見出し画像

読書録「ホンダ イノベーションの神髄」

小林三郎さん著の書籍「ホンダイノベーションの神髄」を読了。
個人的な備忘録として、簡単な感想とまとめを記載しておく。

1.経緯
メルカリのザッピングで気になった書籍。ホンダと関係性が近いこともあり、同社を深堀りするために購入。少し前の本で数量も出ていたためか、比較的手に入りやすく金額も安かった。

2.概要
エアバッグの発明および実装、量産まで一貫して携わった小林さん本人によるホンダ文化をまとめた書籍。「ワイガヤ」、「三現主義」などホンダならではの文化の紹介、エアバッグ開発の事例に則ったフェーズごとの展開など、示唆に富む内容であった。

3.要点
個人的に注目したのは、オペレーション(執行)とイノベーション(創造)の違いであり、その違いを明確に描かれている点。

企業の活動は、オペレーションとイノベーションの2つに分かれており、その違いは以下の通り。
 【企業活動の比率】オペレーション:イノベーション=95:5
 【達成期間】オペレーション:イノベーション=1~3年:10年移譲
このため、企業の活動の大半は、オペレーションであり、ある程度定まった業務を進捗させたり、プロジェクトをマネジメントするための業務である。イノベーションは長期的に姿形もない新技術(未知の価値)を追い求め、新しい事業(オペレーション)の種を育み形としていくもの。イノベーションがなければ、オペレーションは生まれない。そのため、イノベーションの活動を継続し、イノベーターを評価することの重要性を説いている。

また、イノベーションのために重要な要素として、「何のために行うのか」という本質をどこまで深堀りして固められているかが大きなものと記されている。

4.個人的な深堀り
① オペレーションが殺すイノベーション

個人的に注目したのは、オペレーションとイノベーションの違いを強調されている点。今回、著者はイノベーションを起こす立場の人間として本書を記載されているが、オペレーションの重要性を問いており、この2つがうまく融合しないと企業の存続は危ういと説いている。

当時(著者の経験では、三代目社長・久米さんの時代:83年~90年)のホンダは、イノベーションに一定の投資を継続し、その意義を認めていた。エアバッグもその1つであり、「交通事故による生存率を上げる」ことをコンセプトにし、長年に渡る開発を勧め実現させている。

しかし、本田宗一郎の血が残る当時でさえ、社内・関係部門・関係会社の壁が厚く、所々で各所との交渉の苦難が描かれている。ここでも、オペレーション的視点に立ったとき、イノベーション的要素の否定が描かれている。

オペレーションは俗に言うMBA的、欧米的な管理手法のことで、いまの日本企業におけるベストプラクティスになっている管理体型全般を指すと捉えている。イノベーションを起こすには、決まりきった管理体系に沿わない人材、特異なことが堂々とできる人材が必要であるため、オペレーションに染まることを良しとは考えていない。

イノベーションがオペレーションの糧になるため、イノベーションに投資をしなくなった会社は沈んでいくと説かれている(そして、これはいまの日本の大企業そのものの姿になっている)。また、イノベーションを担うイノベーターは、具体的な成果が見えにくく、オペレーションを担う人材よりも冷遇される評価体制も良しとしていない。イノベーションを担う人には、イノベーションを起こそうとしていることを評価すべきであり、継続的にイノベーションへの投資を行う必要がある。

② イノベーションを起こすために
もう1つ、イノベーションを起こすために必要なこととして、「根源となる哲学」、「本質」、「コンセプト」の3つを上げており、「何のために行うのか」を徹底して突き詰めることが重要と記されている。

ここの軸がブレると、イノベーションを起こす対象の目的を見失い、説得力の欠けるものを世に送り出してしまう(これが時に凶器となる)危険がある。エアバッグ開発の事例でも、社内外から「何のために行うのか」、「何がしたいのか」を何度も問われ、そのたびに軸となる答えを貫いてきたと書かれている。この軸がどれだけしっかりと考え抜かれ、誰にでも通用する言葉になっているかが非常に重要なのかと思う。

5.所感とまとめ
イノベーションとオペレーションの2つの観点で違いを明確に見いだされ、イノベーションとは何か?を自分なりの理解を深めることができた。合わせて、自分の業務はあらためてオペレーションに寄っており、イノベーター的な行動は本質的には何もできていないことも理解した。イノベーターと触れるとき、イノベーションという言葉が登場したとき、本書の観点をもとに、それらがどこまで突き詰められたものかを理解できるよう糧としたい。

ちなみに、本書の内容は以前読んだ「畳み人という選択」に通ずる話であった。広げ人=イノベーション、畳み人=オペレーションの関係性となる。違いがあるとすれば、本書はイノベーションを起こすのは若い人の特権としているのに対し、畳み人は畳み人から広げ人へのルート(経験が広げ人へとつながる=若くなくても良い)と説いている。

メルカリの500円購入品であったことを考えると、非常にコスパの良い買い物だった。

※同書の行き先:自宅保管。しばらくしたのち、見返してみたいと思う。