「新種の妖怪」改訂版
※こちらは、2020年7月のオンライン個展内で発表したファンタジー私小説に修正を加えたものです。
新種の妖怪
「生まれ変わったら何になりたいですか?」
唐突なこの質問に、わたしの頭の中ではこんなことが繰り広げられていた。
***
子どもの頃、
「生まれ変わったら絶対鳥になって自力で空を飛んでやる」
と思っていた。
しかし、大人になるにつれてその願望はだんだんと薄れていった。
特に、群れを離れてしまい置いていかれた渡り鳥なんかを見ると、
「ああ自分は多分この1羽になるタイプ・・・」
と思ってしまう。
それでもやっぱり、ここは「鳥」と答えるべきか?
いや、待てよ。
「生まれ変わる」ということは一回死んでいる?
そうだとすると、必ずしもこの世の何かになる必要もないのでは?
その時、わたしの顔面だけがふわりと天井まで浮かび上がる。
見下ろすと自分の「本体」が椅子に座っている。頭もちゃんと残っている。
そして、近くにあった鏡を覗いてさらに驚く。
わたしは、ドレープカーテンの妖怪になったのだ。
***
顔面サイズのドレープ妖怪であるわたしは、カーテンの裾をひらひらとはためかせながら空を飛ぶ。
街中にいる大人たちの顔を突然覆っては驚かせ、幼い子どもに近付いては一緒に遊び、飽きたらまた空高く舞い上がってダンスする。
そんなことを繰り返していたら、空からぽつぽつと雨粒が落ちてきた。
最初はそれほどでもなかった雨は、だんだんと強くなってくる。
わたしは逃げるように屋内へ移動し、気付けばどこかの店内を彷徨っていた。
すると、人間が大勢群がっているところがあった。
好奇心でふわふわと近付いてみる。
人間たちは、何やらじっと床の辺りを覗き込んだり、仕切りにスマートフォンで写真を撮ったり。
わたしにはそいつらが空っぽでつまらない奴らに思えたので、そのうちの一人に悪戯を仕掛けてみた。
「うわっ!なんだ!前が見えない」
すると周りからわたしの仲間とも言えるようなドレープカーテンの妖怪がたくさん現れて、皆でその場にいた人間たちの顔を覆いはじめる。
「何これ!顔になんかついてる!」
「ちょ、やばいって、目見えないしなんか気持ち悪いし・・・助けて、誰か」
わたしとドレープの妖怪たちは皆でクスクスと笑った。
***
「・・・あのう、大丈夫ですか?
ところで、生まれ変わったら何になりたいかという話なんですが」
わたしは、気付けば椅子に座っていた。
手足もあって、目の前には先ほどの質問者が。
「・・・え?あ!はい!すみません!
・・・ね、猫がいいです!
飼い猫として一生穏やかに暮らしたい!
です!」
***
ドレープカーテンの妖怪。
死ぬまでこのモチーフを描き続けたら、なれる確率は上がるはず。
なんの根拠も無くそんなことを思い浮かべる。
突然人の顔に被さったり、鏡に写った姿が顔面にドレープのかかった状態に見える悪戯をしたり、そんなことをして永遠に遊ぶ。
ちょっとびっくりさせる程度で、あんまり酷い悪事をはたらくことは無い微妙な妖怪。
おそらく、妖怪図鑑に載ることも無いだろう。
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