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「アメリカでもNHKは虚報を巻きちらす」の巻

■アメリカテレビ事情
 アメリカのテレビは、4大ネットワーク(ABC、CBS、FOX、NBC)とその他の地方局、そしてケーブル・衛星局に大別することができる。
 TVドラマも映画と同様、テレビ局に著作権がない場合が多いので、局を跨いで自由に売り買いされていて、人気ドラマは、いろんな局で、いろんな時間帯で視聴可能だ。日本でも放映されていた「フレンズ」、「ER」、「Xファイル」など、何年たってもテレビで再放送を観ることができる。
 アメリカの殆どの番組には、クローズド・キャプションという英語字幕がついている。テレビ側でキャプションをONにしておくと、テレビを見ながら英語の勉強ができる、というよりも、早口の英語も理解しやすい。
 聞くところによると、アメリカのテレビ放送は、出力が弱いらしく(正直にいうと、こういった話にはトンと弱いので、半分意味がわからないで書いているのだが)、普通のアンテナだけでは、きれいに映る局に限りがある。サクラメントの場合、4大ネットワークでさえUHF局になっている場合があって、室内アンテナでは3局しか受信できないという有様だ。
 筆者はテレビがそんなに好きな方ではないのだが、やはり番組が少ないと寂しく感じるので、衛星放送の視聴契約をすることにした。日本のケーブル・衛星局でも人気がある「ヒストリーチャンネル」のマニアックな歴史探究モノや「サイファイ(SF)」で見る、モノクロの「トワイライトゾーン」などは、ぼやっと時間をつぶすのには持ってこいだ。何よりも、地上波では観られない、ロサンゼルス・ドジャースの試合結果のニュースを観られる。スポーツニュースは全てローカル放送なので、地元チームの結果しか報じないのだ。

■「TVジャパン」への失望
 それと同時に、NHKの国際衛星放送、「TVジャパン」も申し込むことにした。NHKは嫌いだが、ここでは他に日本語放送の選択肢がないからだ。
 旅先のハワイで「キク・テレビ」や、ロサンゼルスで「フジ・サンケイ・ネットワーク」の番組をご覧になった経験がある読者も多いと思う。これらの局は、1日中放映している訳ではなく、多言語の番組を放映している放送局の枠を買って、1日数時間だけ放送している。時間がずれると、ペルシャ語や台湾語の放送を観なければならなくなる。
 ロサンゼルスに住んでいた時には、「フジ」の放送があったのでそれで充分だったし、地元日本語放送局・UTVが放映する、高校の放送部が作った番組以下の番組を、けちょんけちょんに貶しながら観るということも可能だったが、サクラメントのような田舎町(州都だが、LAとは比べ物にならないほど小さな町である)に来ると地上波の日本語放送はない。だから正直に言うと、一寸だけ期待しながら「TVジャパン」の640番にチャンネルを合わせてみたのだった。
 「TVジャパン」のニュース番組はNHKのものをそのまま放映しており、もともとスクランブルはかけられていない。つまり無料視聴できるので、ここでの期待とは、有料で見るNHKの番組と、NHKが他局から買い付けた、その他の番組に置かれている。
 後者の中には、及第点の番組もあったが、NHKの番組に対する幽かな期待は見事に裏切られた。偏向著しいNHKに期待する方が悪いと読者にお叱りを受けそうだが、その辺は海外在住日本人の弱さである。
 日本のテレビなのに、韓国のドラマの吹き替え版を放映する意味が分からない。衛星放送では24時間無料で視聴できる韓国語放送がある(NHKよ見習え!)のに、誰が金を払ってまで韓国ドラマを観たいと思うのか。これでよく「TVジャパン」を名乗れるものだ。

■出鱈目なアメリカ像
 知ったかぶりでアメリカを取り上げる番組にも怒りを覚える。中でも酷かったのが、2007年3月29日(日本では元日)に放映された、地球特派員スペシャル「地球マップ2007 『格差』と『競争』にどう立ち向かうか・アメリカ 格差社会の底辺で~ワーキング・プアの現実」という番組である。
 オウム真理教報道で名をはせた江川紹子を「地球特派員」として、格差社会アメリカの象徴(だと、NHKが決めた)ロサンゼルスに「派遣」したというが、取材とは名ばかりで、事前に制作会社が決めたと思しきポイントを回っただけに見えた。
 江川は最初、元弁護士で、不動産で巨万の富を築いたひとりの青年実業家を訪ね、その豪奢な生活に触れる。彼を紹介しながら番組は、LAを中心とする不動産価格の高騰が市場をリードし、南カリフォルニアが活況を呈していることを報じた。だがその一方で、貧富の格差が拡大し、深刻化し、その底辺にいるのが、「ワーキング・プア」と呼ばれる人たちだと言う。
 だがワーキング・プア(working poor)とは、簡単に言えば、啄木ではないが、文字通り、働けど金がない人を指す。本物の底辺の人は、基本的には働いておらず、様々な扶助で、ある意味で豊かに暮らしていることを知らないのだろうか。察するところ、NHKは耳新しいこの言葉を使いたかっただけなのだろう。そしてこの番組は「working poor=底辺」という前提で進んでいくのだった。【この項続く】

『歴史と教育』2007年3号掲載の「咲都からのサイト」に加筆修正した。

【カバー写真】
 昨シーズン大詰め、ドジャースタジアムのベンチで、試合前に斎藤隆投手(当然左)にインタビューする筆者。どさくさに紛れて選手の更衣室ものぞいてきた。半年間在米日本語メディアの記者をしたので、憧れのMLBのグラウンドに入って取材できたのは夢のようだった。

【追記】
 日本国内だって、Youtubeや各社の有料サイトで、NHKなんかよりもっと興味深い日本語の映像を見ることが簡単になった。アメリカの日本語テレビ事情はもうかなり変わっているかもしれない。

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