よく知る誰かの知らない顔『Shenmue the Animation』第2話「彼誰」

『Shenmue the Animation』第二話「彼誰」について感想を書く。
第一話「霹靂」はこちら
https://note.com/reddot/n/n0fa8209421ff

沙花から見た「彼誰」

冒頭、中国の山奥、桂林の白鹿村に住む少女・玲沙花(レイ・シェンファ)の様子が描かれる。これは第一話から引き続いている演出だ。彼女が村の老婆を訪ねると、老婆はその場にいた子供たちへ古くからの言い伝えを語る。それによれば、いずれ東の国からひとりの若者が海を渡ってやってくるという。おそらく沙花も幼い頃から聞いている話なのだろう。
沙花にとっての「彼誰」とはいつか出会う芭月涼のことだ。ゲーム『シェンムー 一章 横須賀』で涼の夢に現れる謎の少女として登場した沙花は、シェンムーの象徴と言える存在だ。しかし裏を返せば、『一章』の時点では象徴でしかなかった。アニメ版では短いながらも彼女の生活の様子が描かれ、視聴者にとってより近しく感じられる人物となっている。第一話を視聴した時にも抱いた感想だが、これは2022年現在、『シェンムーⅢ』が存在しているからこそできる描写であり、また三年越しにゲーム版の最新作をプロモーションしているとも取れる。

涼から見た「彼誰」

涼にとっての「彼誰」とは父・芭月巌のことだ。
彼が知っている巌の姿とは強く大きく、正しい男として映っていた。しかし前話で父は武術によって倒され、さらに人殺しであると告げられてしまい、これまでの父親像を否定される。第二話は、涼がこれまで信じていた父親像とは何だったのかを彼自身が探るものとなっている。
涼は前話のラストに巌宛の中国語の手紙を受け取り、横須賀の街で手紙を読める人を探し始める。流れとしてはゲーム版とほぼ同様だが、シナリオ上直線的に父親の仇・藍帝を追っていたのがゲーム版だとすれば、アニメ版は「父親とは何者だったのか?」に重点を置いて描いている。
もちろん、父親のことを知るという描写はゲーム版のメインストーリーにもあるほか、プレイ中にはキャラクターとの会話や環境ストーリーテリングとして配置されている。ただゲーム版『一章』では涼の主観としての父親像があり、それが強固でぶれない為、巌のことを思い返す毎に仇への憎しみを涼は抱く。一方で、アニメ版は芭月巌の像を揺らがせた。それは前話で涼が生前の父へ発した「訳わかんないな」という軽口や、今回の話で山岸さんに父の過去を聞く描写から見て取れる。自分が何も知らぬまま没した父について、少しでも知りたいという欲求がアニメ版の涼に強く作用している。なお第二話で涼はチャーリーという人物を探すが、チャーリーとは何者か?という意味とも重ねられる。

プレイヤーから見た「彼誰」

アニメ版で登場人物たちが見せる表情はゲーム版だけでは見ることのできなかったものばかりだ。
第一話のファーストインプレッションでも書いたように原崎望がより主体的に関わろうとするため、ゲームに比べ涼の対応も柔和になった。第二話では原崎が手紙を読める人探しを買って出て、涼もそれを任せている。ゲームシステム上の都合もあるが、もし同じことを提案されても、ゲーム版の涼と原崎の関係であればまず断られていただろう。また大学進学について問われた際の涼の表情は、藍帝のことしか頭になかった頑なでストイックなゲーム版とは大きく印象が異なるし、回想シーンで登場する少年時代の涼の生意気さは、ゲーム版で言及された「イガグリ涼坊」というあだ名を補完し、これまでに無い印象を抱かせる。
第二話において重要人物となる山岸さんもゲーム版とは印象が変わる人物だ。生前の巌と親しく、父のことを語ってくれる人物であることはゲーム・アニメともに共通するが、なぜ山岸さんが涼を気にかけ、技を教えてくれるのかということを、アニメ版は違う角度から見せてドラマにしている。
彼が涼の身を案じ、あえて手紙を読める人の情報を伏せていたというアニメ独自の改変は巧みで、ゲーム版のプレイヤーとしても唸るものがある。
アニメ版ではこのように各人の群像を描いたうえで涼との関係性を見せ、街というコミュニティを感じさせている。涼の視点から街や人々を見渡していたゲーム版と違う方法で、街の全体像が浮かび上がる。

『Shenmue the Animation』はこれまでシェンムーを遊んできたプレイヤーにとって「彼誰」と思わせられるアニメだと第二話を観て感じた。ゲーム版の人物に強く抱いていたイメージがアニメ版では程よく崩され、まるで昔から知っている人の知らない一面を見た気分になる。今後、各話毎に一人ひとりの人物たちにスポットが当たり、彼ら個人の内面が描かれるのかも知れない。もしそうならばシェンムーという作品の幅はより広く深くなっていくのではないかと想像し、期待している。

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