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書評「アフターデジタル」

藤井保文さん、尾原和啓さん著の書籍「アフターデジタル」を読了。
個人的な備忘録として、簡単な感想とまとめを記載しておく。

1.経緯
友人からの紹介。畳み人と同じタイミングで紹介を受けたため、同時期に購入してみたが、こちらの示唆は多かった。

2.概要
デジタルトランスフォーメーションが日本企業における1つのバズワードになりつつあるが、その本質とはなにか?を中国の事例を中心に紐解いていく内容。上っ面で理解していたデジタル化の実態と、それに伴い世界がどのように変化していくかを追求した1冊であった。

3.要点
アフターデジタルとは、オンラインにつながる、オンラインを活用するではなく、オンラインもオフラインも交えた上で、ユーザが最も価値を見出す方法を選択する世の中のこと。もうこの世界が始まっている。

ユーザにより良い勝ちある体験をさせることができるサービスや商品のみがアフターデジタルの世界では勝ち残ることができる。ワンショットの価値提供ではなく、中長期的な関わりをいかに継続するか、ユーザから取得するデータをもとに素早い改革を重ね、ユーザの選択を自らのサービスや製品に寄せることができるかが重要。

4.理解内容
中国のデジタル化文化の紹介からスタートするが、この事例が本質を捉える良い事例になっている。アリババやテンセントを中心としたデータ収集、ユーザへの価値提供が頻繁に行われ、信用スコアによる国民管理が徹底されている。特に、信用スコアは、日本で言う年収のような役割を持ち、信用スコアにより人々の生活のランク付けがなされている。結婚からローンから何から何まで信用スコアが影響する。

過去、信用スコアの導入を聞いたとき、中国の国民性は大きく改善され、日本もうかうかしてられないと思っていたが、この書ではまさにそれが現実のものとなっていることが記述されている。ここ数年で中国人の国民性は大きく変わったと。ひとえに徹底した監視・データ収集社会(デジタル化)と信用スコアによる効果がもたらしたものであった。

ここで重要なのは、中国人は決して嫌がっていないこと。中国は土地を含め、個人の所有権といったものが薄い民族文化もあり、個人情報やデータも国(もとい政策を推進する企業)に使ってもらうことに抵抗が少ないため、ほぼすべての行動データを企業に提出している状態になっている。

ある意味ゲームのロールプレイングのように自身の信用スコアを高める(経験値を積む)ことが、生活の質の向上(レベルアップ)に繋がることを理解しているため、そのためのデータは提供するし、スコアが良くなるよう行動をあらためる。

信用スコアの話以外にも、収集したデータを活用してユーザに価値として添加されることにより、ユーザは喜んでデータを提供する事例が複数紹介されており、これが本書の言いたいことと捉えた。

中国の特例のように思え、GDPRなど厳しい規制が世界に跋扈する中、現実性があるのか?と思いがちだが、重要なのはユーザがデータを提供したくなるような仕組みづくりである。

ユーザが提供されたデータが、ユーザ自身の価値に転換され、提供の対価に相当するとユーザが思えば、ユーザはデータを提供するだろう。中国の場合、信用スコアという絶対価値を得るために、ユーザは個人の情報を(少しでも点数アップのため)提供する。

このユーザに提供する価値は、常にアップデートされなければ陳腐なものとなり、ユーザが支払う対価にそぐわないと判断されてしまうと、データが提供されなくなり、価値の向上の種も失ってしまう。

加えて、オンラインでなんでもできる世の中になり、オンラインとオフラインの垣根がなくなる(OMO:Online Mearge Offline)。そのとき、ユーザはどちらの選択肢も同一の視点で評価するため、より多くのユーザに受け入れられる価値を提供する手段を常に模索しなければならない。模索には多くのユーザデータが必要であり、ユーザデータを得るためにはオンラインを中心としたアプローチが適する形になる。オフラインを否定しているわけではなく、オンラインの手段で得たユーザの情報をもとに、オンライン/オフラインともに選択肢の1つとして捉え提供することが重要である。

OMOが進みアフターデジタルと言われる世の中においては、
① ユーザに選んでもらえる価値を提供できるか
② ユーザがデータを渡してでも受領したい価値といえるかどうか
③ ユーザのために価値をUpdateし続けることができるかどうか
そのための手段としての顧客接点(オンライン、オフラインともに)であり、顧客の情報をより多く得て価値に転換できるものが勝者になる。そんな世界なのだろう。

5.所感とまとめ
序盤の中国例の紹介を延々と見ているときは、どうなるのだろうと思ったが、最終的に示唆された内容は、非常に有意義なものであった。当たり前のように聞こえるが、オンラインとオフラインの垣根を超えた状態でその当たり前を維持することが如何に難しいかを理解することができた。製造業に携わる身であるが、この流れの中でどこに事業軸を移し、提供する価値をどう変遷させるかが大きな要素になると感じる。MaaSだとか、CASEとか言っている場合ではない。それは手段で本質ではない。

※同書の行き先:自宅保管。しばらくしたのち、見返してみたいと思う。