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【短編】One Month Novel~片岡亮太郎のこだわりと苦悩の執筆活動~

亮太郎のこだわり

 アマチュア作家・片岡亮太郎(かたおかりょうたろう) はアニメとドラマが大好きである。(勿論好みはある)
 尚、好きな理由にはこだわりをもっている。

 アニメでは、
 一、世界観
 二、キャラクターの性格や個性。次いで見た目
 三、ストーリー構成
 ドラマでは、
 一、キャスティング
 二、世界観
 三、ストーリー構成
 これらに重点を置いて作品を観ている。

 しかし、だからといって自身の意にそぐわない作品を観なかった後、SNSなどの評判により途中から観る場合もあり、最終回後、動画やブルーレイをレンタルしてもう一度始めから観たりする。

 如何に人気であれ、評判があれ、どうしても観ない作品もある。まず、流行りネタの模造作品は全般的に観ない。これは、どうしても二番煎じ感を強く抱いてしまい、どれだけ感動場面を持ちだされても、まるで響かないからである。
 さらに、そう言った作品では、死ぬ間際に長々と言いたいことを言って死ぬ場面が多くてシラケてしまう。これはドラマや映画も同様であった。

 なかなかの致命傷を負いつつ、なぜそこまで死に急ぐのか。紙とペンが傍にあるのに、どうしてそこに犯人名を記入しないのか。助けたいなら無理にでも黙らせろ。など、亮太郎内でのこだわり死亡シーンと比較して観てしまう。

 次に、忖度を優先したキャスティング。特に脇を名優達で固めているのに、メインに男性女性どちらであれアイドルを起用する。
 脇役であれ、演技の技量が低いアイドルや人気の若者を起用されるとうんざりする。

 冷静な目で見て、彼ら彼女らもこれからの芸能生活を生き残るのに必死で、与えられた仕事を不器用ながら、もがきながら、手探りで前に進んでいるのは亮太郎も理解している。偶然見たドキュメンタリーで、そういった者達が必死なのも理解している。全てがそうではないことも理解している。

 しかし、苦手なものは苦手だった。見れるものは見るが、どうしても無理なモノが多いため、そういう苦手意識と偏見が生まれた。

 この感情は修正の余地がある。職場の同僚と話をしていると、その偏見で見逃した名作を紹介され、薦められるがままにそれを観ると、確かに面白かった。よって、この偏見は粛々と療養中である。

 最後に、アニメでよくあるのが、萌えキャラ、少女密集構成、主人公ハーレム展開など、とにかくこれでもかという位の女性キャラを投入し、尚且つ可愛さ押しの幼い見た目。ドラマではアイドルが集まってわちゃわちゃするなど。全てを男性に置き換えてもそうだが、そういった作品は全面的に観れない。もうそれは拒絶反応でしかない。

 二十四歳の年齢的にそう思わせるのかと思われるが、昔からそのような展開が嫌いなため、もう根っからの嫌悪だ。
 他にも、極端なまでに主人公に都合よすぎる展開。初回から一人称で色々自己紹介する。など、嫌いなモノは多い。

 根っからのアニメオタクとは外れて、偏見持ちアニメ・ドラマ好きという立ち位置であると亮太郎は自負している。

ライチャレ

 色んなアニメ・ドラマにこだわりを持ってみている亮太郎はその日、悩んでいた。それは、現在一部のコアなファン層に人気の執筆ゲーム・【ライチャレ】に関しての事である。名称由来は、lighting(執筆)+challenge(挑戦)の略。

 ライチャレは、執筆ゲームというだけあって、小説など、とにかく文章を書くゲームである。

 ゲームと表記するが、イベントや条件を達成する事でキャラクターを強くするのでも、話を進めるものでもない。ある条件下で文章を執筆するとポイントを稼ぐことが出来る。
 このポイントはネット内で取得や使用出来るものが多い。

 一部の専門情報や動画などの購入。
 運営が販売する小物。
 定期的に開催される俳優や声優、監督や脚本家などが、公開される映画やドラマやアニメなどの宣伝トークイベントの客席チケット。

 全てが既定のポイントを支払えば貰えるものばかりではなく、抽選だったりする場合もある。

 執筆ゲームには様々な条件を選択でき、このゲームで得られるポイントを貯め、人気声優や俳優のトークイベントに参加しようと熱心に励むファン達もいる。そういった者達は、別に執筆するのではなく脳のトレーニングのようなゲームに励みポイントを稼いでいる。

 亮太郎がこのゲームに熱中する理由、それは脚本家になるのを最優先としている。

 このゲームの素晴らしい所は、某無料投稿サイトと連携している為、双方に自らのアカウントを登録する事で、ゲーム内に投稿した作品が自然と投稿サイトへ掲載されるシステムとなっている。

 そして、ゲーム内で優秀作品となったものは運営に贈与する選択権を得られる。それは、贈与する事で作家として、又は脚本家としてデビュー出来るかもしれない試用期間権限を得られる。

 亮太郎の狙いはこれであり、その為に日々試行錯誤を繰り返して作品を投稿している。

 数あるステージにおいて、亮太郎が選んだステージは、【one month novel】。
 このステージは、一カ月(one month)の内で条件をいくつ達成できるかでポイントとチャンスを得るステージである。
 条件は様々で、ある月ではPV(作品閲覧回数)と、高評価点数を既定値まで稼げるか。別の月では、八千字から九千字以内の短編小説を十作以上投稿とされ、これにも高評価を得られると特別加点が加えられたりした。
 他にもあるが、重要視されるのは短編小説が多い。

 亮太郎は心の中でこう思っている。”プロになれば、決められた日数でこれぐらいの事は当然やらなければならない”と。

 そういった自分への追い込みと向上心をもってこのゲームに励んでいる。いや、亮太郎には、このシステムはゲームではなく、実力行使の採用試験のように捉えている。

 そんなone month novelで亮太郎は、次にどういった作品を書こうか。で頭を悩ませていた。

 今月の条件は、八千字から一万字の小説。掲示されたテーマ十種より選択(投稿作品が複数の場合、テーマの複数選択可)。高評価値・百到達、もしくは投稿数十以上。

 亮太郎にとって最悪の条件、投稿数十以上。これがなかなかクリアできない。
 完成している作品を写し書きするのとは違い、自分でキャラクターを作り、描写を作り、展開を構成し、台詞を考える。
 もうワンランク下のステージでは三千字から五千字の短編がある。しかし、ある有名脚本家の一人がこのステージを熟し脚本家となった。

 出来る出来ると自分を信じ、ゲームを初めて五カ月を迎える今日、未だかつて規定投稿数を越えた事が無い。

 他のアカウントでは、それを達成した人がそこそこいるが、内容はどこかの作品の真似事の様なものだったり、決めたキャラクター、世界観を利用し、一話完結の日常話を投稿している。
 執筆ゲーム的には問題ないのだが、亮太郎的には邪道であり、絶対それはしないと心に誓っている。

「所詮ゲームなんだから、そんな熱くならなくてもいいだろ」

 唯一亮太郎が脚本家を目指している事を知っている兄が言った言葉が呪いのように頭に流れる。
 それでは駄目である。そういった甘えに手を染めては、いざプロの道に立った時に後悔するのだから。

 亮太郎の熱意はなかなか冷めない。

兄は人知れず弟を気遣う

 幼い頃、こんな経験をした男性は多いと思う。

 人気アニメの使用するキャラクターの必殺技を、何度も試してみて出来るかどうかを。特殊であるが現実でも出来そうな修行に励めば、必殺技か、それが出来る体質になるのではと。
 亮太郎もそれを試した者の一人であり、当然、何一つ必殺技が出来る事も体質変化も起こらない顛末を迎えた。

 ある年齢を迎えて気づく、そんな事は当然できないのだ。そして、そういった技を用いて懲らしめる様な化物や悪者はこの世の何所にも存在しない。

 もっと言うなら、本当の化物や敵は日常に出会う人間達であり、法を犯さない条件下で、言葉を用いて対処していかなければならない。

 現代人が修行してでも必要なのは、あらゆる惨事に対応できる判断力と行動力、語彙力や説明力。極まれに化物級の視聴率を叩きだすドラマの、詐欺師や嘘つき主人公などが用いる巧みに騙す話術も羨ましく思う。

 そんなリアリティはさておき、亮太郎は今が目下修行中である。

 アニメの主人公などは若いうちに鍛え、三十そこそこで世代交代したり、特殊な種族の主人公でももう少し年老いても大丈夫だが、全ての主人公が通る、主人公としての期限・年齢制限など、この執筆ゲームにはない。
 体力の向上、力の向上などを必要とせず、特殊な薬も必要としない。

 『特定のライバル』なんて、スポットライトが一部に集まるような設定はない。参加者全てがライバルであり、突出して化物級の作品を投稿した人も、次回以降ではそれを書けるわけではない。そして、質素なものばかりを投稿していた人が、かなり高PVを稼ぎ、高評価を連発する猛者に変貌もする。

 それぞれの力量が推し量れないのがこのゲームの醍醐味。そして、修行と挑戦が統一していて、自身が主人公にも脇役にもなれる。

 もう、こんな事ばかり考えている亮太郎は、救いようがない程にのめり込みすぎている。

 亮太郎の兄曰く、一度完全燃焼するまで放っておかないと、気が済まないだろうと。

 一応、社会人として仕事を熟し収入もある。昨今の結婚してすぐ離婚する現代人を見るからに、亮太郎が中々彼女の一人も作らない事を大して問題視していない。むしろ諦めている。

 自分には妻も子もいるので両親には孫の顔を見せているので、亮太郎には我が道を気のすむまで進めばいい、と思っている。

諦め

(そうだ、突如部屋に現れた不思議な老人の言動をによる予知とか預言とか……)
 亮太郎はトイレに入った時にそう思いついた。そして、その思考はさらに続いた。

(いや待てよ、だとして、落としどころは何だ? 老人の予言を破って痛い目をみるとか死ぬとかか?)
 思いつく結末は、よくよく考えるとどこかで何かの番組の結末。その他思いつくのも、諭されて自分の過去と向き合い人情話、意味深な予言を最後に消え、身内に奇妙な出来事発生。

 色々考えられたが、やはり決め手に欠ける。では、次は世界観を変えて、大昔、戦国時代か平安時代を舞台に設定すれば、妖怪、幽霊系は作りやすく、教科書などに載っている偉人が目立つ場所以外の、村、集落、町を土台とすれば、不思議設定はやりたい放題である。

(妖怪……)
 どうしても既存の妖怪が頭から離れない。妖怪系は現代社会を舞台にしたアニメやドラマでもよく登場する。妖怪系はベタか? そう思いつつ、幽霊系を元に考えてみたが、やはりありきたりだ。

 その他、恋愛系はよくあるから新しい世界観が思いつかない。
 ヒューマンドラマ、何故か面白く仕上げることが出来ない。
 青春もの、なぜか全てが同じように仕上がる。
 異世界ファンタジー、中世ヨーロッパ系世界と化物。どこぞの民族対化物。この構図を崩す妙案が中々浮かばない。

 ど素人で、執筆を初めて日も浅い亮太郎だが、これがスランプなのだと悟った。そして、もう無理だと思った。(勿論今月中の条件達成だ)
 作品数は無理でもまだ高評価部門は可能だ。しかしこうも何も思いつかないのなら、いっそ諦めてみるしかないと思い至った。

 ◇◇◇◇◇

 その日は休日。
 亮太郎は何も思いつかないなら、ただ、呆然と寝る選択を取った。
 何も出ない、何も思いつかない。
 亮太郎はこうなったら何も出来ない。

 自分の行いを正当なものとさせるため、布団に籠りながらタブレット端末を操作して、”何も思いつかない時は何もしないほうがいい”と記されている記事や語っている動画を眺めて安堵する。

 冷静さを取り戻すと、何も無理に数多く仕上げればいいのではない。他にも条件があるのなら出来る事に専念すればいい。量より質。それでいいのだ。駄作を百も拵えるよりもただ一つの名作を生めばそれでいいのだ。と考えに至る。

 自分への養護を優先し、自惚れた言い訳に溺れながら、また今月も投稿できる短編小説は一作が限界となるだろう。

 one month novelを初めて五ヶ月。未だ投稿した作品は四作しか出来ていない。

 亮太郎の悲願が叶う日は、まだまだ先になりそうである。

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