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料理名の長い料理店。

今回は「料理」について。

普段はめったに料理をしない。学生時代に一人暮らしをしていた時や、結婚してアパートで二人暮らししてた時には、それなりにやってはいたけど、就農を機に実家に戻ってからというもの、すっかり縁遠い。我が家にはシェフが3人(祖母、母、奥さん)もいて、台所に立つローテーションに入り込むことがまずもって難しいので、「やりたいけどやれないのよね」のスタンスでいる。だから台所周辺での僕は、いつも少し遠いところから、店のオーナーみたいにニコニコしていたり、新入りの弟子みたいに大人しくしている。

そんな僕でも、得意料理があった。「カルボナーラ」。その昔、そのまんまのタイトルの「カルボナーラ」という曲を作ったことがあり、それをきっかけに、自分で作るようになった。当時調べたレシピで作ってみたら、思いのほか上手く出来たことに味を占め、よく作っていた。ベーコンをカリカリに炒め、茹でたパスタを、卵とチーズと生クリームを混ぜたソースに絡める。以外と簡単だし、美味しくて、奥さんにもよく作ってあげていた。ただ、僕が覚えたその「カルボナーラ」のレシピは、「生クリーム」を使うものだったので、作るときには毎回「生クリーム」を購入する必要があった。だけど「生クリーム」の「普段は冷蔵庫にないからわざわざ買いに行く」「少ししか使わないから毎回余る」、そして「そこそこのお値段」という、あまりよろしくない条件が徐々に明るみに出てくる。いっちょまえにプライドを持っていた当時の赤間シェフは「生クリームが無いとあの味にならないんだよなぁ」「牛乳で代用してもいいけどやっぱり違うようね」などと、こだわりを見せ始めると、お披露目する機会はどんどん減っていき、いつしかそれは幻のメニューになった。

そんな「赤間シェフのカルボナーラ」が復活した。農家という仕事柄、自分が作っている・作っていないにかかわらず、野菜や果物に関する情報や、それらの素材をどう調理してどう消費するかには人一倍興味があるので、「料理」に関する番組や記事はついチェックしてしまう。「やらないくせに」といつも言われてしまうし、「やりたい気持ちがないわけではない」とも、「作るタイミングが」ともいつも言う。そんな折に、たまたま「カルボナーラ」のレシピを見つけた。どうやら「生クリーム」は使わないらしい。これを読んだ感想は「生クリーム使わなくてもいいのか?」ではなく、「使わなくてもいいのか!」だった。時を経て、どうやらシェフのこだわりはどこかへ消えてしまったようだった。何より、そこに載っていた「カルボナーラ」がとても美味しそうに見えたし、美味しそうな文章だった。最近の世間の風潮の、「うちにいる時間が長くなったから料理でも」というわけではなく、ただ単純にこれは是非作ってみたい!と、そんなふうに思った。

それから数日後、チャンスが訪れた。お昼ごはん前のわずかな時間に、台所に立つ機会を得ることが出来たのですかさずチャレンジ。材料は卵、粉チーズ、ベーコン、パスタ。生クリームは使わない。分量もそのレシピ通りに測り、手順も極力レシピ通り。シンプルな料理ではあったのだけど、僕はと言えばブランクに振り回される。卵を卵黄と卵白に分ける作業。卵を半分に割り、殻に卵黄だけを残して移し替えるようにすれば、卵白は下の器に落ちていく、という基本的なやつで早速失敗した。殻が卵黄に突き刺さり、卵黄が割れて卵白に少し混ざってしまった。こんなことくらい前は簡単にできていたのに…。そして手順を確認するために、スマホを見直そうと思ったら、画面が消えていて見えない!スリープを解除しようとするも、手が濡れてたせいか全然反応しない!…みたいなことをやっていたら、パスタに水分を吸わせすぎ、ソースにも火を通しすぎてしまったような…。最後には、「黒コショウどこ?」の問いに、奥さんから「黒コショウ無いよ」との返事だったりで、終始バタバタしっ放し…。

何はともあれ、およそ昔の「こだわり」とは程遠いカルボナーラの完成。名付けて「赤間シェフのきまぐれこだわりいいわけたっぷりカルボナーラ自画自賛風、黒コショウを忘れて」。これがなんとまぁ、なかなかどうして美味しかった!自分で言うのもなんだけど、塩加減が良かった。レシピには塩加減の見方が丁寧に書いてあったので、そのおかげで適当にならずに済んだのかも。過去には塩を入れすぎてしょっぱくなりすぎたり、入れなすぎて無味だったこともあった。それと比べたらとても上手くいった。また、ソースはもっとゆるめに仕上げたかったところだけど、これもまぁまぁ許容範囲だろう。自分の手際の悪さには我ながらがっかりしたけど、久々だったから仕方ない。でも、久々のわりには上々のカルボナーラだった。奥さんにも合格点をいただけた。ただし、自分には「自分で作った」という、奥さんには「自分以外の人に作ってもらった」というボーナスポイントもしっかり加算されての採点だったことは否めない。それでも、やはり自分で作ると、掛けた手間とか言い訳とか偏見とかのいろんななものがスパイスになって、味にはプラスの方に作用するんだろう。でも、あんなにこだわっていた「生クリーム」はいったい何だったのか…「こだわり」というものは得てしてそういうものなのかもしれない。なんなら今度は「生クリーム」を入れたバージョンでも作ってみようか。何度かやればきっと手際もよくなるだろうし、黒コショウも買っておこう。ソラマメが採れるようになったらそれを入れてみるのもいいかも。妄想はどんどん膨らむものの、次の機会は未定。ローテーションの谷間を逃さず、「リストランテAKAMA」の次の営業可能日への準備だけはしっかりしておこう。

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いつまで続くか、この自粛期間。そうは言っても、実はうちにいる時間が特別増えているわけではない。農家っておそらくそういう仕事柄だし、暖かくなってくればなおさら。それでも楽しみの一つを改めて発見できたことは大きい。そんなふうにして、どうにか今を乗り越えていきたい。それに尽きる。とりあえず今回はこの辺で。それではまたそのうち。

※ちなみに参考にしたレシピはこちらです。よかったらお試しあれ。


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