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「スープ大国アメリカ」の巻

 ちょっとだけ昔話に付き合ってほしい。50代の大阪人なら思い出せると思う。
 京橋駅(大阪市都島区)で大阪環状線の大阪方面行き内回り電車に乗ると、駅を出てすぐ進行方向右側に淀川電車区へ伸びる線路があった。未知の路線というものは大人でもわくわくするものだ。その先にある車庫には、遠目に古ぼけた電車が見えている。子供心に、「この線路を行ったら、車庫に行くまでにどんな景色が見られるのか」と思わせたものだ。
 同じ側の窓を引き続き見ていると、今度は巨大なアイスクリームのカップが見えた。雪印乳業の工場だった。給水タンクとおぼしき巨大なアイスクリームは、大人をわくわくさせるものではなかっただろうが、子供にとっては夢のようなオブジェだった。 ハーゲンダッツもコールドストーンもない時代、「メーカーもん」のアイスクリームは、おやつの王様だった。「あそこにはきっと、甘くて白いアイスクリームが詰まっているのだ」。幼いころはそう信じて凝視していた。まさかその雪印の工場が不祥事で閉鎖になるとは夢にも思わなかった。
 こういうオブジェで有名なのは伊丹空港へ向かう阪神高速池田線から見えるチチヤスヨーグルト。キャップの印刷までマニアックに再現してある。

 さて、本題だ。その雪印アイスクリームやチチヤスヨーグルトのような、大きなオブジェをサクラメントで発見した(2008年1月16日撮影)。かの有名なキャンベルスープの工場にある、やはり給水タンクと思しきものだが、実際の缶とは似ても似つかない妙なカタチだ。アメリカ人らしいいい加減さだ。
 キャンベルは、読者もカルディなんかでよく見かけると思う。アンディ・ウォホールの版画でも有名だ。沖縄では、地元スーパーでしばしば安売りがある。種類はクリームマッシュルーム、チキンヌードル、ベジタブルの3種類だが、在米時代からクリームマッシュルームは気に入ってよく使っている。スープとしてよりも、パスタやグラタンに使うことの方が多い。
 キャンベルに限らず、アメリカのスーパーに行くと、缶入りスープがやたら並んでいる。また、スープバーがあるところも多い。日本ではスープは添え物の印象が強いが、アメリカでは立派なメインになることもある。そして、それが食卓に並ぶ前は、缶の中に入っているということは日常茶飯事である。
 9年間も続き、今も全米で再放送され、先ごろ、レゴでそのセットが販売された伝説のアメリカコメディーの最高峰「Seinfeld」(邦題は「隣のサインフェルド」)で一番人気があるエピソードのひとつが「Soup Nazi」。ナチの収容所のように並ばされて食べる激うまスープの話題。アメリカ人はスープが好きなのだ。
 言っておくが、缶入りスープが不味いと言っている訳では決してない。
 缶入りスープを筆頭に、実はアメリカで驚くのが、手抜き食品の意外な旨さなのだ。勿論これは、C級グルメの話であって、レストランと比べてどうかとかいう話ではない。レストランやマックにさえ寄る気力もなく、くたくたに疲れて帰っても、冷蔵庫にあるTVディナーや食品の戸棚にあるキャンベルの具沢山のスープがあれば、少なくともその夜は十分にしのげる、という程度のものだ。日本ではコンビニの弁当や総菜が侮れないというのと同じだ。
 筆者のお気に入りのスープは「ガンボ」である。教え子の海軍士官に、元コックという人がいたので、頼んでレシピを書いてもらったが、とても材料を揃えられないので断念した。このように材料や香辛料をそろえるのが難しいものなど、ついつい安売りのときに買い込んでいた。実は、帰国前に買って持ってきたガンボ(キャンベルのではないが)が1缶、まだ我が家のパントリーにある。開放日に米軍基地内のスーパーで探したが見当たらなかったので、開けるのが惜しくて、タイミングを逸してしまっている。もちろん、賞味期限は過ぎてしまった。

拙ブログ『無闇にアメリカに来てはいけない』より「もう少しリアルに」(2008年02月12日 07:58付)に加筆修正した。

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