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「ボストンにあるバスの駅」の巻

★135 バスの駅

 2010年4月24日、時差の関係もあり、ほぼ丸1日かかってボストン国際空港に着いたら、預けたスーツケースが出てこなかった。
 アメリカの国内線ではよくあることなのだが、当時旅をするたびに荷物が出てこないという悲劇に見舞われていた。この直前に急用ができて日本に帰ったときもそうだった。急な話だったので、あわてて探した一番安いチケットがデルタのホノルル乗り継ぎだった。いやな予感がしたので、ホノルル空港で念のために確かめたら、大丈夫だと太鼓判を押された。で、関空についたら、出てこなかった。
 当然怒り爆発! 
 地上係員に怒っても仕方がないが、あの太鼓判はどこへ行ったのだ。で、ボストンでも、そのときの記憶がよみがえってまた爆発。
 パートと思しき婆さんに、「明日仕事なのに、服はどうするんだ。下着はどうするんだ。全部請求する」と言ったら、それは無理だと言う。で、上司を呼べといった。10分ほどして現われた上司に事情を説明すると、彼は筆者の荷物をトラッキングして、「まだどこにも届いていないから、後続の便で来るかもしれない」と言う。で、もう一度信じてやろうと腹をくくり、待つことにした。
 果たしてその言葉通り、筆者が乗り換えたリノで、荷物はバルティモアへ運ばれて、そこで奇跡的に最終のボストン行きに載せかえられて、届いたのだった。
 その間1時間半ほど。航空会社はお詫びのしるしにと、トラベルバウチャーをくれたが、それよりも深夜なのに空港からダウンタウン行きのバスがあるかどうかが心配だった。
 ようやくここからが今回の本題である。
 しかし、それは杞憂だった。シルバーラインという空港バスが、ちゃーんと待っていた。これに乗ると、ダウンタウンまでいけて、そこから地下鉄や郊外電車に乗換えができるという。最初路線図を見たときは、地下鉄がレッドラインとか、ブルーラインとかに色分けされていて、そこにシルバーラインもあったから、電車かと思っていたのだが、トロリーバスだった。
 バスそのものは普通のバス。トンネルを通って、ダウンタウンに出ても、専用道路をずっと走って、筆者が降りた停留所は、この写真(2010年4月25日撮影)でもわかるように、ほとんど駅だった。切符売り場も、改札口もある。LAの地下鉄の駅より、よっぽど駅らしかった。
 この発想は、名古屋市の「ゆとりーとライン」と同じだ。その沿線に一時期住んでいたので知っているのだが、違うのは、ゆとりーとの場合、法律上は「電車」扱いなのだが、乗り降りの仕組みはバスそのもので、さらに専用の高架を降りたらまったく普通の市バスになってしまうということだ。
 しかしボストンのそれは、明らかにライトレールの代わりにバスを走らせているという発想で、扱いも全く電車と同じだった。
 LAにもバス専用のレーンを走る、バスの路線がある。地下鉄の終点のノース・ハリウッドからの延長線上にある。開通当初は、自動車を運転するドライバーが混乱し、そのレーンとの交差点でよく事故を起こしていたようだ。公共交通の整備が叫ばれている昨今のアメリカの大都市で、ライトレールよりも安上がりだという発想で、「バスの駅」をつなぐ専用線を走る路線は他でも整備されているのだろう。特に、空港には車で行くという発想しか基本的にないカリフォルニアと違って、都心部での公共交通のネットワークが充実している東部の場合には、空港への公共交通の整備は重要だ。
 この記事を最初に書いた当時、筆者が住んでいた郡(カウンティ)の広報で、将来的なライトレールの整備計画が書かれていて驚いたことがある。その計画路線は、今も残るかつての鉄道の廃線後をなぞるように走っていて、土地の確保も必要ない。こちらも計画段階だが「カリフォルニア新幹線」と接続すれば、それなりの需要は見込まれると思うが、広報紙には「そのための予算は未整備」とあった。
 カリフォルニアの財政は今も昔も危機的状況だ。やはりライトレールよりも、バスの駅の方が、まだしも現実的なのかも知れない。

拙ブログ『無闇にアメリカに来てはいけない』より「バスの駅」(2010年06月20日10:39付)に加筆修正した。

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