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「アファーマティヴ・アクションは利権につながる」の巻

■謝罪したオバマ大統領
 2009年6月初旬に行われた、バラック・オバマ大統領の中東・欧州歴訪。ネットで見る限り、日本の報道は、少なくとも見出しレベルでは、「謝罪」についての言及はなかった。大統領の中東和平への意欲(尤もそれは、歴代大統領が試みて、その度に失敗してきた「鬼門」でもあるのだが)は兎も角、イスラムへの融和の為に、「敵」へ謝罪したこと、或いは、「アメリカは回教国」と称したことに対して、保守派の論客は厳しく大統領を糾弾している。一部では、共和党の次の指導者に最も相応しいとまで言われている人気パーソナリティーのラッシュ・リンバー(Rush Limbaugh。メディアは「リンボー」、産経の古森義久記者だけは「リムバウ」と表記しているが、発音に近いようにリンバーとする)などは、大統領ともあろう者が謝罪をするとは「幼稚だ。子供じみている」とけんもほろろだ。
 確かに国際社会において、謝罪をすることに如何ほどの意味があるのかということもあるが、謝罪するならば、それに見合った対価を支払わねばならないというのが国際社会の常である。謝罪は利権につながる。オバマ大統領は日本政府の愚行からは、どうやら何も学んでいないようだ。
 しかし以前書いたように、彼がここで謝罪をしたからといって、原爆の大虐殺や「東京大虐殺」(筆者は東京大空襲をそう呼ぶ)を謝罪する日が来ると思うのは間違いだ。それはアメリカの正義を否定することとなり、この国が構築してきた戦後社会のパラダイムを崩壊させてしまう危険があるからだ。また、もしも本気で謝罪を期待するのであれば、日本側が面と向かって要求する必要がある。だから、筆者は日本に対する謝罪は100%ないと考えるのだ。

■ヒスパニック票を見越した最高裁人事
 内政でもオバマ大統領の政策には風当たりが強い。一向によくならない景気やGMの事実上の国有化などの問題もあるが、連邦最高裁判事の後任人事については、これを書いている6月中旬でも、まだ燻っている。
 5月26日にオバマ大統領が指名したのは、ソニア・ソトマイヨール。ある意味でこの女性は「立志伝中」の人物だ。彼女は米領プエルトリコで生まれたヒスパニック。幼い頃に父を無くし、貧しい母子家庭で育った。その環境でプリンストン大学、エール大学法科大学院という、学費の高い私立名門大を卒業・修了しているということは、成績優秀な学生に与えられる返還不要の奨学金を受けていたことは間違いない。彼女は、法曹界へ進み、今回その頂点に立つことになった。
 今回の人事について筆者は、自らが人種の壁を崩したと自負するオバマ大統領が、新たな壁にチャレンジしたというアピールをすること、そして、黒人よりも人口が多くなったヒスパニック票の取り込みの2点が目的だと考えている。票への期待があるから、この連邦最高裁判事人事を判断する上院では、一部保守派の抵抗はあっても、最終的に原案通り承認されると考えられている。共和党とてヒスパニック票を気にせざるを得ないのがアメリカの現状だ。
 さて、その抵抗の根拠は、一部日本でも報じられていたようだが、ソトマイヨールの舌禍にある。彼女は2001年にカリフォルニア大学バークレー校(カリフォルニア州にある公立大学で最も優秀だが、その一方で左翼の巣窟としても有名)で行った講演で、「白人男性よりもヒスパニック女性の方が適切な判断ができる」と、人種差別としか言いようがない発言を行っている。オバマ政権サイドやリベラル派は、これは笑いながら述べた話、つまり「ジョーク」だと、もみ消しに必死だが、彼女が公平を要求される判事にふさわしくないと言う主張は、この発言を見る限り言いがかりとは言えまい。
 日本では誰が最高裁判事に指名されようが、国民の大半は関心がないだろうが、この国では、国論を二分するような事柄(同性婚や妊娠中絶問題などはその最たるものだ)が多くあり、誰が指名されるかは大きな問題だ。ただ、彼女が上院に承認されても、現在の最高裁における保守対リベラルの人数構成は変わらない。だからこそ今回の問題は、まさに彼女の資質に関わることだと主張されている。

■差別と逆差別
 異なった階層間、特に人種間、民族間の争いには、「玉虫色の解決」というのはなかなか難しい。そして、差別されていた側が強者に回ったときには、これまでの「損害」を取り戻そうとするし、また政権側もそうすることでなだめようとする。これは、アメリカの黒人やアメリカ原住民(いわゆるインディアン)、そしてヒスパニックの例を見る迄もなく、日本での解同や総連による「利権」獲得過程を見てもよくわかる。
 アファーマティヴ・アクション(Affirmative Action。積極的差別是正策)という少数派に対する「えこひいき」も、その「利権」のひとつだ。殆どの大学では、人種や性別による人数の枠が決まっており、実力が劣っていても、マイノリティであるという理由で優遇される。 
 大会社の採用でもこの「えこひいき」は存在している。2003年、『ニューヨーク・タイムズ』(これまた左翼の巣窟だが)に於いて、この制度で採用された若い黒人記者が、記事を大量に盗用していたという問題が発覚した。多分同じようなことが、企業内でいろいろと起こっていることだろう。能力のない者が優遇され、「強者」とされる白人男性にしわ寄せがいった為、彼らに潜在的な不満が渦巻いているという。実際、この制度が始まってから、白人男性の犯罪率は上昇している。
 オバマ大統領の謝罪が、黒であったものを白に、白であったものを黒に、一気に変えてしまう、オセロゲームのような転換をもたらすのではないか。保守派のそんな警戒は、決して杞憂ではなかろう。

『歴史と教育』2009年7月号掲載の「咲都からのサイト」に加筆修正した。

【カバー写真】
 グランドキャニオンで、観光客にダンスを披露するアメリカ原住民(インディアン)の老婆。アメリカ政府が彼らに謝罪した後、補償として多くの「利権」を得たが、カリフォルニアでは財政難のこともあり、この「利権」に対する風当たりが強くなっていたが、果たしてその後どうなったのだろうか。(撮影:筆者)

【追記】
 オバマのやり口は、まさに2020年の大統領選挙とその後の流れを予言しているかのようだったことに、我ながら驚いている。今、アメリカの連邦最高裁は完全に機能不全に陥っている。もしかしたら、そのほころびはこの時に始まってたいたのかもしれない。いずれにしてもアメリカの左傾化は、この頃にははっきりとグロテスクな姿を現していたのだ。
 そうやって考えると、こうして過去の記事を再構成して公開することにも、強ち意味がないわけでもないような気がする。メディアが絶対に示したがらないであろうアメリカの崩壊過程を、市井の人間の記録で辿れるのだから。

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