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「夢を売る国、夢を叶える国」の巻

■夢を売る仕事
 アメリカには、夢を売る仕事が沢山ある。エンターテインメント産業というのがそれだ。勿論、日本にも他国にない訳ではないが、この国のそれは規模が違う。映画産業を筆頭に、スポーツ、テーマパークやキャラクター・グッズなど、エンターテインメント産業は、子供だけではなく、大人にも夢を売り続けている。
 ディズニーといえば、日本でも大人気だが、やはりメイン・ターゲットは若年層、子供だろう。しかしアメリカでは老若男女、みんなディズニーのお客さんだ。確かに、ディズニーランドなどは、子供づれの家族向け、カップル向けの施設だが、同社では、至れり尽くせりの高級客船の旅を提供するディズニー・クルーズなど、小金を持っている中高年をターゲットにしたビジネスも行っている。
 これは、アメリカにピーターパン症候群の人が多いからだと言う訳ではなく、現実を知っている大人も、一時の夢を楽しもうと言う気持ちが強いからだと思う。
 この国の大人が持つ子供っぽさは、夢を売る人々の格好のターゲットになっている。そして、そういう夢を売る産業に、ローマ帝国が市民に提供した亡国の「サーカス」を感じるのは気のせいだろうか。中下層市民の国家に対する不満のガス抜きが、この「夢産業」につながっているとすれば、かなり大掛かりな仕掛けだ。

■大統領も夢を売る
 一方、大統領も最近は、直接夢を売るようだ。住宅ローン軽減、国民健康保険創設、そして、製造業と輸出に支えられた強いアメリカの復活。口で言うのは簡単だが、そろそろ国民の中では、言葉ばかりが先行して、実際の実りがなかなか見えてこない現状に苛立ちが起こりはじめている。
 バラック・オバマ大統領がノーベル平和賞受賞者に選ばれたのはご承知の通りだが、これが予想に反して盛り上がらなかった。実際、オバマ支持者のリベラルの中にも、まだ何の実績も上げていないのに、という批判がある。共和党の選挙中のキャンペーンでも、実績のないオバマは大統領に不適格という批判があった。保守派の中では、国際左翼が平和賞と言う足かせで、オバマ大統領に積極的な軍事活動を控えさせようとしているのだという声も聞かれる。
 だが、これを書いている時点で、翌年の中間選挙でオバマ大統領に対する不満が一気に噴出する様子はなさそうだった。国民の多くは、まだ、オバマ大統領がばら撒いた一時の夢から目覚めたくなかったということか。
 鳩山由紀夫首相もオバマ大統領の例に倣っていたようだ。空疎で、中身のない言葉をばら撒くのが得意だった。日本人にはアメリカ人よりもっと早く、夢から覚めてもらいたいものだ。

■夢をかなえること
 夢を売る一方で、アメリカでは自分で描いた夢を叶える人も多い。これは、何かにチャレンジしようとする人を後押しする社会構造ができているからだ。この国の弱者救済の仕組みが全て良いことだとは思わないが、少なくとも、自分の意思でどん底からでも這い上がれる仕組みが、この国にはある。
 とあるヒスパニックの夫婦。彼らは空き缶拾いで生計を立てている。以前にも書いたが、カリフォルニア州の場合、空き缶や空き瓶をリサイクルセンターに持ち込めば、ひとつ1セントになる。チリも積もれば山とはよく言ったもので、我が家でも半年に1回位、溜め込んだペットボトルやビールの空き缶を持ち込んでは、数10ドル受け取っている。彼らはこの空き缶拾いのプロだ。そしてその「空き缶マネー」で、息子をハーバード大学に進学させた。勿論、奨学金を得ての話だが。
 その息子が子供の頃、勉強を嫌がったことがある。母はこう言った。「じゃぁ、学校を辞めてもいいわよ。でもその代わり、明日からお父さん、お母さんと一緒に、空き缶を拾うのよ。勉強をしなければ、それしか生きる道はないわよ!」。息子は大きく首を振り、再び真面目に勉強をし始めた。
 不法移民の中には、自分の世代は犠牲になっても、子供の代でマトモになれればよいと、長期的な夢を描いている人も多い。尤も、子供がそれに応えてくれないことも多く、移民の子弟の間で高校中退や英語の未習得が問題になっている。ただ、挫折する自由もこの国にはある。

■私の夢もかなえたこの国
 平成21年12月14日から国防総省外国語学校(Defense Language Institute Foreign Language Center)日本語科で教鞭を執ることになった。2年ぶりの教壇への復帰だ。
 思えば、学部卒業後の大学院進学を断念して教員になり、自分の授業に行き詰まりを感じていた頃に、東京大学教育学部教授だった藤岡信勝代表と出会った。主宰され、後に自由主義史観研究会となる勉強会のメンバーになり、愛弟子の吉永潤神戸大学発達科学部教授(当時は助教授)をご紹介していただいて師事。大学院で教育学の研究を始めたのは、教職に就いてから11年も経ってからのことだった。教員を養成する大学教官を志したが、あと一歩で届かなかった(面接までは行ったのだが…)。渡米後、大学で教える道は完全に閉ざされたと思っていたが、どうやらアメリカは、英語が不自由な異邦人に過ぎない筆者の夢も叶えてくれたようだ。
 学生の大半は米国軍人。日本の大使館や在日米軍司令部に赴任する人が多いらしい。それ以外は、除隊後に大学進学を考えて、外国語の単位を取りに来る若い兵隊さんたち。彼らに、言葉のみならず、真の歴史や文化を知ってもらい、本当の意味での日米友好を構築するための手助けができればと思っている。
 これに伴い、サクラメントからモントレーに宿替えをすることになった。このエッセイのタイトルも、それにあわせて変更しよた。引き続きこのnoteの記事も、米軍に勤務するシビリアンというちょっと変わった目線も加えて楽しんでいただこうと思う。今後ともご愛読をよろしくお願いします。

『歴史と教育』2010年1月号掲載の「咲都からのサイト」に加筆修正した。

【カバー写真】
 ハワイ火山国立公園の中でみかけたダブル・レインボー(2015年3月27日)。仕事柄毎日のように国立公園に入っていて、毎日のように虹を見ていたが、こんなにくっきりと見えるのはちょっと珍しかった。この後、いいことがあったかどうかは、忘れた。

【追記】
 昔からそうだが、アメリカのエンターテインメントは、ローマ帝国末期に下層市民に「パン」と共に与えた「サーカス」と同じだ。そこに夢を見つけ出せば、現実が悲惨でも逃避できる。「パン」は下層に行くほど潤沢なセーフティ・ネット。ホームレスは地べたで死ぬことは許されない。中産階級が躊躇するのをしり目に、有料の救急車で総合病院に運ばれ、手厚い看病を受けられる。「支払えないなら無料」というのがこの国のシステムだ。その金は中産階級の税金だ。さて、あとアメリカ崩壊に必要なのは何か。「ゲルマン人の侵入」と「傭兵」だろう。現代のゲルマン人は米墨国境に五万と待機している。バイデン政権は現在アメリカにいるという3000万を超える不法移民に10年以内に市民権を与えるという法案を出すという。自殺行為だ。彼らがアメリカの国防を担う中心に立ったとき、アメリカは確実に崩壊するだろう。
 名前は忘れたが、2000年前後に、22世紀初めに世界地図はどうなっているかという予想を掲載した雑誌があった。詳しいことは覚えていないが、その世界地図には、アメリカ合衆国が3~4の国に分裂する姿が描かれていた。当時は笑ってみていたが、それから20年たって、現実めいてきたことに衝撃を受けている。アメリカが自由の国であり続けることは難しいだろう。その国では夢は叶わない。さすれば、本当の自由を求める人は、行動に移す可能性がある。その日アメリカは、ひとつではなくなるのだ。

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