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【短編】相棒ロブと古の化物

語り・1 古代人の歴史とロストアーツ

 広大な荒野を、俺は軍用ジープ車をとばして走っている。

 ちょいと俺の事を紹介する前に昔話をしよう。
 遙か昔……つってもまあ、いつの話かはまるで不明だが、おおよそ三百年ぐらい前ってのが一般的な歴史書に記されて出回ってる。だから三百年ぐらい前なんだろうな。
 そんな大昔、行き過ぎた文明がとてつもない大惨事を起こしたらしい。
 あちこち火の海だったり、大爆発で街の風景が崩壊風景に様変わりしたなど多々ある。
 更に神様の悪戯か? 病原菌やらウイルスなんかが蔓延して、人類の悉くが死に絶えたらしいんだと。

 どうにか生き残った連中。現在(いま)じゃ【古代人】って言ってるな。そいつらが集まり、小さくて寂しいが町をあちこちで作って細々と暮らして生き延びた。
 当時は文明が進んでから突然の衰退ってんだから、生活しずらいとか、習慣が変わったとかで、変化について行けなかった連中はよく死んだみたいだ。
 今じゃ考えられねぇよ。当時の連中は狩りとか料理も困難だったってんだから、余程【ロストアーツ】に頼ってたんだろうな。

 そんなこんなで逞しくも生き残った連中は、崩壊した文明が作り上げたモノの使用者ばかりで、製造者が殆どいなかったらしい。だから文明を戻すことが出来なかった。
 生き残った連中が結託して、原始的な方法でも生きて行こうって決めたみたいだ。
 まさか、現在俺らがやってる半分ほどが原始的って枠に入れられるんだから呆れた話ではあるがな。楽園にでも住んでたのかって話だ。

 どうにかこうにか生き延びて、生活が楽になるモノを作り上げていった。
 どの年代からか、言葉もチョコチョコ変えていったらしくて、自分達が使っていたモノを【ロストアーツ】って呼ぶようになった。
 小難しい枠取りはあるが、とにかく遺跡から出てくればその殆どがロストアーツに分類される。
 因みに余談だが俺らが使ってる包丁とかナイフとか、銃とか剣とか、現代使用されてる道具は【ツール】に分類されてる。

 俺は今ロストアーツを探す仕事をしている。所謂【アーツハンター】って、探検家で冒険家で、まあ中には考古学者もいる。
 俺は心踊る旅する生き方に惹かれてなったが、学者ほど知識は無いぜ。

 ロストアーツの種類は様々で、大昔の壊れた遺跡もある種でロストアーツだ。まあ遺跡はそのまんま遺跡って言ってる。名前があったら名を呼びもする。
 分類の判断は、何かしらの動力源を起動して反応を示せばロストアーツに分類され、そうでなければただの遺跡だ。

 そして、俺の相棒もロストアーツらしいが、まあ、変わったロストアーツで相棒とだけ言っておこう。

1 どんな窮地も陽気に楽しく

「ミスタースターク。なぜこの道を? 自動車の燃料消費、補給の為に出費される経費との比率を鑑みても、このルートでは損失が上回ります。さらにはサンドチートと遭遇する確率が80%を越えております。戦闘に使用される銃の消費を抑えるにはメインルートを通るべきと」
 分析めいた言い方で運転席の男性に訊いた。
 運転席の男性・スタークは返答前に欠伸をした。
「ロブは守銭奴の主婦か? ロストアーツのお前さんには分からんだろうがな、ちょっと横道外れて行動する冒険心とか、危険事態も楽しめる余裕とか、何より浪漫ってのが分からねえか?」

 スタークの相棒はロストアーツである。名前はロブ。

 二年前、ある遺跡で半壊のロブを見つけ、色んな部品を用いて修理した。
 頭は元々円筒形の物体だが、見た目が好ましくないというスタークの意見が通り、全体的に丸みのある形状となった。これも格好が良いかどうかを問われると悩ましい所である。
 身体は見つけた時は人間の上半身の様であり、両腕の肘から先が無く、下半身は潰れていた。スタークのようなアーツハンターの相棒として行動するなら、速度があり、動きやすく、効率の良い働きをするようにと考えられ、人間と同じように五本の指がある腕が取りつけられた。下半身はどのような荒れ地でも走行できるように、デカくてゴムの分厚いタイヤを用いた車輪が備えられた。
 その大きな車輪を施したことにより、スタークのジープ車もロブ搭乗用に改良された。

「ロブは”ロマン”というのがよく分かりません。以前、人間の心というものについて聞きましたが、それに付随する感情の一種と判断。結果としてよく分からないまま」
「おいおい、俺の相棒になって1年半になるだろ?」
「正確には1年と146日13時間23分です」
「やかましい。俺の相棒は、男の浪漫ってのを理解する必要があるんだよ」
「ミスタースターク。"ロマン"というものを教えて頂いていますが、その用途が未だに不明。有用性、存在価値などを明記して頂きたい」
「心で感じろ。いつも言ってんだろ。全身で感じる事が、思う事がロマンに繋がるんだよ」
「……データ照合不可能。ミスタースターク発言意図不明。理解整理にはパーツが不足。もしくは分かりやすく表現を求む」
「待ってろ待ってろ。今日目的の遺跡は、なんだかんだでロストアーツみたいって情報だ。ロブが進化するのに重要な部品も手に入る筈だ」

 ロブは目となる白く光った小さいライトをスタークに向けた。

「レッドオイルも手に入りますか?」

 【レッドオイル】は、オイル色が仄かに赤みがかってる所から名付けられたオイルであり、一般に出回っているものよりロストアーツの駆動性を上げやすい。
 ロブは弾んだ声を上げている様子だ。半年ほど前から感情を表す事を少し覚えたらしい。

「嬉しそうじゃねぇか、その意気だ! 当然あるだろ。武器ありオイルあり、色んな発掘品ありだ!」
 両者の興奮度が高まった所で、ロブの目の部分のライトが赤く光った。
「ミスタースターク、サンドチートの群れです。数は測定範囲外にもいるため正確な数値は不明」
 言ってる傍からスタークはショットガンを準備した。
「ミスタースターク、ライフル銃の使用を推奨します。一匹ずつを仕留めていくほうが」
「装填やらなんやら面倒だろ? ある程度はこいつで動き止めた方が楽だし。とりあえず楽しくやろうぜ相棒」
「しかしミスタースターク、これは一種の窮地です。どのようにして楽しく」
「考えるな。曲ガンガンにかけてピンチを生き残るように体動かしゃいいんだよ」

 ジープの天井を右手で開けた。
 こういった時の為、開けれるように改良されている。

「ロブ運転代われ!」
 ロブは手を伸ばしてハンドルを握り、もう一本の手でアクセルを加減して押さえた。
「ついでだ! 【陽気なガンマン大慌て】かけてくれ! 音量大きめ!」
 言って、上半身を天井から出して銃を構えた。
「ミスタースターク、相棒使いが荒いです」
「ん? なんか言ったか」
 ロブは何も。と答え、自身の中のメモリーから、指定された曲を選び、流した。
 曲調はギターに太鼓に管楽器でリズミカルに奏でられた曲。最初の伴奏からすぐ賑やかで弾んで踊りだしたくなるような曲である。
 スタークは頭を上下に動かしつつ左右に揺らし、ショットガンを構えた。
 歌詞を同時に口ずさみ、銃を放つ。何体か倒すと、丁度曲は間奏部分に入り、身体を動かしながら口笛を吹き、また銃弾を放つ。時に歌詞が大声の所は同じように大声になる。
 俊敏な猛獣の群れ相手に、スタークは楽しんで狙撃し、どうにか生き延びている。

「なあロブ! 楽しいだろ!!」興奮し、楽しみながら訊いた。
 数が減ったのか、今度はライフル銃に変えた。
「ミスタースターク、その良さはロブには分かりません」
「ハートで感じんだよ!」

 言われてもやはりロブには分からなかった。

2 いざ遺跡へ

 遺跡ロストアーツ【ユービュリッツ】
 数年前に調査、研究の末、遺跡の動力源となる小型ロストアーツ(小型の動力源だが人間の倍以上は高さはある)が起動した古代遺跡。
 遺跡自体、全体的には尖塔が一定の間隔をあけて建てられ、全体像が円錐形を模している構造となっている。
 別に十棟を柱として、一本の円柱の輪が乗っている建造物が、円錐形の遺跡を囲う造りをしている。

 壮大で、近くで見る者に圧巻の迫力と当時の技術力を見せつける構造の遺跡。動力が起動していなくても見る人が見れば心を鷲掴みされる魅力がある。
 動力源が起動してから、円柱形の輪が煌めく水の流れのような映像を流し続けている。それを見る限り、巨大な流水を起こしている水槽としか思えない。

 動力源が起動された後、奇形の生物が現れて徘徊しはじめ、更に近隣に生息する猛獣までも呼び寄せていると情報にある。
 どういった原理でこのような事態に陥ったかは不明だが、このロストアーツは動力源が起動して一年後に特別危険区域に指定された。危険度を示すランクは『Ω3』。かなり危険だ。

 危険度の数値は低い順で9から1まで。Ωは【古代ギリシャ文字】というのを使用しているらしく、ロストアーツと化した古代遺跡にのみ使用される。
 危険度1や2は滅多にお目にかかれないが、それに近い3。命の危険を伴う数値であり、探検家は装備を整え、如何なる状況に陥っても柔軟に対応しないとならない。さもなくば遺跡内の危険生物の餌となり、その遺跡が自身の墓所となる。

 スタークは警戒網の辺りでジープを止め、遺跡を眺めて口笛を吹いた。
「ヒュー。圧巻だなぁ相棒。俺の好奇心を擽(くすぐ)るわ、探索意欲をそそるわ、危険な臭いしかしないロストアーーーツ! なんだあの水槽みたいな輪っか。水でも入ってるのか? どうやって建てたんだよあの沢山ある塔。古代人凄すぎだろ! どれだけ天才集まってんだよ。神の世界の住人か?」
 スタークの興奮は治まらない。
「ミスタースターク、古代人は人間です。神とは人間の信仰と祈願により生まれた偶像。人間として活動していた古代人――」
「ああ、いいんだよそんな事」
 無理矢理ロブの説明を止めた。
「感動ってのはな、ああいった気違いな奴が建てた建造物見て自分の心の疑問を言葉にすんだよ」
 笑顔での説明。余程歓喜していると伺える。
「そろそろロブも自分の気持ち言えるようになるんじゃねぇのか? ほら、あの遺跡見てみろよ」

 ロブは言われた通り遺跡をを眺めた。しかし、スタークのいう、『見る』を、ロブは解析機能が働いてしまい『視る』の意味に変わった。
「全体的な動力機能はごく僅か。防衛措置機能と一部の解析機能が復帰、危険対象排除機能は停止したまま。情報による危険生物を排除できない理由になります。空中通路は映像機能が修復する事により復帰、内部の清掃などは行き――」
「んだよ、誰がそんな解析しろって言った? ロマンを感じろってぇの。さっきも言ってただろ、レッドオイルがあるかもって」
 ロブは両手を上げた。
「レッドオイルの存在確率82%。ミスタースターク、レッドオイルの調達を優先します」
 何故かレッドオイルには感情表現が出来る。

 スタークは呆れて頭を掻いた。

「調子の良い奴だ。まあいい、それぞれ思い方は違うが探索する理由があるからには、行かねぇ理由は無いよな!」
 ロブはまたも手を上げた。
「同意。ミスタースタークの意見に全面的な承認を致します」
「ついでだ、その硬い話し方も変わっていこうぜ相棒」
「それについての変換機能が無いため、改変は困難を極めます」
「だったらその機能とやらも調査しようぜ」

 準備を整えたスタークとロブは遺跡へ向かった。

3 広間の惨劇

 遺跡内部はやけに蠢くような音が仄かに響いていた。
 ロストアーツ内ではこういったことは珍しくなく、動力源が起動したことで周囲の一部が起動した事による音である。
 全てがロブの説明によるものだが、あまりに小難しくスタークは自身の中で漠然と説明を纏めて解釈し、細かい特殊用語を含めた大半の説明は聞き流していた。

 広い遺跡だが、細い通路を通る時は愛用の拳銃を構え、ヘッドライトを点けてゆっくりと進む。
 突然現れる猛獣を相手取るならもう少し強力な武器が有利だが、未知の遺跡でそういった武器を使用すれば、標的から外れた弾が何かを起動する所を刺激して事態が悪化しかねない。よって高火力の武器を用いる事を控えている。
 スタークのような冒険者の中には、痺れ薬や猛毒薬を塗った刃物で対峙する猛者もいる。

 スタークは古代人がいた時から使われていたと歴史書に記される銃類を好んで使用する。

 昔から使われていた点、
 構えたスタイル、
 物によっては身体に響く衝撃、
 火薬の匂い、
 使い勝手の良さ。

 色んな点が好感を持てたからである。

「ロブ、警戒対象はいるか?」
 ロブは頭の小さなランプを橙色に点灯させ、周囲を見回した。
「危険度Eのサンドチートが三体検索範囲内で補足しました」
 危険度は低い方からE、D、C、B、Aの順番になる。
 測定機能は、ロブの記録媒体内に保存されている危険生物の基準であり、それ以外の危険生物が現れると危険度表記はされない。しかし、土壇場で測定した時、記録内のA判定の生物より危険な場合、Sと告げられる。
「あー、Eって事は、まだこっち認識してないって事だな」
「ミスタースターク、サンドチートに近づくに連れ、数が増えている模様。彼らの巣窟の可能性七十六%。即座に退避を提案します」
「つっても、この道以外にどっか道あったか?」

 建物内に入った時、あちこちの柱や壁が崩れ、行く手を塞いでいる所が多く、二階へ上がる階段にも瓦礫が点在したり崩壊されている部分があったりと危険であった。
 どうにかスタークは二階へ上れたとしても、ロブが通れない。
 建物の外観を見ると、一階から螺旋状に設けられた壁伝いの坂を登れば上がれることは分かっているが、それでも内部からその上り坂へ行かなければならない。
 どうあれ、今通っている道からしか行けない。

「ロブ、援護射撃の準備だけしといてくれ」
 指示が下ると、ロブの胴体内部で部品がガシャガシャと音を立て、暫くして音が止んだ。
「単発射撃準備完了。ミスタースターク、標的数からでもショットガン、連続射撃仕様の銃器を推奨」
「ばっか。これだけ出来のいいロストアーツだぞ、そんなもんぶっ放すと後で変な機能が働いちまうだろ」
 ロブは黙り、両腕をハンドガン仕様の腕に換えた。
「うっし、奴らの巣に行くぞ」

 意気込んだのも間もなく、ロブのランプが赤く点滅した。

「ーー危険、警告警告」
「どうした!?」
 条件反射で足を止めた。
「サンドチートの危険度Aに切り替え。補足範囲内数増加」
「どういう事だ、こっちに気づいたのか!?」
「否定。サンドチートは別の標的により敵対意識が増加した模様。群れ内部の全サンドチート危険度上昇後、数が減少」
「は? 減少? キレてどっか行ったってか?」
「否定。識別不能生物の接触により次々に生体反応低下。間もなく消失。絶命の確率八十二%」

 スタークは疑問に思いつつも、止まっていた足を進めた。どうあれ進まない事には変わりは無い。

「――ミスタースターク、エリア危険度更新。E判定。エリア内生体反応消失。識別不能生物消失」
「共倒れか?」
「判定値より判断。識別不能生物はエリアから離れた模様。尚、警戒態勢維持を継続」
「言われなくても危険地帯だから警戒し続けてるっつーの」
 スタークは曲がり角を警戒しながら曲がった。
「ロブ、援護の準備はそのままにしとけよ。下手すりゃ、お前の探索機能にかからん奴が出て来るかもしれないからな」
「了承しました」

 二人はさらに進み、サンドチートの群れがいたと思われる場所へと辿り着いた。
 その場所は、陽の光が広範囲に届き、ヘッドライトの必要が無かった。だから、広間の惨劇跡にスタークは即座に驚愕した。
「……どうなってんだ、これ……」
 辺り一面、サンドチートの頭や足や胴体や内臓など、いろんな部分が飛び散り、血が辺りを赤く染め上げた。
 真っ赤な広間に、スタークは警戒が解けて呆然と見回してしまった。
「ミスタースターク、残存するサンドチートの肉体を計測。残存する頭部と手足の数、胴体の数、形、毛並みから不一致するもの多数。大半の肉片は採取された模様」
「おいおい、あの群れを狩って持っていったってのか?」
「サンドチート殺傷後、運搬までの時間から、ミスタースタークの案、不可能と判定。高確率で捕食した確率九十%」

 食べたというだけでも、どれだけ大きな化物がいるか想像できた。
 スタークは冷や汗をかきながらも進む事にした。

4 未知の化物

 サンドチート惨殺跡からしばらく進み、スタークとロブは螺旋坂へ出た。

「おい、何だこの濡れた痕は」
 坂の中央(時々左右どちらかに寄っている)に濡れた太い跡があった。
 ロブはハンドガン仕様の腕を元の腕に戻し、濡れた痕に触れた。
「識別。構成成分から動物の体液と高確率で一致。該当動物はデータに無し。しかし、ある種サンドチートの成分も混合」
「ってことは、野獣喰った奴が体内の肉消化しながら体液出しまくって進んだって事か?」
「一種の排泄機能とも推測できます。排泄物は液体であり、量、長さから、やはり該当データは不足しております」
「結局、進むしかねぇってことか」
 再び警戒して歩いたが、十数秒後、スタークがしゃがんでロブに壁に寄るよう命令した。

「ミスタースターク?」
 スタークは人差し指を立て、鼻先に当てて静かにするよう命令した。
 ロブの動作認識機能が作動し、こういった簡単な行動の意図を理解出来る。
「外に化けもんいやがる」
「サンドチートですか?」音量は低め。
「いや、ありゃ見たことねぇ」

 坂にうつ伏せになりながら、双眼鏡を取り出して外の様子を確認した。
 外にはサンドチートが所々徘徊していた。
 今更だが、スタークは今まで何にも遭わずここまで来れたのは強運なのだと、この時思った。
 サンドチートの数よりも、一際大きな、体毛の長さも量もかなり多い、楕円形で半球状の何かがゆるゆると動いているのが確認できた。

「ロブ、あれ判るか?」
 言われてロブが識別するも、やはり該当データは無かった。
「ミスタースターク。一体ではありません」
 ロブは同形の生物を更に二体補足した。
「計三体。危険度E。計測データ不足により、精密な測定不能」
「まあとりあえず、あいつらに見つかんねぇように先へ進むぞ」
 スタークとロブは壁沿いを警戒しながら歩いた。

 二階へ辿り着くと、屋内へ入る前に、あるはずがないと思われるモノを見つけた。

「へ? なんで?」
「該当データあり。品名、火炎放射器」
「んな事見りゃ分かるわい。なんでこんなとこにあるんだ?」
「解明不能。尚、未知の凶暴生物が徘徊する屋内では、これは重要な武器となります」
 スタークが表面に付いた砂埃を払ってみても、今日置かれたものではないと分かる。砂嵐が一昨日あった為、それ以前に置かれたとは思うが。
「あ、でも燃料は少ねぇな。加減して使うぞ」
 火炎放射器の燃料タンクを背負い、バーナー部分をベルトに垂れ下げた。
 拳銃を再び構えて室内へ入ると、輪状の廊下の向かいに、その姿を見た。

「なんだ……あれ……」
 それはサンドチートではない。外の化物でもない。
 やたら全身の肉が揺れ、更には安定が悪いのか左右に揺れている。下半身は人間のように二足の足がある。しかし上半身はその足で支えるにはバランスが悪い程に膨れ、背丈は遠景での目測だが、スタークの1.5倍か2倍はある。
「ミスタースターク。警戒せよ警戒せよ。危険度判定EからCへ……今、Bへ更新しました」
「見りゃヤバい奴って分かるわ! ロブ、武器構えろ」
 ロブがハンドガンに換えると、相手は此方に気づき、早歩きで寄って来た。
「ヤバいヤバいヤバい――!!」

 迫る相手は、上半身の頭部から胸部まで亀裂が入り、開くと牙の生え揃った大口と変貌した。
 もう、容姿と行動を見るからに敵である。

「ロブ撃てぇぇ!!」
 スタークとロブは同時に銃を撃った。
 何発もの銃弾が敵の身体に命中するも、太りすぎた贅肉のように揺れる身体が、銃弾を取り込み、相手を少しふらつかせただけであった。
「効果は低く、態勢を崩しやすい模様。弱点となる箇所測定…………」
 ロブの判断を待たずに、弾丸を装填したスタークは結論を出した。
「ロブ足を狙え!」

 スタークが先行し、ロブが測定を一時中断して銃を放った。
 足におよそ10発もの銃弾が命中すると、化物は雄叫びを上げて悶えだした。
 スタークは周囲を警戒し、敵から離れた。
「ミスタースターク。よろしいので?」
「あれで動けない筈だ。あれだけフラフラなのは上半身を支えれん、細い足のせいだろ。あんだけ贅肉で銃弾の威力が落ちるなら、俺の武器は刃がたたん。一端仕切り直しだ」
 外の通路へ出ようとすると、ロブが手を伸ばしてスタークを止めた。
「警告、警告。階下より、今と同種の生物が接近の模様。別ルートを要望」

 そうは言うが、さっき2階に上がったばかりで、何処に逃げ道があるか分からない。
 何より、さっきの化物が襲ってくれば窮地に立たされるのは容易に想像できる。
 とにかく、この場所から離れる事を優先し、輪状の廊下を駆けた。
 しばらく走り、身を隠せる場所を見つけると、外の通路から昇って来た化物を眺めた。
 三体の化物は、先ほどやられた化物に群がり、恐らく共食いしていると思われる情景をスターク達にまざまざと見せつけた。

「やべぇ。ロブ、さっさと逃げるぞ。一端ジープに戻って仕切り直しだ」
「肯定。現装備より、未知の生物を相手取る事は非効率、及び危険度が高――」
 ロブは何かに気付き、後ろを向くと、顔のランプを赤く点滅させた。
「ミスタースターク、警戒」
「嘘だろ。この状況でか」
「――完了。人間と判明」
 ロブの説明途中で、物陰から手招きしている女性の姿が伺えた。
「こっち! 早く!!」

 声量を抑えた女性は、明らかにスタークとロブを呼んでいた。

5 ロブの執念

 女性の名前はベルナ=フィルド。スタークと同じアーツハンターをしている。
 数名の仲間とここへ来たが、スターク達が遭遇した化物に襲われ避難生活を送っている。

「ここがあたし達の生活の場よ」
 そこは生活の場というより、先のサンドチート惨殺場のような瓦礫が転がり、あちこち崩れている広間であった。
 やたらと爽快な香りがするのは、紅一点のベルナを配慮しての事かとスタークは思った。
 上手く瓦礫が壁穴や窓を塞ぎ、外から入れないようになっている。つまり、スタークとベルナが入った入り口だけが外へ出る唯一の場所である。

 広間に入ると、二人の男性が歩み寄って来た。

「こっちがロイド」肌が浅黒い筋肉隆々の男性。
「こっちはニール」白髪は多いが、貫禄のある顔つきの老人。
 ベルナはスタークとロブを紹介し、スタークは二人と握手した。
「いきなりですまない、情報が欲しいんだが」
 まずロイドが答えた。
「つってもそれ程いい情報は無いぞ。俺らも奴らに遭遇して命からがら逃げ切って辿り着いたのがここだ。今日で三日目。奴らの親玉っぽい奴見つけたが、身動き取れずにこの様だ」

 アーツハンターに逆境はつきものであり、こういった場合も三日ぐらいは平気で野宿出来る備蓄と手段、それを実行できる体力、技術、精神力は備わっている。むしろ備わっていなければアーツハンターなど出来ない。
 この遺跡の探索条件に、ハンター歴が必要であり、それは手練れでなければならない事を意味していた。つまり、ここにいる者達は駆けだしでも素人でもないと証明している。

「親玉がいるのか!?」
 ニールが証拠を見せると、ついてくるように言って来た。
 彼が先行して辿り着いた場所は、巨大画面が壁に埋められている部屋であった。
「他の使い方は分からんが、これだけは出来る」
 ニールはボタンがいっぱいある台の赤いボタンを押すと、ある広間の映像が映し出された。

 スタークはその不気味な光景に絶句した。

 先程の化け物より更に大きく、身体表面の肉がクラゲのようにブヨブヨで半透明。透けて見える内蔵らしきものは生物の内蔵ではない。いや、内蔵らしき形が形成されていない。何かが詰まって蠢いている様子である。
 顔らしき部分はあるが、その塊に張り付いているようで、顔かどうかは分からない。模様のようにも見える。
 擬態の一種かもしれない。と、ニールが意見を述べた。
 巨大な芋虫のような化物が部屋中を徘徊している。通った跡には粘度のある体液がへばりついている。

「なんだあれ……」
「知らん。ただ、かなり危険な化物というのは見れば分かる」
 ベルナが付け足した。
「あたし達の仲間も奴に喰われた。今は動きが遅いけど、獲物見つけると速くなる。全速力で逃げると距離を置けるけど、こっちの体力がもたない」
「んで、あれに集中しすぎっと、奴の子供に喰われるって寸法だ」
 ロイドが変わって説明し、「子供?」とスタークが訊くと、またベルナが答えた。
「さっき貴方が警戒してた化物よ。奴の身体から産まれ、何かを捕食して戻り、奴の餌になる」
「つまり、奴らの親玉は食うもんに困らねぇって事だ。自分で産んでそれを食えばいい」
「生体の詳細が不明な手前、それもいつまで続くか分からん。俺らの餓死が早いと思えばいい」
 ロイドからニールへと、説明が続く中、ロブは何か気になり、ニールが操作していた台に近寄って手を伸ばした。
「どうした? 小さいの」ニールが訊いた。
「操作機能を解析中、まだ操作できる機能を発見。画面に映します」

 映し出されたのは、何かの資料映像であるが、画質が荒く、何を書いているか分かりづらい。

「なーんて書いてあるんだ?」ロイドは首を傾げた。
「ロブ、奴についての重要な所を、分かりやすく、短く教えてくれ」
 念を押すように言わないと、ロブは全ての文章を読み続けてしまい、詳細の理解に困る。
 ロブは収集した情報を解析し、さらにはスタークが望む分かりやすい説明データと照合し、言葉を纏めた。

「解析完了」
 そう言って、画面に化物を映し出した。
「名称・研究中の事故による突然変異生物。クリーチャーに類する。クリーチャーと化した詳細、不明。体内に生物の構成する物質を捕食する事で生存可能。生体活動停止となる核は紫の臓器。尚、体内の構成成分結果から、可燃性の高い液体へと変化。捕食対象・生物、可燃性燃料、レッドオイル………」
 その名を上げると、ロブはスタークの元まで寄った。
「ミスタースターク、提案です」
「なんだ? 珍しいな、お前から」
 話を最後まで聞かず、ロブは続けた。
「標的を消滅させるには、まず効力のある銃器を使用し、体液を放出。漏れ出た体液を引火し、燃焼。内部の体液が枯渇した時点で弱点に銃弾を当てる事を推奨します。尚、作戦実行は直ちに行うべし」
 なぜここまでロブが推し進めるか、スタークは理解した。
「えらくやる気満々だな。ロブっつったっけ?」ロイドは感心した。
「いや、原因は他だ。なあロブ。あいつがいるとレッドオイルを喰われちまうから急かしてんだろ?」
「肯定。レッドオイルは古代人が生み出した高純度高性能燃料。搾取した種が、ただ在り続けるためのものではない。害獣認定。レッドオイルの有効的活用不能、補食のみに消費する生物は除外対象確定」

 スタークは呆れて三人の方を向いた。

「つー訳だ。相棒は無類のレッドオイル好きでな、無駄に消費する奴を許せんとご立腹な訳だわ」
 ロイドもベルナもおかしくなって豪快に笑った。
 一方でニールは、自己を確立させているロストアーツのロブに興味を抱いていた。
「最高だぜロブ」ロイドはロブの頭を撫でた。「好物独り占めされたら誰だって怒るわ」
「いや、何よりロストアーツでここまで性能のいいものと旅が出来るなど、今まで出会った事が無い。彼を改良したのかね?」
 口ぶりからニールがロストアーツ好きなのが伺える。

「改良は下半身と内部を少しだ。元々半壊状態だったのを旅しやすいよう、馴染みの奴にいじってもらった。元の形は不明で、こいつが言うに、情報伝達媒体やら、集積機関やらって部品が足りなかったり故障してるとかで、全盛期の機能が生きてねぇんだと。けど、遺跡巡りで仕入れた物を取り込んで、今じゃ良い相棒って訳だ」
「色々が継ぎ接ぎ状態ってか?」ロイドが言った。「それを可能にしてんだから、古代人ってのはスゲーもんだ」
 ロブの話で盛り上がってる中、ベルナは本題に戻した。
「話を戻そう。ロブ君のおかげでこの状況を打開できそうになったよ」
「けど、問題は武器だ」
「火炎放射器ならさっき拾った。後は徘徊側の化物の身体も撃ち抜けなかった銃。残弾は二十三発。ロブの中にもハンドガンとアサルトライフル位だが、どっちも残数がヤバい」

 銃器まで仕込めるロブの性能に三人は感心した。

 三人はそれぞれの武器を出したが、スタークと似たようなものだった。ただ、威力はスタークより上の銃ばかり。
 現状打開には、他の手も考えないとならなくなった。
「そういや、この遺跡内の化物とは別に、外にも化物がいるが、ありゃなんだ?」
「あたしらの仲間だった奴が、化物には化物をって、地下の変な倉庫内の化物を解放したんだよ。まあ、そいつはあの化物を食ってくれるしサンドチートも食ってくれるけど、仲間も食われた。要するに生き物は何でも食う化物ってわけだ」
 補足説明をニールがした。
「連中はどういう訳か外を好む。今徘徊してるのは外にいないといけないらしい。反して室内の化物は外に出ない。影が無いと駄目なのか、日光が照らされる場所は出てもすぐ影に戻る」
「じゃあ、ここが無事な訳はなんだ?」
「あいつら、香草や柑橘系の匂いが駄目みたいだ。喰われた仲間の所持品から匂いするモノに異常な嫌悪感を示してたからな。偶然から俺らは生き残ってる訳だ」
 部屋に入って気付いた香りの正体と理由が判明し、自分の読みが間違いと分かった。
「すまねぇな。ずっと仲間の話ばかりで」
「いや、俺らはこの遺跡探索で結託した即席仲間だ。思い入れはそこまでない」
 ロイドの意見にニールもベルナも納得していた。

 色々情報が集まった事で、スタークは解決策の案が浮かんだ。
 偶然、ニールが仕切って情報整理をしようといい、一同、広間へと戻った。

6 餌の化物調達作戦

「俺らに残された道は二つ。現状の武器を使ってこの場を去るか、あの化物の親玉を倒し、残った化物を駆逐して生きるか」
「ちなみに、ロブ君が出した確率だと、後者が高い。まあ、数字にしたらどっちも五十%を下回ってるけどね」
 ロイドは頭を摩った。
「二進(にっち)も三進(さっち)もいかねぇな。なあロブの相棒さん、あんたは何か妙案無いのかい?」

 スタークは大まかなこの建物の見取り図を見た。
 それは三人が描いた物で、親玉は地下室に記されている。
 場所は自分達がいる広間の反対側、輪状廊下を挟んで向かいの部屋から二階分下になる。
「もうここまで来たらロストアーツ保護条約は無効だろ」
 三人は一同に肯定した。
 ロストアーツ保護条約とは、無闇やたらと破壊させないアーツハンター達への条件である。尚、危険事態に陥った場合、無効となる。しかし後で報告書の提示を義務付けられている。

「親玉潰しだけを考えたら、あの廊下挟んで向かいの部屋。あそこから地下まで穴空けて、奴の『餌の化物』を燃やして落とすってのはどうだ? まあ、穴が空いてたら作業工程一つ省けていいんだが」
 三人はその作戦について考え、ロイドが訊いた。
「なんで二階から穴あけを?」
「一階は大体が瓦礫の山だ。行ってる間に化物に襲われる。二階からだと爆弾で直通だ。二階から爆弾で大穴空けて、一階からも同様に地下まで。そんで燃えた餌を落とす。アレから生まれてんなら、奴らの体液は燃えるだろ」

 ロブに訊くと成分説明後、肯定の合図を貰った。

「餌の化物をおびき寄せるなら、リスクが大きすぎて無理じゃないか?」ベルナが訊いた。
「親玉に核があるなら、産まれた連中にもあるはずだ」
 またもロブに訊くと、その場所は横隔膜の辺りと判明した。
「なら、まずは穴あけ作業からだ。ここにあるのは小型爆弾三つと手榴弾二つ。小型爆弾はこの遺跡にあったやつだ。誰が置いたか知らんが、俺らの時代のものだ」
「なんだ? 武器を遺跡に置くのが流行りか? 俺の拾った残量少ない火炎放射器も」
「残念だが大将、そいつは食われた奴が化物退治用で置いたもんだ。残量少ねぇから邪魔ってんで置いたまま」
 スタークは頷いて納得した。
「で? スタークの策、やるのやらないの?」
 他に手も無い。一同、同意した。

 ◇◇◇◇◇

 本作戦において重要なのは、
 まず地下までの大穴空け。
 餌の化物を少数の弾で仕留める。
 燃えた親玉は即射殺。

 この流れをどれだけ円滑に行えるかにあった。
 作戦は二班に別れた。
 スタークとニールで大穴担当、ベルナとロイドとロブで餌の化物採取であった。

 餌調達班の二人には、射撃の腕が悪い欠点があった。
 いざ化物を捜しているとその事が気になり、ベルナはロイドに声を掛け、その事実に苦悩した。しかし、ロブが志願したことでこの問題は解決された。
 一階の通路まで降りると、あのサンドチートが惨殺された場所に、三体の化物がいる場面に遭遇した。
 一同は一端引き返し、側壁の螺旋坂で作戦を練った。

「どうするよ」ロイドは考えることをベルナとロブに投げた。
「即席案なら、この辺まで誘導してロブ君が仕留める……だけど」
「ベルナ案検討……成功率四十八%」
「どうして?」
「標的の移動速度、ロブの照準から発射までの時間を照らし合わせても、追いつかれ、破壊される可能性が高い」
「結局どうする?」
「残弾から効率の良い案を検討………標的をおびき寄せ、足を狙い動きを止め、核を撃ち抜く」
「へぇ、足を。それは盲点だったわね」
「ミスタースタークの案」
 それが分かると、二人は囮役と、援護射撃役を即座に決めた。

 ロイドは広間にいる化物相手に、手を叩いて気を引いた。
 即座に三体がロイドを獲物として捉えると、急いで駆け寄って来た。
 ロイドは相手に追いつかれまいと全速力で駆け、どうにか距離を取った状態で坂を上り始めた。
 坂の中腹辺りで息が苦しくなり、速度を落とそうとしたが、重い唸り声を上げて追ってくる化物がすぐそこまで来ているのを確認し、恐ろしくなって渾身の力を振り絞って駆け上がった。
 少し上った所で、ベルナが銃を構えていた。

「いけるかぁぁ?!」
「ええ。標的が大きいなら何とか!」
 ベルナは化物達の足目掛けて銃弾を放った。
 彼女の残弾全二十六発を三体の足それぞれに撃ち込み、見事に体制崩しに成功した。
「ロブ君今よ!!」
 ロブは右腕をアサルトライフルに変え、敵の後ろから現れた。

 標的は音や生物特有の臭気に反応すると思い、廊下の隅で置き物のように止まっていたロブは、ロイドと標的が通り過ぎてから追いかけた。
 坂の上からだと、足を撃たれて体制を崩した標的が、蹲り、的となる核が見えない。その為後ろから回る案が急遽立てられた。
 ロブの成功確率では高数値を叩きだしたが、いざ成功すると嬉しいものである。
 連続して弾の出るアサルトライフルだが、ロブは一回につき五発の発射で抑え、三体の化物を倒した。

 ◇◇◇◇◇

 一番小さい化物の足を共同で引っ張りスターク達のいる部屋へ到着すると、二人は悠長に銃の手入れをして待っていた。
 化物班は、その様子を見て力が抜けた。

7 呆気ない結末

 スタークとニールがこの部屋へ来た時、既に地下室までの大穴が出来上がっていた。
 二人が大穴を覗くと、標的の化物が蠢いていた為、気づかれないために覗く事を控え、静かに餌調達班を待っていた。
 始めから大穴が開いていた事に、当然疑問が上がった。

「この穴があるっつう事は、同じような事をしようとした連中がいるって事だよな」
 ロイドが訊き、ニールが答えた。
「だろうな。弾切れか不意打ちか何かで餌の化物に襲われたか、親玉が予想外の攻撃をしてきたか……燃やせる事を知らなかったのかもしれないな。俺らは優秀な分析屋がいるからな」
 ロブの事を褒めているが、ロブは大穴まで近寄り、下を眺めた。
「おいロブ。何されるか分からんからこっち来い」
 と、スタークが声を掛けるが、ロイドとベルナはロブが化物に認識されない特性を持っている事を伝えた。
 スタークが感心していると、ロブは彼の傍まで寄って来た。

「ミスタースターク、作戦内容の改変を提案します」
「どういう事?」ベルナが訊いた。
「標的の生体構造、温度、性質を分析。一階の大穴の瓦礫の状態、穴の空き具合を分析しました。結果、標的は遠距離へ物理的攻撃が可能。生体構造から、内部に潜めた触手のような物体を伸ばすスタイルが高確率で判断。ミスタースタークの作戦では、核を撃ち抜く間に攻撃を受ける確率が高く、燃料を多量に含む標的が炎上中、炎がこの部屋まで及ぶ確率も高いです」
「つーことは、燃やして避難でいいのか? 再生とかしないか?」
「作戦は放火後、ロブが狙撃地に残り、核を狙撃」
 それは流石にロブが燃えるのではと思われた。
「それは危険よ。ロブ君が燃えてしまう」
「熱で内部の機能が故障するかもしれんしな」ニールは冷静に分析した。
「ロブの内部構造には耐熱外装が措置。火災現場でも一定時間は耐える事が可能」
 それでも故障したロストアーツを改造して出来たのがロブであるので、その耐熱処置も不安要素が高い。
 暫く考えたスタークが結論を出した。

「じゃあ作戦変更だ。炎がここまで来るってんなら全員避難は必須だ。なら、餌を燃やして親玉にぶつけ、燃焼中に避難。火が治まりだしたらロブが大穴へ向かい標的を狙撃。方法はアサルトライフルを使え。相手が動き回ってる筈だ。連射できる武器の方が色々とやり易いだろ」
 ほぼロブ任せのような作戦だが、全会一致で決行される事になった。
 大穴近くまで餌の化物を引っ張ると、粘液でドロドロになった死体に火炎放射器で火を点けた。
 燃える速度はかなり早く、全て燃え出すと男三人が足で押して落とした。
 一階の大穴が二階より広いため、すんなりと地下まで落ちた化物は、見事に親玉の身体に沈むように落下した。
 接触部分から体表面が燃えて穴が開いた標的の体液が溢れだし、引火した。

「イギャアアアアアアアアアアアア―――――――!!!!!!!!」

 化物の悲痛の叫びが響くと、炎が燃え盛り、早々と二階まで到達した。
 一同は早急に非難し、他の化物が来ないか警戒しながら炎が治まるのを待った。
 炎はみるみる勢いを増し、廊下に居ても部屋から炎が溢れ出る程に激しい。
「こりゃ、ロブが居てもヤバかったぞ………」
 ロイドがしみじみ呟くと、ロブは肯定の返答をした。

 およそ二十分後、ようやく二階の炎が弱まり、大穴まで炎が見えるぐらいまでになると、ロブが先行して部屋へ入った。
 アサルトライフルを構え、標的の状態を確認すると、五発連射して武器を内部に納めた。
 外で待機していた四人が入ってくると、ロブは経過を報告した。

 結果、予想以上に燃えたことで親玉は焼け死んだらしい。確認の為にむき出しの核へ銃弾を撃ち込むも、敵は絶命していて反応を示さなかった。
 何事も予想外の事はあるらしく、今回は彼らに味方する形で無事に終わった。もしあの炎の中にロブが居た場合、同様に予想外の展開に巻き込まれて壊れていたかもしれない。
 自身の性能を過信しない事を、ロブはスタークから言いつけられ、記録した。

 ◇◇◇◇◇

 遺跡内部の探索は、化物の親玉を焼き殺し、地下室内を探索して終了した。
 今回の嬉しい誤算は親玉を焼き殺せるほどに燃料を蓄えていた事と、遺跡内部の化物が親玉を殺してから行動が鈍くなったため、出会った敵をすぐ殺す事が出来た。
 外の化物は日が沈むと睡眠状態に入るため、一同は夜にジープ車へ行くことが出来た。

 戦利品は地下で仕入れた遺跡の一部の情報と、改良出来そうな銃器二点、ロブの改良に使えそうな部品五点と、奇跡的に少しだけ残っていたレッドオイル。
 ちなみにオイルはロブが現地にて補給しきった。
 収集量は少ないものの、今後の調査可能な情報を調達し、生きて帰れる事で今回の遺跡探索は終了を迎えた。

語り・2 古代人のロボットとロブ

 誤算はどんな遺跡探索でもよくあることだ。
 窮地も急展開も。
 嬉しい誤算も不利になる嫌な誤算も。
 手柄の有り無しも。
 世の中、本当に何が起こるか分かりゃしねぇ。だけどこんな事はアーツハンターやってりゃしょっちゅうあることだ。
 これがまた冒険家の醍醐味ってな。

 色々苦労したが良い縁は結ばれた。俺達四人はあの一件後バラバラに解散したが、時々色んな所で顔を合わせるようになった。勿論、向こうの三人にしてみれば、ロブの外見が印象的すぎて分かりやすいってのもあるんだがな。三人とは顔合わすと、信頼出来る仲間になれる。
 ともかく、あの遺跡部品のおかげでロブの性能も少し上がり、仕入れた部品や情報売った金でいい武器やロブの外装もちょっと良いモノに交換出来た。勘違いしないでくれ、勿論報酬は四人で山分けだ。

 ロブはあの遺跡内で妙な情報を手に入れた。なんでも、古代人が使用していたロストアーツの正式名称は『キカイ』らしくて、ロブのように人間の言葉が分かって動くロストアーツの事を『ロボット』って言ってたらしい。
 ロブを拾った時、古代人がロブの表面に。ああ、この時の外装はボロいから捨てた。それには古代文字で【ROB】って、擦れた感じで書かれてた。まあ、古代のモノだからそういうのはよくあることだ。
 ロボットには守らなければならない三原則ってのがあるらしい。

 第一条
 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
 第二条
 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただしあたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。
 第三条
 ロボットは、前掲第一条および第二条にはんするおそれのないかぎり、事故をまもらなければならない。

 一応、ロブにメモしてもらっているが、古代人はロブみたいなのを作って奴隷にしたかったのか? って思うわ。
 人間様に害を与えない、絶対服従の奴隷道具。
 人間、何事も限度を越えれば神様のしっぺ返しってのがあると思う。だから滅びたってんなら、自業自得もやむなしだ。
 古代の文明は謎が多いし、俺が五回ぐらい生まれ変わっても解明は程遠いだろうが、その文明のおかげでいい相棒が付いたんだから、感謝の言葉しかねぇ。
 最近、音楽の良さに芽生えたのか、ロブは色んな曲を欲しがってる。
 人間の感情は分かる、ほしい物も自分で言ってくる。古代人が残した三原則ってのが埋め込まれてるのか、人間にむやみやたらと危害を加えない。

 そんな古代人の叡智が造ったロストアーツと俺は今日も遺跡巡りの旅を続けている。リズミカルな音楽を鳴らし、ジープ車を走らせて。

あとがき

こちらは過去、ロボット三原則がテーマのコンテスト用に書いた作品です。最後の最後で謎のロボット三原則が登場して、謎が生まれたとは思いますでしょうが、こういった理由です。

物語上、添削しなくても問題ないと思い、そのまま残しました(´・ω・`)

最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございます。

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