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【二十四節気短編・小暑】 七の祈願

1 死んだ幼馴染


『七月七日午前七時七分に▢〇神社でお参りすると、会いたい人に会える。この時、賽銭箱へは七百七十七円を入れて願わなければならない』
 ▢○町に伝わる七夕伝説である。

 昔からの言い伝えられた伝説も、当然ながら時代の流れと共に信憑性が薄れて迷信だと思う人が増えた。さらにこういった金銭が絡む伝説は、祭りの資金稼ぎのために作られたとも噂されている。
 どちらにせよ真偽は不明だが、子供騙しの伝説扱いなのは変わりない。

 しかし、七夕伝説には裏情報もある。

 七月七日午前七時七分と午後七時七分。この二回にそれぞれ七百七十七円を賽銭箱へ入れて会いたい“死者”を願うと会えるとされている。注意が必要なのは、必ず午前午後の二回、同じ願い事を祈らなければならず、会えるのは午後七時七分以降、七十七分間だけ、▢○神社内と限られている。

 六月某日。
 二十八歳の時田ときた篤弘あつひろは、一か月前に他界した祖母の遺品整理中に小学生時代の写真の束を見つけた。
 祖母は孫思いで、写真をアルバムに挟むではなく、束にして缶箱へ入れる人であった。よって、篤弘が見つけた写真は小学生時代の箱である。
 満面の笑みで篤弘と共に写る少女。彼女は篤弘の幼馴染であり、もう二度と会えない人である。

 光島みつしまかおる
 薫と篤弘の世代は田舎町の生徒数が少ない世代であり、男女関係なく一緒に遊ぶようなクラスであった。元々の薫の性格も関係しているが、わんぱくに育った薫も男子のような女子となった。いつも活発ではきはきと意見し、逞しい。
 篤弘と薫は中学校も同じで、よく篤弘は薫に勉強を教えてもらったりした。
 二人はけして恋人関係には至らなかったが、仲の良い男女の友達として成長し、高校からは互いに別々の道を歩み、離れ離れになって大人になるのだと何気なく感じていた。

 それが当たり前の未来の筈であった。…………しかし薫は死んだ。
 激しい雨の翌日、川下に溺死体で亡くなっているのを発見された。

 幼馴染の急な死の報せ。
 篤弘は悲しいよりも先に、身近にいた少女が途端に会えなくなることが途轍もなく虚しかった。急に篤弘の世界から消えた。ショックな思いが強すぎて頭が真っ白になる。
 日常生活もごく普通の学生生活を送っているのに、自分は全く同じ生活環境に見える全く別の世界へ迷い込んだような、取り残された思いであった。

 篤弘は写真をみていると、▢○神社が移っているものを見つけた。七夕祭りの集合写真であった。それを見て、ふと七夕伝説の噂を思い出した。死者と会える噂を。

 七月七日午前七時七分。
 誰かいるだろうとソワソワした思いのまま神社へ来ると、誰もいない事に安堵した。二十八にもなって誰も信じない伝説を実践する自分が恥ずかしい。
 冷静に考えると、過疎化の進む町の伝説を実行しようとする者は、ほぼいないに等しい。
 篤弘は妙に緊張しつつ、さらには誰かが来ない事を強く願いつつ、時計を見て七百七十七円を賽銭箱へ入れる準備をした。
 いざ時間になると握り締めたお金を入れて二礼、二拍手、一礼の所作を行った。

(光島薫に会えますように)

 深々と頭を下げて願い、頭を上げて帰ろうと振り返った。
 テレビ番組などでは後ろに立っている光景が過ぎり、若干の悪寒が身体に走るも、結局は誰もおらず安心した。
 ”死者と会うにはあともう一度来なければならない”
 そんな使命感とは別に、
 ”合計千五百五十四円を無駄にする程の事か?”
 と、現実的な思いを抱きつつ帰路についた。

 不意に”もし死者に会えたとして、ホラー番組や映画でお馴染みの顔面蒼白状態で現れたらどうしよう”と思う。しかしこの裏七夕伝説にはそんな脚色は無く、時間制限ありで死者と再会できると広まっている。誰もあの世へ連れていかれるなどと言っていない。
 仮にも、神の社である神社で怨霊騒ぎなど起こそう話があるものか、と、篤弘は無理矢理自分に言い聞かせ、怨霊は関係ないと割り切った。

 午後七時。
 朝方に抱いた恐怖の不安は、神社近くで七夕祭りの夜店に向かう客の流れを見るだけで払拭された。なにより、いい歳した男性が伝説を信じて神社へお参りに来るなどと知れたら恥ずかしくてたまらない。
 ▢○神社は社が古く寂れているので他の場所が祭りの舞台となっている。
 誰にも気づかれていないのだから、やらずに帰るという選択肢もあったが、朝に七百七十七円を払っているなら夜もやらなければ本当に無駄金になってしまう。しかし、本当にしようかどうか、境内へ入ってからも考えてしまっている。

 午後七時五分。
 篤弘はまるで神社に立っている案内看板を眺めている大人を演じるかの如く立っていた。手にはお金を握りしめて。
 寂れた神社にこの時間にいるのは不審者だとも思えるが、そんなことは気にもしていなかった。
 ようやく残り三十秒前になると、そそくさと賽銭箱前へ向かい、残り十秒になると周囲を伺いながら時計も眺める。
 誰も来ない事を願いつつ七時七分を迎えると、握り締めたお金を賽銭箱へ投入し、朝よりも素早く二礼二拍手一礼を済ませた。

(光島薫に会えますように)

 願いを済ませて周囲を見回すも、やはり誰もおらず、迷信に無駄金をはたいたと肩を落として帰路についた。

 ――ザッ。
 ふと、後ろから足音がして立ち止まった。
 ここには自分以外誰も居なかった。誰かが隠れて現れるような所は少し離れていてこんなすぐ、真後ろから音がするとは考えにくい。
 脳裏に過ぎったのは、ホラー映画の演出だった。
 篤弘は背筋に悪寒が走り、両腕は鳥肌が立つ。それでも、本当に怨霊なら全速力で逃げる心構えを固める。

 一呼吸吐いて、恐る恐る振り返る。

2 伝説検証実験


 その年の二月、光島薫の祖父が他界した事により倉庫に置いてある物を整理できるようになった。
 二十八歳の薫は、両親と二十六歳の弟・俊也と協力して地道に倉庫の整理作業を始めた。

 祖父は育児や自身の生活においてあまり文句は言わない人物であったのだが、倉庫に置いてある品々をむやみやたら整理したり、要らないからと捨てたり売ろうとすると酷く怒った。よって、家族の中でも倉庫に置いてある物を自由に扱えるのは入り口付近に置いてある、孫達が遊んでいた玩具等しかない。

 薫は仕事が休みの日、午前中だけ倉庫の整理に励む日々を送った。
 ふと、倉庫の奥にしまわれていた、薫の幼少から小学生を過ごした時のアルバムを見つけてしまい作業の手を止め、開いて見た。ついつい時間を忘れて写真を眺めてしまい作業が完全に停止する。
 幼い自分と友達や先生、微笑んで昔を思い出す時間に浸っていると、一人の少年を見て物悲しい気持ちになった。

 時田篤弘。

 彼は中学三年生の夏終わりに事故で亡くなった。九月、滝の様な激しい雨の日の翌日、川で溺死体となって発見された。
 幼い頃からよく遊び、中学校に行ってからも他の友達と一緒にちょくちょく互いの家を行き来していた関係だった。けして恋愛感情は無かったが、篤弘が死んだ時、とても大切なものを失ったような、心に大穴が開く感覚に陥り学校を二日休んでしまったのを現在もはっきりと覚えている。
 篤弘と▢○神社で写っている写真を眺めていると、仲間内で噂していた七夕伝説を思い出した。

 七月七日午前七時七分と午後七時七分に、▢○神社で七百七十七円を賽銭箱へ入れて願うと会いたい人に会える。それが死者であっても。というものだ。
 薫がそれを実行しようとしたのは紛れもなく衝動的な思いからであった。

「はぁ?! お前本当にする気か? 今の子供も、んなもん迷信って分かってっぞ」
 幼馴染の利尋としひろに相談しての返答であった。勿論、本当に叶うなどと薫は思っておらず、篤弘の写真を見つけて思いついたからと前置きしている。
「あれ、前から叶うかどうか気になってたんだぁ。偶然じゃね? 爺ちゃん死んで、倉庫整理してたらアルバム開いて思い出すって。やってみたいじゃん」
「俺ホラーとかマジ無理だぞ」
「あの伝説、そんな怨霊系じゃないし。案外、死んだ人と会える純愛映画みたいな展開っしょ」
「つーか、会える前提かよ」

 薫と利尋が会うのもかなり久しぶりで、会話も弾んでしまう。
 話をする内に、篤弘に会いたい奴を呼んで七夕伝説検証実験を結構する流れで話はまとまった。


「つー訳で、篤弘に会えるかやってみようと思います」
 七月七日午前七時。
 ▢○神社にて、利尋と薫を含め、後二人の男女が集った。
「皆、お金持ってる?」
 薫以上にやる気に満ちてる女性・亮子りょうこ
「……うん」
 朝が苦手で、前日まで乗り気だったが、こんな朝早くから起こされるなら辞めとけばよかったと後悔する寝ぼけ眼の男性・ひろし
「じゃあ、時間もねぇので早速賽銭箱前へ」
 四人はちんたら歩きながらも昔ここへみんなで来た時の事を話し合った。

 賽銭箱前で利尋はスマホで時間を確認していると、突然秒読みを開始した。
「おいマジか。いきなり?!」薫は焦った。
 朝から仕切っている利尋だが、突然強引に物事を進行する癖は昔から変わっていないと、洋や亮子も面白く思い出し、お金を準備した。
「三、二、一。はい投入」
 全員がお金を入れると、参拝マナーの二礼二拍手一礼をして願った。

(時田篤弘君に会えますように)

 四人がメインの願いを終えると、薫以外の三人はまだ祈っていた。
「え、皆何?」
「美人の彼女が出来ますように」洋の追加祈願。
「マッチョの彼氏が出来ますように」亮子の追加祈願。
「宝くじが一千万円以上で当選しますように」利尋の追加祈願。
 各々が欲に塗れていた。

 午前の部が終了して一時解散した。そして午後六時四十分、四人がバラバラの時間で現地集合した。
 皆、実験以降に七夕祭りへ行く支度も整っている。ただ、誰も浴衣姿ではない。

「浴衣は八月の夏祭りだろ」利尋の持論。
「浴衣はマッチョが多い時だけっしょ」亮子の持論。
「浴衣……いる?」洋の持論。
 ちなみに薫は浴衣が自分の中で似合わない衣装の一つとしてあるので、着ようとしない。

「薫、その袋何?」
「ああこれ? 手持ち花火とライター。弟が今度友達と家でやるから出来たら買って来てって」
「弟思いだな。俺なんかぜってぇ「自分で買えや」で済ますわ」
 花火の話をしている中、洋が時間を確認すると残り一分を過ぎていた。

 四人は急いで賽銭箱前へ行くと、午前の部同様に利尋が秒読みを始めた。

「あー、ドキドキしてきた」亮子は両手で小銭を包んだ。
「なんか起きるかな?」洋は午前よりも期待感が増している。
「心臓バクバクしてる」薫は小銭を握り締めた手を賽銭箱の上まで伸ばした。
「三、二、一。投入!」
 小銭を入れると、四人は二礼二拍手一礼をして願った。

(時田篤弘君に会えますように)

 薫が願うと、柔らかな風が背後から吹きつけ、花火の入った袋が揺れた。顔を上げ、左右を見ると、利尋、亮子、洋がいない。
 背後から遠退く足音がして振り返ると、一人の男性が帰っていく姿が見えた。
 薫はその人物が誰か分からないが、思い当たる人物が一人しかおらず、恐る恐る歩み寄った。すると、男性は立ち止まり、ゆっくりと、まるでホラー映画や特番で背後を確認するくらい、恐る恐るといった具合に振り向いた。

 二人は目が合うと、驚きのあまり、同時に「うわぁ!」と、声を出して驚いた。

3 七十七分の再会


 驚きと興奮に慣れると、互いに互いの顔を伺い、中学生時分の面影が重なった。
「え、光島薫……さん?」
「時田篤弘君?」
 名前が合致すると、更に興奮と驚きのあまりうろうろしながら頭がこんがらがった。
「え、ちょい待ち! マジか! マジで薫ちゃん?」
 薫は何度も頷いた。それでもうろうろするのは止まらない。
「あっ君だよね。ホントのホントに。嘘、マジ信じらんない。……本気で会えた」

 二人はどういう原理か分からないが、七夕伝説が叶った事だけは確かだと実感する。まるで長年離れ離れの友達と会うように近寄り、笑顔で話し合った。
 まず互いに気になったのは、”どうして川で死んだか?”であったが、どちらとも同じ質問だったので、会話が噛み合わなかった。

「つー事は、俺と薫ちゃんは別々の世界って事? パラレルワールドみたいな」
「よく分かんないけどそうみたい。え、ちょい待ち。そんな事より、そっちのあたし、あんな雨の中に川行く? 普通」
「それ、そのまんまそっちの俺に言いたいよ。いや、そんな俺も俺だけど」
 互いに互いの世界で死んだ自分を指摘し合い、死に関する話しは終わった。

 次に話したのは仕事の話。
 篤弘は大手の工場で働いていて、そこそこいい地位についている。妻もいて今度子供が産まれると言う。
 薫も、結婚して旦那と子供二人と楽しい生活を送っていると言う。

 お互い、歯切れの悪い言い方でぎこちない。勿論、二人とも嘘を吐いて見栄を張っているが、本当は、二人ともフリーターで独身。見合いの話を親から勧められたりしながらも拒んでいる。
 悲しくも二人は同じ境遇である。

 篤弘は薫の持つ袋を指差した。
 薫は手持ち花火を見せて事情を話した。

「そうだ、一緒にやろうよ」
「え、でもそれって」
「こんな奇跡の再会一生ないよ。花火なんてまた買えばいいし」
 蝋燭が無いのでライターで火を点けて遊ぶしかない。
「水とかどうしよ」
 薫が周囲を見回すと、元々は手水で使用されてた岩の窪みに雨水が溜っており、買い物袋に水を掬って近くの木に引っ掛けた。
 あまりにも逞しく事を進める姿が昔と変わらず、篤弘は感心しつつも変わらない姿が嬉しくて仕方なかった。

 二人はライターで花火に火を点け、童心に帰るように楽しんだ。一本一本、花火に火を点けなければならないのが手間ではあるが、それでもこの楽しい時間にとってそれは苦ではなかった。
 休む間もなく遊び、思い出話に花咲かせた。
 いよいよ手持ち花火の大きいモノを使い切ると、『当然最後はコレ』とばかりに取り出したのは線香花火であった。

「やっぱり花火の締めはコレっしょ」
「線香花火で夏の終わりの余韻を感じるのが定番」
「うん。まだ夏始まったばかりだけど」
 やりとりはくだらないものだが、何を言っても楽しくて笑えてしまう。
 二人は線香花火をした。
 この花火の時間が終われば、また離れ離れになるのかと思うと、▢○神社への願いに新たな願いを加えたくなってしまう。

『この時間がもっと続きますように』

 二人は思うも、伝説には七十七分で終わるとある。そして最後の線香花火に火を点ける頃には、もう時間は残り僅かであった。

「あっ君、来年も会えると思う?」
 線香花火を眺める薫の眼には涙が浮かんでいた。
 薫から視線を線香花火へ戻した篤弘は答えた。
「……俺は来年も同じことやってみようと思う。叶うか分かんないけど」
「あたしもやる」涙を手で拭った。「運が良ければまた会えるし」

 線香花火が終わりを迎え、火の蕾が落ちる前に篤弘はそれを地面へ落し、衝動的に身体が動いた。
 渾身の想いで薫の身体を抱きしめると、離さないように強く抱きしめた。

「薫ちゃん……また会おう」
 薫も抱きしめ、あふれ出る涙を流しつつ、頷いた。

 伝説の終わりは非情にも余韻すら残すことなく、互いに互いの思う人物の姿を一瞬にして消した。

4 生きてると願い


 七月八日午前五時三十三分。篤弘が目を覚ますと自室の布団の上であった。

 夢の中で光島薫と会った時の事が鮮明に思い出され、花火をした事、最後に再会の約束を交わした事など、今し方のようにはっきりと覚えている。
 夕方、仕事帰りに▢○神社へ立ち寄ると、花火をした跡は無く、水を入れた袋をかけていた木はあるものの袋はどこにもなかった。
 夢だとは思いつつも、夢とは思えない不思議な体験。
 篤弘は来年も七夕伝説に挑戦する意志を固めた。
 しかしその年の九月、記録的豪雨により▢○神社は土砂崩れに遭い埋もれてしまった。その状況を知った篤弘は、もう薫に会えないと思うと悲しくて仕方がなかった。

 せめてあの日、薫が川で何をしようとしていたかを調べることにした。

 ◇◇◇◇◇

 七月八日、薫は亮子の家で目覚めた。篤弘と会えた事は鮮明に覚えていた。
 あの日、祭りを終え、亮子の家で酒を飲んで寝たらしいが、その記憶は一つもなかった。ただ、七夕伝説は迷信として処理されたらしい。

 来年は一人でも伝説を実行すると意気込んだ薫であったが、その年の九月に記録的豪雨の影響で土砂崩れが起きて神社は無くなってしまった。
 何故薫が深く悲しむのかは分からない利尋達であったが、以前にも薫が同じような事で悲しんでいる姿を思い出した。薫が事情を聞くと、それは篤弘が川で亡くなる一年前に遡る。

 川に備えている祠へ九月の期間内で二十二日間、お参りに行くと願いが叶うという迷信であった。そのお参りは、一度たりとも誰かに見つかってはならないものであるので、日暮れ近くに薫は行き続けた。しかし篤弘に見つかってしまい、全てが台無しになったと落胆したのであった。

 事情を聞いた薫は、自分の中で一つの答えが導きだされた。
 あの日、篤弘が祠へ向かい濁流に流されて亡くなった。それは、自分の願いを叶えるためだったのでは。と。しかし、利尋に教えられた事実は全くの別物であった。

 あの日、確かに篤弘は祠の伝説を実行していた。しかしそれは、薫の願いを台無しにした事への償いではなく、高校も大学も、薫と同じところへ行けますようにとの願いであった。
 篤弘が薫の為を思っていたのか好意を抱いていたかは分からない。だが利尋の目には、いつも楽しそうにしている二人は互いに好意を抱いていたのだと思っていた。
 真相は不明だが、篤弘は薫を意識していた可能性は高かった。

 もう一つの世界、篤弘が生き薫が死んだ世界でも、殆どの経緯が同じであった。なら、もう一つの世界の自分も篤弘の願いを台無しにし、翌年には此方の世界の篤弘と同じ考えで薫は行動していたのかもしれないと思われる。


 もう、二度と二人は会えない。
 たった一度の奇跡の再会。証明しようのない二人だけの時間。

 互いの死の真相を知った、別々の世界に住む二人は、毎年七月七日に互いの墓の前で挨拶をするようになった。
 再会の時、誰が見ても嘘だと分かる事はもうしない。今度は嘘も秘密も無い、正直な現状報告を。

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