったら「滋賀すごいじゃん!」ってならないかなと思っています。

ー蓮溪さんの出会った「実は面白い人」とは、どんな人ですか?

蓮溪: たとえば、湖北の農家さんですね。本当〜に素敵なんですが、自覚していないんです。この前その農家さんとお話ししていたとき、わたしの見解を聞いて驚かれたことがありました。

先ほども湖北の平野の広さを挙げたように、「滋賀はすごい、景色がすごい」です。その景色って、農家の人たちが作り・守ってきたものだと思うんです。景色を成すのは山や海だけじゃなくて、農地もそうですよね。農家の人たちは、途方もない広さの田畑を古代から引き継いで、維持してきたわけです。

だから、「この景色を作っているなんて素晴らしいですね」「今この景色を守っているあなたは、とっても素敵ですね」ということをお伝えしたんですが、「そういう風に捉えてくれるんや!」と言われました。

ー面白い発想ですね…農家さんご自身では、なかなか気づけないかもしれません。

蓮溪: わたしは滋賀が地元ではなくて、やっぱり常に「外からの目線」です。そんな自分の立ち位置も活かせると思うようになりました。

以前は、ヨソから来たことに負い目を感じて、「この地域はこんなに素敵だと思うけれど、わたしなんかには、力になることはできない」と思っていました。わたしには、嫁いだ家やお寺があるとはいえ、地元の商店街や自治体などとの深い関わりがありません。だから無理だ、と。

でも、そこに負い目を感じなくても、できることがある。今は、わたしは滋賀にいる人たちに「あなた、とっても素敵」って伝える係だと思っています。そうやって、みんなの心に火をつけたい。

ー移り住んできて、滋賀を愛しているからこそ果たせる役割ですよね。

蓮溪: そう、丸ごと応援しています!

そして使命はもうひとつ。わたしは、外に出て行くことが大得意。だから東京や様々な地域のあちこちに、「滋賀のここが面白いよ」と伝えられるコネクションを持っています。それは、滋賀に生まれ育って働いている人たちとは、また違うコネクションですよね。

Nouvelle SHOJINの活動を通じて、もっともっと色んな人に会いたい、世界中の人たちにもっと会いたいという欲求は、自然に溢れてきます。この自分の「もっと会いたい」という欲求から、会えた人と滋賀とを、繋げることができるかもしれません。わたしが世界中の人にただ会ってきて「あー楽しかった」と終わるのではなくて、わたしの好きな滋賀に、連れてくることもできる。

自分が持っているもので、きっと滋賀を元気づけられる。わたしはこれからも、湖北や滋賀を応援するために、人を繋ぎ続けたいと思っています。

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ー自分だけの名札を見つけ出し、唯一無二の料理をつくり続ける蓮溪さん。

「屋根に登って夕日を見ていたら、子どもも登ってきてね…」

子育ての思い出を話していると、湖北でのその情景が心に浮かんだからか、いっそう笑顔が無邪気になる。

野菜ひとつひとつの個性を大切にする彼女だからこそ、一見すると欠点にも思える「何もない」ことですら、湖北の魅力だと知っている。「もっと世界へ」と挑戦する彼女だからこそ、滋賀がさらに盛り上がる可能性を信じて、たくさんの人の心に火をつけようとしている。

自分が暮らす地域をこんな風に愛せたら、なんと幸せなことだろう。彼女の言葉から、「わたしも滋賀のことをもっと好きになりたい」という気持ちが湧いてくる。

きっと、好きになるために、理由になる「何か」はいらない。今ここで自分の人生を生きることで、滋賀の魅力を大いに感じられるはずだ。

蓮溪さんの軽やかな声から、そんな希望を受け取るインタビューだった。

書いたひと
奥田 彩

偶然、琵琶湖のほとりに暮らしている人。出身は和歌山県で、他府県や滋賀の他の地域にも住みつつ、2020年の結婚を機に湖西にやって来た。普段は会社員をしつつ、この地域の魅力を活かし・伝える活動がしたい思いから、2020年9月スタートのライターワークショップに参加。のんびり散歩する時間が大好きなので、RE edit North Otsuを見ている方にもお散歩をおすすめしたい。
note/https://note.com/ayaadukuf
https://reedit-northotsu.com/about/

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